ロバート・ブルース(Robert Bruce, 1789–1823)は、スコットランド出身の商人であり軍人でもありました。彼の名は、アッサム地方に自生する茶の存在を最初に記録した人物として、紅茶の歴史に刻まれています。
1823年、彼はインド北東部のアッサム地方を旅するなかで、シンポー族(Singpho)の人々が日常的に茶葉を使用していることを知ります。彼はその植物が、もしかすると中国の茶と同じものではないかと直感しました。現地から採取した葉や種子をカルカッタへ送り、学術的な検証を依頼します。
ところが、その植物は“ツバキの一種”と誤って判断されてしまい、学会からは重要な植物とは認められませんでした。せっかくの発見が無視され、ロバートはそのまま同年に病没します。彼の名が歴史から忘れ去られそうになった瞬間でした。
しかし、その思いを受け継いだ弟チャールズ・アレクサンダー・ブルースが、後にその標本を再検証し、本格的な栽培と研究を進めます。この兄弟の足跡が、アッサム茶という名の巨大な紅茶文化の扉を開くことになったのです。
🌱 兄の発見が、時を越えて世界中のティーカップに届くまでには、長い沈黙の時間がありました。
補足メモ
- ロバートが発見した茶樹は、後に Camellia sinensis var. assamica(アッサム種) として正式に分類される。
- この誤判定がなければ、彼の名は「茶の発見者」として歴史に大きく刻まれていたかもしれません。