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『現代紅茶用語辞典』とは
『現代紅茶用語辞典』の概要
1996年に柴田書店から出版された日本紅茶協会編の今のところ唯一の『紅茶用語辞典』です。でも、どうもハーブティー関係とか、IMFとか紅茶と関係ない用語が結構入っているし、そうかと思うと紅茶の成分などは専門用語での説明だけという非常にお粗末なものです。

『現代紅茶用語辞典』の問題点
1.紅茶と関係の薄い用語が多い
「IMF」「官能評価法一般」「ハーブ全般」など、紅茶の文脈に限定されていない語が多く、辞典の焦点が曖昧になっています。
2.紅茶の化学成分の解説が貧弱
カテキン、カフェインなどの記載はあるのですが、化学構造式や代謝、加熱による変化、他成分との相互作用などへの言及がほぼありません。さらには「酸化酵素」「酸化防止」はあるのに「酸化」についての項目はありません。
そのくせ、専門用語ばかりでおそらくこの説明でわかる人はこの時点の化学成分の項目はそもそも不要な人たちでしょう。一体どういう人を読者ととらえているのかが全くもって不明です。
科学項目の用語集としての難しさは自然科学的厳密性を維持しつつも、まったくの門外漢にもわかるように具体的な説明を、可能な限り専門用語に頼らずにすることです。この本ではその努力をまったくしていません。
3.製造工程用語の扱いが浅い
「ウィザリング」「ロール」などの用語定義はあるのですが、工程内での意味合いや感覚的判断についての記述が非常に形式的です。
4.国際的な貿易・規格用語の不足
ISO、FAO、Codexなどの国際規格や、インド・スリランカ・ケニアなど主要産地の等級制度がほとんど触れられていません。これは用語辞典としては致命的な欠陥です。
5.用語分類や階層性が不在
「農園名」「道具名」「植物学名」「検査用語」「比喩的表現」などの分類整理がなく、雑然と並んでいる印象を受けます。と、いうか雑然と並んでいるだけです。
背後にある問題構造
ここからは出版社の編集部長などを歴任した経験で書かせていただきます。
1.編集思想の不在
これは致命的かつ、初歩的な出版上の欠陥です。
おそらく「日本の紅茶普及史における包括的資料」を意識したのだとは思うのですが、
- 読者層の想定がなされていない。
- 雑然と用語を網羅することにばかり注意が向いてしまい、本当にこの用語集で取り上げるべきかの取捨選択ができていない。
- 語義説明が「背景」や「文脈」から切り離されている
- 用語に対して歴史的経緯・用途・文化的意味合いの補足がない。
- 例:「ティーファースト」と「ミルクファースト」の語義説明で、英国階級文化や陶磁器との関係に一切触れていない。
- 言い換えれば、語の「生きた使用環境」が脱色されている。
- 辞書としてではなく、“語を文化的に理解するツール”として機能していない。
- 構造的分類・索引性の欠如
単純に50音順に並べているので、とりあえず日本人なら調べることはできると思います。しかし、以下の点で残念なものになっています。- 「分類による編成(例:製造工程/文化語/成分/国際規格)」がなされていない。
- 結果として、検索性・学習性・応用性に乏しい。
- 例:CTC製法、揉捻、萎凋などが機械的にアルファベット順/五十音順で並び、工程の流れが見えない。
- 体系化されていないので、読者が「思考のマップ」を持つことができない。
- 出典・参照規格の提示がない
これ本当に致命的なのです。この本の意味が「こういう本があった」という歴史的遺物としての価値しか持たない決定的な欠陥なのです。- ISO 3720や6078、FAO Codex、各国等級表などの根拠規格との照合が皆無なのです。
- 紅茶の用語は国際的規格に大きく依存しているのですから、それに触れないのは致命的という以前の問題で、用語集として決定的に致命的なのです。
- 結果として、実務者・研究者にとっては“まったく使えない辞典”になってしまっているのです。
- 用語集というのは「ことばを正確に使うための道具」だからこそ、
- この定義はどの機関に基づいているのか?
- どの年のバージョンを参照しているのか?
- 科学的・制度的な裏づけはあるか?
- といった出典の明示が命綱なのですよね。
- 視点が「日本から世界」ではなく「日本の内側」だけで閉じている
これはその他の致命的欠陥と比べたら罪は軽いと思います。あくまでも「日本人が作った日本人のための日本国内専用の用語集」だと言い張ればこの問題はクリアできるからです。ただし、紅茶は国際文化なんですよね……- 世界各国の紅茶事情・制度・消費習慣への言及が極端に乏しい。
- 海外の紅茶文化や制度との接続詞的な言葉(例:インドの等級、英国のTEA COUNCILなど)が排除されている。
- 紅茶という国際文化を扱うにもかかわらず、辞典としての開かれた構造を持っていない。
- 編纂者の専門性の偏在/欠落
- 科学・農学・貿易・文化史など、必要な専門性が全方位的に反映されていない。
- 例:カフェインに関して、専門用語は乱発するくせに分子構造・官能性・加熱変化といった科学的背景がまったく補われていない。テアフラビンにいたっては用語として扱われていない。
- 逆にこうした専門家向けの情報がないのであればまったくの素人にわかるような説明にするべきなのにそれもまったくできていない。
- 例:青葉アルコールの説明がIUPAC命名法から始まって、シス、トランスの説明に続きます。これ、化学が好きで勉強した人じゃないと何言っているかわからないです。でも、専門家が使うレベルにはお世辞にも達していない、まったくもって意味不明な説明なのです。
- 結論として、学術的な信頼性にも疑問符がつきます。
2.記述の深さよりも項目数の網羅を優先
単語を「並べること」には成功しても、意味の深掘りと文脈提示が不十分です。ただ、すでに指摘したように「網羅性」にも大きな疑問符が付きます。
3.化学・農学・貿易・文化史を繋ぐ視点の欠如
たとえば「テアフラビン」がでていないなど。
これってもう「この本は何の本ですか?」というレベルです。
驚くというより愕然とするというレベルです!
「テアフラビン(Theaflavin)」が載っていない紅茶用語辞典──
つまり、紅茶の色・味・抗酸化特性・製法特性の根幹を担う化合物が定義されていないということになります。
これは、辞書としての信頼性以前に「紅茶の本質が見えていない」ということを意味しかねません。この理由をくまも考えてみました。あまりにもありえないことなので、くまの妄想といっても良い理由(?)を出してみました。
- 当時の編者の専門性が「科学」ではなく「文化・接客」に偏っていた
- 「成分」は分類に困るので避けられた(用語集として扱いきれなかった)
- 「難しすぎる」として意図的に外した可能性も(逆にIMFなど入っていることからも)
でもね、もっと難しい科学用語入っているんですよ……
なのでくまの「妄想」になってしまったのです。
4.結果として範囲が拡散し、かつ 学術性・貿易性・飲用文化のいずれにも特化できなかった。
いや、もうそのままなのですけどね……
正直な話をすると、くまは自分のサイトの用語集の項目に漏れがないかを確認したくてこの本を入手したのです。
でもね……
役に立たない
労力は認めます。
たぶん結構大変だったと思います。
くまもある業界の用語集編集したことあるからわかります。
でもね……
役立たず……
終わりに
なんか最初に取り上げた紅茶関連の本が、結果的に徹底的に批判する形になってしまってごめんなさい。
でも、これでみなさん「無駄な本」買わないですんだでしょ?だから許してください。