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定義
Builder’s Tea(ビルダーズ・ティー)とは、イギリスにおいて労働者階級(特に建設業などの肉体労働者)に広く好まれてきた、濃く淹れたミルクティーの通称です。
特徴
- 非常に濃く抽出された紅茶(一般的にはティーバッグを使い、長く浸す)
- 大量のミルクと砂糖を加えるのが一般的です
- 通常はマグカップで供され、ティーポットや細かい作法は用いません
- 一般的には安価で力強いブレンド茶葉(アッサム系CTCなど)が使われます
語源と文化的背景
- 「Builder’s Tea」という名称は、建設作業員(builder)たちが休憩時間に飲む紅茶の定番であったことに由来します。
- この呼称は1970年代頃から一般化したと言われていますが、実際には20世紀初頭から存在した飲用スタイルです。
- 紅茶の濃さと甘さは、体力消耗の激しい肉体労働に適した即効性のあるエネルギー補給手段として重宝されていました。
- この紅茶スタイルは、イギリスの“労働者階級の象徴”とされることがあり、アフタヌーンティー文化とは対照的に位置づけられます。
💬 言葉が生まれた背景
この言葉が定着した背景には
- 1970年代〜80年代の労働者階級文化の“見直し”とメディア化
- 広告・テレビドラマ・コメディなどでのステレオタイプ的表現の登場
- 1980年代のサッチャー時代における“庶民らしさ”の再定義
といった、社会的・政治的背景も影響しています。
🧱「Builder’s Tea」は、サッチャリズムの申し子
🏗️ 文脈1 労働者の象徴としての紅茶
- サッチャー政権下(1979–1990)は、労働組合の力を抑え、新自由主義的改革を断行しました。
- その中で、労働者階級の文化的アイデンティティが見直され、「庶民の味」「現場の誇り」として再定義されていったのです。
- 「ティーポットの中の革命」ではなく、「マグの中の粘り強さ」──それがBuilder’s Teaの世界観。
📺 文脈2:メディアによるステレオタイプの強化
- 80年代のイギリスのテレビドラマやCMでは、「お疲れ様、一杯のビルダーズ・ティーを」といった描写が増えます。
- これはある意味、保守政権にとって都合のよい“努力する庶民像”の再演出でもありました。
- 同時に、労働階級が誇りと皮肉を込めて「これが俺たちのティータイムだ」と逆手にとるようにも使われました。
🍵 つまり Builder’s Tea = 階級闘争後の“おいしい皮肉”
- 労働者階級の実用的飲料が、
- 新自由主義時代に文化記号として“再発見”され、
- メディア・広告・政治の中で“アイコン”となった。
この構図は、まさに「サッチャー時代が生み出した文化的申し子」というわけです。
🕰️ それ以前にも存在はしていた
実際の飲み方──つまり、
- 濃く淹れた紅茶に
- ミルクと砂糖をたっぷり加えて
- マグカップで休憩中にがぶ飲みする
というスタイル自体は、20世紀初頭にはすでに労働者階級の間で広く行われていました。しかし、それが「文化的なアイコン」として言語化(ラベル化)されたのは1970年代以降というわけです。
社会的な意味合い
- 階級文化を象徴する紅茶スタイルとして、イギリス文化論・社会学の文脈でもしばしば取り上げられます。
- 一部では、ミルクの量や砂糖の数で階級意識が表れるとも言われています。
- メディアやコマーシャルでも、Builder’s Teaは“庶民的な日常感”や“頑張る人々”の象徴として描かれることがあります。
関連項目
- Strong Brew(濃い淹れ方)
- Tea Bag Culture(ティーバッグ文化)
- CTC製法(ミルクティー向けの製茶法)
- British Class System(イギリスの階級文化)
- ミルクティー
- Assam (紅茶)
- CTCブレンド
- Thatcherism(サッチャリズム)