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Marmite
Love it or hate it
Marmite(マーマイト)は、イギリスで広く知られている黒くて粘り気のあるスプレッド(パンに塗るペースト)で、主成分はビール酵母の抽出物(yeast extract)です。その強烈な風味のため、
「Love it or hate it(大好きか大嫌いか)」
という公式スローガンが象徴するように、非常に好みが分かれます。
🧂 Marmiteの基本情報
Marmiteは日本には、というか普通の日本人にはまったくと言っていいほどなじみがないと思います。くまも存在は知っていますが、食べたことはありません。そこでMarmiteの基本情報を書いてみました。
- 製造元:ユニリーバ(Unilever)
- 風味:非常に塩辛く、旨味(グルタミン酸)たっぷり。発酵的な香り。
- 用途:トーストにバターと一緒に塗る、スープや料理の隠し味、チーズと組み合わせるなど。

🏛️ 階級的好みの分かれ方
さて、このMarmiteがなぜ「階級文化」と関係があるのでしょうか?
Marmiteが階級文化と結びつくのは、以下のような社会的・文化的背景からなのです。
- 味の教育と育ちの差
Marmiteの風味は幼少期から慣れていないと受け入れにくいものです。イギリスでは、労働者階級や中流家庭でMarmiteが朝食に登場することが多く、子供の頃から食べ慣れている傾向があります。
一方で、上流階級や教育を重視する家庭では「フランス風の朝食」(クロワッサンやマーマレード)や「オーガニック志向」など、やや洗練された食文化に寄ることもあり、Marmiteのような「ベタな国民食」は避けられる場合もあります。 - 広告とイメージ戦略
Marmiteは、自らの「好き嫌い分かれる」性質を逆手にとって労働者階級のリアルで大衆的な味覚をユーモアで売りにしてきました。
この自己パロディ的な広告は、「Marmite=庶民的」「気取らない」イメージを強化しています。 - スプレッド戦争と紅茶文化との交差
イギリスの朝食文化において、紅茶とスプレッドは密接です。たとえば、「ジャム+アールグレイ」vs「Marmite+ミルクティー」というように、朝のテーブルの選択が階級的好みを反映することもあります。
Marmiteは紅茶の相方としては万人受けせず、味覚的にも階級的にも「クセが強い」ポジションです。
🎭 文化的参照例(ユーモア・階級皮肉)
The GuardianやBBCの記事でも、しばしば「英国的味覚の境界線」としてMarmiteが引き合いに出されます。
イギリスのコメディ番組や風刺でも、「Marmite好き」は庶民的・田舎的なキャラクターを象徴することがあり、「洗練されてないが誠実」という属性と結びつけられることが多いのです。
🍽️ 紅茶文化との接点
Marmiteは、イギリスの紅茶文化における庶民的な朝食の風景と結びついています。たとえば、
Builder’s Tea(強くてミルク多めの紅茶)+トースト+Marmite
というセットは、まさに労働者階級的な味覚の象徴とも言えるでしょう。
「Marmiteが好きか嫌いか」で、ある種の文化的・階級的コードが見えてくるのは、いかにもイギリスらしい現象です。次に英国的言い回しを拾ってみました。
💬 代表的な使用例
🇬🇧 イギリス風皮肉あり
Marmite is less a condiment and more a test of character.
(マーマイトは調味料というより、人間性を試すリトマス紙です)
😏 社交皮肉系
Serving Marmite at breakfast is a quick way to find out who your real friends are.
(朝食にマーマイトを出せば、本当の友人かどうかすぐわかります)
🎩 階級文化に引っかけた風刺風
The upper-class spreads caviar; the middle-class debates jam or marmalade. The working class? Marmite—if they dare.
(上流階級はキャビアを塗り、中流階級はジャムかマーマレードかを議論する。労働者階級?マーマイト──覚悟があれば、ね)
🫖 紅茶との対比で粋な洒落
Tea brings the British together. Marmite reminds them they’re still different.
(紅茶はイギリス人をひとつにするが、マーマイトはその違いを思い出させてくれる)
☕紅茶文化と組み合わせると
You can have a civilised discussion about tea preferences.
Marmite, on the other hand, is simply something one learns to accept.
(紅茶の好みは話し合える。マーマイトの好みは、ただ受け入れるしかない)
🎩 ニュアンスの解説
- “civilised discussion” は皮肉と敬意が両立する英国風フレーズです。
- “on the other hand” の穏やかな対比が、イギリス人らしい感情の表現を抑えた転換です。
- “something one learns to accept” は、“分かり合うものではないが否定もしない”という寛容という名の距離感を含んでいます。
総合すると、なんとも「英国的あきらめの美学」が伝わってくる例文です。