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20世紀 (2)
💃 ティー・ダンスと貴族社会
19世紀末から20世紀初頭のイギリスでは、「Tea Dance(ティー・ダンス)」と呼ばれる昼下がりの社交イベントが流行しました。
Tea Danceは、午後4時ごろから始まり、紅茶と軽食を楽しみながら、ワルツやタンゴ、フォックストロットなどや当時の流行音楽、クラシック音楽などにあわせて社交ダンスを踊る集まりです。男性はタキシード、女性はロングドレスなど、華やかな服装をしていたと思われます。
これは、アフタヌーン・ティーとダンスという二つの上流階級文化が融合したものです。主に以下のような人々が参加していました。
・上流階級の男女(未婚の若者の出会いの場でもあったのです)
・軍人や外交官といったエリート層
・時には王族や貴族がサプライズで登場することもありました。
ジョージ5世やメアリー王妃の時代には、宮廷や大使館、格式あるホテルなどでのTea Danceが公式行事として催されることもありました。第二次世界大戦後、ダンス文化が変化し、Tea Danceは徐々に姿を消していきました。しかしエリザベス女王の時代になってから、バッキンガム宮殿で年に数回開かれるようになったガーデン・パーティーは考えようによってはTea Danceの現代的な継承形といえるかもしれません。

こうした文化はイギリスだけでなく、フランス、ドイツ、さらには植民地時代のインドや香港にも広がり「紅茶=洗練された社交文化の象徴」として世界中に影響を与えました。
👑エリザベス2世女王
👑エリザベス2世女王の「朝の紅茶」
エリザベス2世女王は、毎朝起床と同時に紅茶を一杯飲むのが習慣でした。
朝飲むのは常にアッサムベースの紅茶か、アールグレイ。ロイヤルワラントを持つTwiningsの紅茶が多かったようです。しかもその紅茶は
「銀のトレイに乗せて、バーレイボウルに入ったシュガーとともに」
ベッドサイドまで運ばれてきたとか。ミルクは必ずティーの後に注ぐ派(T.I.M:Tea-In-Firstではない。この辺はOrwellと意見が合いますね)で、女王はこのスタイルを終生守っていたといわれています。

👑 エリザベス2世女王の紅茶の好み
エリザベス女王は、毎朝必ず紅茶から1日を始めることで知られていました。王室料理長や側近の証言によると、女王のお気に入りは以下の通りだそうです。
先の話にあったようにアッサムやケニア紅茶のブレンド。
Twiningsの「アールグレイ」や「ブレックファストティー」もよく飲まれていたらしいです。王室御用達として重宝され、旅先でも持参することもあったと言われます。
👑ティーバッグではなく、リーフティー派
紅茶は必ず磁器のティーポットで抽出され、王室の銀製のティーストレーナーで濾して提供されていたとのことです。
これはくまもまったく賛成です。紅茶は丁寧に淹れて、その時間を楽しむくらいでないといけません。「忙しいからティーバッグ」というのはわかりますが、本当は逆なのです。忙しい時こそ、紅茶の時間をきちんととって丁寧な時間を過ごすことが結果的に効率も上げてくれるのです。ただ、銀製のティーストレーナーというのがちょっと残念です。女王陛下には「日本製の目の細かいステンレス製のティーストレーナー」を一度使って頂きたかったです。あれは本当にきれいな紅茶を淹れてくれます。
閑話休題。
エリザベス女王はティータイムにはビスケットやサンドイッチも添えられていたそうですが、ジャムなしのバター付きスコーンを特にお好みだったという逸話もあります。
👑 ダイアナ妃と紅茶
日本でも人気のあった故ダイアナ妃の話もせっかくなので。
ダイアナ妃は、紅茶を通じて人との距離を縮める達人だったそうです。彼女は公式行事の場だけでなく、慈善活動の現場でもよく紅茶がふるまわれ、現地の人々と同じテーブルで紅茶を飲みながら会話することを大切にしていたそうです。
特に印象的なのは、1980年代にエイズ患者への偏見が強かった時代に、彼女が病院で患者の手を取りながら紅茶をともにしたことです。その映像をくまも見たことがありますが、その姿勢が世界に大きな感動を与えたことは間違いないでしょう。
また、プライベートではアールグレイやダージリンを好んでいたとされていて、王室の格式を大切にしつつも、紅茶を「心の会話のきっかけ」として活かしていた人物だったようです。

👑 ダイアナ妃と静かな時間
ダイアナ妃は私的にも紅茶好きとして知られていて、ロンドンのクラリッジスやリッツなどの格式あるホテルのアフタヌーンティーに訪れる姿が度々目撃されたそうです。
彼女が好んだのは、カモミールやダージリンなどの繊細で香り高いお茶だったそうです。彼女にとってそうしたお茶達は外界の喧騒から逃れて、自分を取り戻すための「静けさの時間」に寄り添ってくれるものだったのかもしれないですね。
👑チャールズ3世
👑チャールズ3世(当時のチャールズ皇太子)の紅茶へのこだわり
チャールズ3世は、若い頃から有機農法やサステナビリティに熱心で知られていて、それは紅茶においても同様でした。
・お気に入りは自身の設立した“Duchy Originals”ブランドのオーガニック紅茶。
・温度変化によって紅茶の風味が損なわれるのを防ぐため、事前にお湯でティーポット、カップともに温められていなければならない。
・お湯の温度、蒸らし時間にも非常に細かく注文をつける。
・シュガーは使わず、ミルクはやや控えめ。
・茶葉の蒸らし時間も正確でなければならない。側近に「3分きっかりで」と指示していたこともあったとされるほど、紅茶の抽出に対して厳格だそうです。
とのことだそうです。かつて王室付きの執事が「王子の紅茶は科学実験のようだった」と語ったこともあるほどだそうです。
また、チャールズ国王はCornish Organic TeaやDuchy Originalsブランドを通じて、紅茶の質や生産者の倫理的待遇にも関心を向けられているそうです。

👑チャールズ3世とオーガニック
チャールズ3世は環境保護や持続可能な農業への関心が非常に深く、王室の中でもかなり早くからオーガニック農法やエコロジーを推進してきた人物です。
特に有名なのは、彼の私邸であるハイグローヴ(Highgrove House)での取り組みで、ここでは1980年代からオーガニック農業を実践していて、化学肥料や農薬を使わない農園を作っています。紅茶も例外ではなく、ハイグローヴ・ブランドでオーガニック紅茶を出していたりもします。チャールズ3世自ら試飲して、納得できたもの以外は出さない、正真正銘の王室紅茶です。
英国王室というと伝統と格式の象徴のように思われがちだけど、チャールズ3世は意外と“未来を見据えた王” という一面もあって、そういうギャップもまた魅力的だと思います。
ちなみに、彼が設立した「The Prince’s Foundation」や「Duchy Originals(現 Waitrose Duchy Organic)」も、食品のオーガニック化とサステナビリティを追求するブランドとして有名です。
王様自ら、自然に優しい農業や食の在り方を提唱しているというのは、紅茶好きとしても少し誇らしい話ですね。
👑英国王室の紅茶時間🫖
こうして眺めてみると、紅茶の歴史は、まさに英国文化そのものだと感じました。
👑ティータイムは英国王室の文化装置
英国王室におけるティータイムは、単なる飲食ではなく「伝統」と「格式」を体現する時間だと言えそうです。その中でも、歴代君主の個人的な紅茶の嗜好は、王室文化と紅茶文化が交差する興味深い一面だと思いました。
そう考えると英国王室にとってティータイムは、形式と個人の趣味が融合する文化の象徴なのだと言えると思います。紅茶一杯に込められた「選択の美学」や「日常の品格」は、王室の生活哲学そのものを映しているといえるのではないでしょうか。
紅茶を自国では作ることができないイギリスの王室とイギリス文化にここまでの影響を与えてきて、これからも与え続けるであろう紅茶というのは、実にすごいものだとくまは思うのです。