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紅茶と科学 『英国式おいしいミルクティーの淹れ方』のHow to make a Perfect Cup of TeaでイギリスのThe Royal Society of Chemistry (王立化学会、略称:RSC)によって2003年6月24日にだされた正式なニュースリリース”How to make a Perfect Cup of Tea”という文書について触れました。
あの時は話の流れでミルクの話にフォーカスしてしまいましたが、せっかくなので、丁寧に原文を追いながら解説をくわえていきたいと思います。
ちなみに原文のPDFはこちらやこちらでダウンロードできます。一応再配布禁止となっていたはずなので、いつまでダウンロードできるかわかりませんが、何年もずっと放置されているのでたぶん大丈夫ではないかと思います。
以下「」内がくまの和訳、🧸がついている文章はくまの註や解説です。尚、英文は全部飛ばして読んでも大丈夫なようにしてあります。
How to make a Perfect Cup of Tea
『完璧な一杯の紅茶の淹れ方』
How to make a Perfect Cup of Tea
準備
“Ingredients: Loose-leaf Assam tea; soft water; fresh, chilled milk; white sugar.
Implements: Kettle; ceramic tea-pot; large ceramic mug; fine mesh tea strainer; tea spoon, microwave oven.”
材料: アッサムのリーフティー、軟水、冷えた新鮮な牛乳、白砂糖。

器具: ケトル、陶器製ティーポット、大きな陶器製マグカップ、目の細かい茶こし、ティースプーン、電子レンジ。
実験開始
“Draw fresh, soft water and place in kettle and boil. Boil just the required quantity to avoid wasting time, water and power.”
「新鮮で軟水を汲み、ケトルに入れて沸騰させます。必要な量だけ沸かすので、時間、水、電気の無駄を省けます。」
🧸軟水であることは重要です。イギリスなどは硬水なのでイギリス王立化学会としてはまず軟水を手に入れることを指定しています。実際、軟水でないと美しい水色は出ませんし、味も香りも落ちます。
🧸水を汲む時は、思いっきり水道から水を出して空気がたくさん入るようにします。必要な量を沸かすと書いてありますが、大目(実際に淹れたい量の2~3倍)沸かした方が沸騰後、お湯の中に空気が多く残るのでおいしく淹れられます。
“While waiting for the water to boil place a ceramic tea pot containing a quarter of a cup of water in a microwave oven on full power for one minute.”
「水が沸騰するのを待っている間に、1/4 カップの水を入れた陶器製のティーポットを電子レンジに入れ、最大出力で 1 分間加熱します。」
🧸つまりティーポットを温めておきましょう、ということですね。電子レンジを使うところが化学者らしいのでしょう(本当?)。くまは普通にお湯を入れて温めています。
“Synchronise your actions so that you have drained the water from the microwaved pot at the same time that the kettle water boils.”
「ケトルのお湯が沸騰するのと、電子レンジのポットから水を抜く動作を同期させます。」
🧸つまり、ケトルのお湯が沸騰したのと同時にポットの中のお湯を捨てて下さいね、ということです。でも「同期させる」というのが化学っぽくて良いですね❣️
“Place one rounded teaspoon of tea per cup into the pot.”
「カップ1杯につき、小さじ1杯分のお茶をポットに入れます。」
🧸ちなみに細かい茶葉ならば軽く1杯、大きな茶葉なら山盛り1杯、と憶えておくと量りで茶葉のグラムを計らなくても上手な濃さで淹れられるようになります。

“Take the pot to the kettle as it is boiling, pour onto the leaves and stir.”
「沸騰しているケトルにティーポットを持って行き、茶葉の上にお湯を注ぎ、かき混ぜます。」
🧸ここで大切なのはケトルの方にティーポットを持っていくのであって、ケトルをティーポットの方に持ってきてはいけない、ということです。なぜなら逆だとお湯が冷めてしまうからです。そのくらいおいしい紅茶を淹れる為には沸かしたてのお湯であることが大事なのです。
“Leave to brew for three minutes.”
「3分間蒸らします。」
🧸これは色々議論すべき所です。3分でも良いのですが、できれば4~5分蒸らした方がおいしく淹れることができることの方が多いのです。と、いうのも紅茶の茶葉をお湯に入れると
1°色が出る(これが2~3分)
2°香りと味がしっかり出る(3~5分)
というステップで紅茶が出来上がります。お湯によって抽出される成分に時間の違いがあるのです。ですから、茶葉の大きさなどにもよりますが、香りと味がしっかり出るには3分では足りないことが多いように思います。
“The ideal receptacle is a ceramic mug or your favourite personal mug.”
「理想的な容器は、陶器のマグカップまたはお気に入りのマグカップです。」
🧸現代のイギリスではマグカップで紅茶を飲むのがポピュラーになっています。なのでここでもお気に入りのマグカップを使うことを提案しています。
しかし、くまの実体験で言えば、磁器の紅茶専用のティーカップにマグカップが味と香りと飲みやすさで敵う事は一つもないと思います。せっかくなので、フリマサイトなどなら安く良いものが手に入れられるので、お気に入りの磁器のティーカップを日常使いように手に入れる事を強くお勧めします。
“Pour milk into the cup FIRST, followed by the tea, aiming to achieve a colour that is rich and attractive. “
「最初にカップにミルクを注ぎ、次に紅茶を注ぎ、濃厚で魅力的な色を目指します。」
🧸ここが『英国式おいしいミルクティーの淹れ方』で問題になったところです。王立化学会ではカップにはミルクを先に入れるべきだと主張しています。
“Add sugar to taste. “
「お好みで砂糖を加えます」
“Drink at between 60-65 degrees Centigrade to avoid vulgar slurping which results from trying to drink tea at too high a temperature.”
「あまりに高い温度で紅茶を飲もうとして、下品なすすり方をしてしまうのを避けるために、60~65℃くらいになってから飲んでください。」
🧸これは各人の猫舌度によるでしょう。もし素晴らしい猫舌をお持ちなら50℃くらいまで待っていた方が「ズズズズーーー」という下品なすすり音をたてずにすむでしょう。
🧸ちなみにマグカップの紅茶はなかなか冷めません。しかし、磁器のティーカップなら比較的すぐに冷めます。しかも冷める過程で紅茶の素晴らしい香りをあなたに与えてくれるのです‼️
あなたが磁器の素晴らしいティーカップをあなたのために買わない理由がくまには思いつきません‼️
“Personal chemistry: to gain optimum ambience for enjoyment of tea aim to achieve a seated drinking position in a favoured home spot where quietness and calm will elevate the moment to a special dimension. For best results carry a heavy bag of shopping – of walk the dog – in cold, driving rain for at least half an hour beforehand. This will make the tea taste out of this world.”
「個人的な化学:紅茶を楽しむのに最適な環境を作るには、家の中の静寂と落ち着きを与えてくれるお気に入りの場所で、ゆったりと座って、その瞬間を特別な一時にしてくれるように昇華しましょう。
さらに最高の結果を得る為には、想い買い物袋を背負って、冷たい土砂降りの中最低でも30分は犬と散歩をしましょう。そうすることが一杯の紅茶をこの世のものとは思えないほど格別の味わいにします。」
🧸ここがこの文書の一番重要なところです。ここを読んで「ああ、この文書は王立化学会がしかけたブリティッシュ・ジョークなんだな」とわからないといけないのです。
しかし、ここを読みとばしたか、あるいは真剣に犬の散歩が必要だと思ったのかはわかりませんが、この文書を真面目にとらえて、これを元においしい紅茶の淹れ方を語っている本やサイトがあります。さすがに最近はかなり減ってきましたが、それでもまだまだあります。
“Recommended ideal reading to accompany The Perfect Cup of Tea: Down and Out in Paris and London by George Orwell. “
「推奨する、完璧な一杯のための理想的な読書:ジョージ・オーウェル著『パリ・ロンドン放浪記』です。」
🧸ここで、ジョージ・オーウェル生誕100年を記念したブリティッシュ・ジョークである事がはっきりします。ちなみにオーウェルはミルクは後から入れるべきだと主張している人です。
アンドリュー・ステイプリー博士登場
“Dr Andrew Stapley of Loughborough University writes:”
「ラフバラー大学のアンドリュー・ステイプリー博士は次のように書いている。」
🧸ここ、本当は切るところじゃないのです。
でもね、くまはこのアンドリュー・ステイプリー博士がどんな顔か気になって気になって、仕方がなかったのです。そこで調べました。この方です❣️

Google scalarより
アンドリュー博士、素敵でしょ‼️
ここから私たちのアンドリュー博士が語ります❣️
• Use freshly drawn water that has not previously been boiled. Previously boiled water will have lost some of its dissolved oxygen which is important to bring out the tea flavour. (more overpage) .
「沸騰させていない、汲みたての新鮮な水を使用してください。沸騰させた水は、紅茶の風味を引き出すために重要な溶存酸素を失っています。」
🧸新鮮な水を使うことは重要です。水の中に溶けている空気がなくなってしまうからです。これは紅茶の香りと味を悲しいものにします。ちなみにここでアンドリュー博士は「溶存酸素」と言っていますが、普通に考えた場合これは酸素ではなく「溶存空気」です。しかし、紅茶の渋みは酸素が多いほど渋みが増すことがわかっています。そして、ミルクティーにはこの渋みが重要なのです。なのでイギリス人であるアンドリュー博士は「ミルクティー以外の飲み方を考慮していない」可能性も多々あるのです。それならばアンドリュー博士が「溶存酸素」というのも極めて正しいことになります。
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