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今回は紅茶と英国王室などに関して色々集めていた小話をいくつかまとめてみました。
Victoria 時代
👑ヴィクトリア女王とアフタヌーンティーの「礼法」
アフタヌーンティーというと、しばしばヴィクトリア朝の優雅なイメージがつきまといますが、実は当時の宮廷では紅茶の「注ぎ方」にまで厳格なルールが存在していたといわれています。
ヴィクトリア女王の宮廷では
「ティーポットから直接カップに注ぐことは非礼」
とされていました。代わりに一度純銀製の小さなピッチャー(Tea Jug / ティージャグ)に移してから注ぐのが作法だったといわれています。
この慣習は、使用人がティーポットの口に茶葉や泡が引っかかるのを避け、紅茶を澄んだ状態で提供するためのもので、女王自身がその「美しさと所作」に強いこだわりを持っていたためともいわれています。紅茶一杯にも礼儀と美意識が込められていた時代。まさに、ヴィクトリア朝ならではの紅茶文化の一面といえるでしょう。
それが伝わって、当時の上流階級の家庭ではTea Jugがアフタヌーンティーセットに加わえていた例もあります。現在アンティーク市場で時々見かけるミルク用にしてはちょっと大きくて、ホットウォータージャグにしては小さい
「用途不明の小さな銀製ピッチャー」
は、実はその名残のものであることもあるのです。なので、そういうものを見かけて、もし予算が許せば逃さないように買ってしまうのが良いと思います。
👑 ヴィクトリア女王と紅茶 〜帝国のティータイム〜
ヴィクトリア女王は、紅茶を上流階級のみが楽しんでいたものから、国民的飲料へと押し上げた象徴的な存在です。彼女の時代、紅茶は上流階級から中産階級にまで広がり、家庭でも日常的に飲まれるようになりました。
女王自身も紅茶が好きで、特にダージリンやケニア産の紅茶をブレンドしたミルクティーを好んでいたという記録があります。また、彼女の在位中に確立された習慣として有名なのが「クリームティー」と「アフタヌーン・ティー」です。
・アフタヌーン・ティーは、貴族の間で流行した習慣を女王が公式の場に取り入れたことで、全国に広まりました。この優雅な貴族のアフタヌーンティーは、いつしか「ヴィクトリアンティー」と呼ばれるようになりました。
・クリームティー(スコーン+クロテッドクリーム+ジャム+紅茶)も、女王の宮廷での嗜好を反映したものとして人気を博しました。
また、紅茶が植民地支配(インド・スリランカ)と結びつくようになるのもこの時代で、ヴィクトリア女王の名を冠した紅茶ブランドや茶器が多数登場しました。
女王の名は今でも「ヴィクトリアケーキ」や「ヴィクトリアンティーセット」と呼ばれるティーセット(いわゆるティーセットを指す場合と、お茶とバター付きパン、そしてケーキなどのセットを指す場合があります)など、紅茶とともに語り継がれています。
エドワード時代
👑エドワード7世と「アフタヌーン・ティー外交」
母親であるヴィクトリア女王の時代が長かったので、エドワード7世の時代は1901年から1910年とわずか9年でした。それでもこの時代を「エドワード朝」とも呼ぶほどに、ヴィクトリア朝に続くイギリスの歴史における重要な時期です。
エドワード7世は、紅茶文化に社交性を取り入れた人物として知られています。王子時代(プリンス・オブ・ウェールズ)の彼は、社交界の名士であり、紅茶の時間を「軽い政治交渉の場」として活用した先駆者でした。
・招かれた相手に合わせて茶葉を選び、軽食とともに和やかに話を始める
・政治色を出さず、自然な雑談の中から意見を探る
・紅茶を“静かな外交の道具”と見なしていた
このようなスタイルは、のちの王族や政治家たちにも影響を与え、アフタヌーン・ティーは「英国外交の裏舞台」とさえ言われるようになりました。
20世紀
👑 王が認めた味 ― ジョージ5世と紅茶の「御用達」制度
王室御用達の制度自体は16世紀から存在していましたが、現在のような形で整備されたのはジョージ5世(在位:1910–1936)の時代です。
彼の治世中、食品や日用品に対して王室の信頼を保証する目的で、正式な制度が再構築され、紅茶メーカーにとっても重要な認可制度となりました。
イギリス王室が一定の企業や職人に与える王室御用達(Royal Warrant)は、信頼と品質の証です。紅茶ブランドにとっても、これは「王に認められた味」という最高の栄誉でした。

主な紅茶御用達ブランドは次のようなブランドです。
Twinings(トワイニング):1837年、ヴィクトリア女王から御用達を受けて以来、歴代の王室と関係を持ち、現在も王室御用達の称号を保っています。
Fortnum & Mason(フォートナム&メイソン):宮殿御用達のグロサリーとして知られ、紅茶とスコーン、アフタヌーンティー文化の象徴でもあります。
Ringtons(リントンズ):庶民的な価格で質の高い紅茶を提供するブランドとして知られ、エリザベス2世女王からも御用達を受けていました。
御用達マーク(ロイヤル・ワラント)は、商品やパッケージに掲載することが許され、そのブランドが「王室にも選ばれている」ことを示す証になります。
御用達がもたらした文化的影響せ見過ごすことはできません。王室が選んだ紅茶を飲むということは、単なる消費行動ではなく文化的アイデンティティの共有を意味しました。市民は「王(女王)と同じ紅茶を飲む」という行為を通じて、日常の中に王室の存在を感じ取ることができたのです。