紅茶と階級と食文化(2)

Arctic roll

contents

イギリスの食文化における階級的特徴

🫖階級の映し鏡としての紅茶
“Builder’s Tea vs. Darjeeling with Lemon”

☕Builder’s Tea — 労働者階級の「命の一杯」

Builder’s Tea(ビルダーズ・ティー)は、イギリスの建設作業員や現場仕事の人々が、がぶがぶ飲む濃くて甘いミルクティーのことです。名前の通り、“労働者(builder)たちの紅茶”という意味です。

茶葉は安価なブレックファストブレンド(CTC加工)が中心で、マグカップにティーバッグを無造作にドボンと入れ、抽出時間は長めでしっかりと出します。それに牛乳と砂糖をたっぷり入れて飲むのが定番です。味よりも「覚醒」「力が湧く」ことが大事です。

💬Builder’s Teaをさす言い回し

“Proper tea, none of that fancy nonsense.”
(ちゃんとした紅茶だよ、気取ったのじゃなくてな)

階級的意味合い
→ 庶民の滋養・労働の相棒・「気取らない男らしさ」の象徴という感じです。

🍋Darjeeling with Lemon Slice — 上流階級の香り

対して、ダージリン+レモンスライスは、ヴィクトリア朝以来、上流階級あるいは知識層の趣味の象徴ともいえる紅茶のスタイルです。

茶葉はファーストフラッシュ〜セカンドフラッシュのダージリンが好まれます。当然、ティーポットで淹れ、ストレートで香りを楽しみます。牛乳ではなく、薄切りレモンを浮かべて香気を引き立てるようにします。繊細なカップ(例えばミントンやウェッジウッド)で供されることも多いです。

💬Darjeeling with Lemon Sliceをさす言い回し

“Milk in Darjeeling? Unthinkable.”
(ダージリンにミルクを?そんな野蛮な)

階級的意味合い
→ 洗練・審美眼・趣味教養としての紅茶

🏛️ふたつの紅茶、ひとつの国

イギリスでは、紅茶は単なる飲み物ではなく「どんな紅茶をどう飲むか」が、しばしばその人の出自・教育・階級を暗に物語ります。

Builder’s Tea は「機能と実利」の紅茶

Darjeeling with Lemon は「優雅と品格」の紅茶

そして、両者のあいだには時に軽い皮肉や偏見があり、それすらも“イギリス的ユーモア”として楽しまれているのです。

🎭 まとめとしての皮肉な一言

Some say tea unites Britain. But how you take it still politely divides us.
(紅茶が英国を一つにすると言うけれど──飲み方で、ちゃんと分かれてるのよね)

🫖デザートにも階級差が

🍓 Trifle(トライフル)

🍴どんな料理?
スポンジケーキ・カスタード・フルーツ・ゼリー・生クリームを層状に重ねた英国伝統のデザートです。家庭によってレシピが異なり、「冷蔵庫の余り物でつくる豪華な一品」としても知られる。

🎩 階級文化との関係
中流~上流階級の食卓で愛されてきた背景があります。特にビクトリア時代以降のアフタヌーンティー文化において、豪華な演出として出されることが多いです。家庭料理ながらガラスの大鉢(trifle bowl)に美しく層を見せるのが格式あるスタイル。

☕ 紅茶との関係
アフタヌーンティーにおける定番デザートのひとつです。渋みのあるダージリンやアッサムのストレートティーが甘さと好相性です。クリーム系の重さを紅茶が洗い流す“バランス役”として機能しています。

Trifle
Trifle

🍞 Jam Roly-Poly(ジャム・ローリーポーリー)

🍴どんな料理?
スエット生地(脂肪分を含むパン生地)にジャムを巻いて蒸す、イギリスの温かい伝統的プディングです。通称「Dead Man’s Arm」(死体の腕)とも呼ばれる無骨なビジュアル。

🧱 階級文化との関係
典型的な労働者階級のデザートです。安価な材料と、満腹感・熱量重視の構成は、寒い工業地帯で働く人々に最適です。学校給食や家庭の「母の味」として根強く記憶されます。

☕ 紅茶との関係
ストロングティー(Builder’s Tea)と合わせて“とにかく腹にたまる”甘味です。牛乳と砂糖入りの濃い紅茶がよく合います。食事後の「締め」や、労働後の温かい慰めとして登場します。

Jam Roly-Poly
Jam Roly-Poly

🍦 Arctic Roll(アークティック・ロール)

🍴どんな料理?
バニラアイスクリームをスポンジケーキとラズベリージャムで巻いた冷凍デザートです。1950年代に人気爆発、1970〜80年代のイギリス庶民家庭では定番でした。

🛒 階級文化との関係
大衆向け大量生産デザートの象徴です。スーパーマーケットの冷凍コーナーで手軽に買え、手作りとは異なる「商品的家庭味」といえます。90年代には「ダサい食べ物」として軽んじられましたが、現在はノスタルジックなレトロブームで再評価中です。

☕ 紅茶との関係
ストレートティーか、甘さに対抗するならアッサム+レモンなどの柑橘系が非常にあいます。ホットティーと冷たいデザートの対比で楽しむ“温冷ペアリング”が成立します。

Arctic roll
Arctic roll