カスデック(紅茶用語)
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概要
カスデック(Cask Deck / Casdeck)とは紅茶取引・オークション・ブレンディングの現場で用いられる、見本茶(サンプル)を体系的に把握・比較するための概念的な「作業台」のことです。
物理的には、
- 茶箱(cask)
- サンプル缶
- テイスティング用見本
を並べた棚・台・デスクを指すこともありますが、実務的には 「頭の中に構築された紅茶市場の配置図」 を意味する場合が多いです。
語源と語感
Cask:茶箱・樽
Deck:並べて比較する台・作業面
単なる保管棚ではなく、比較し、判断し、並べ替えるための盤面、というニュアンスを持っています。
何が並んでいるのか
カスデックには、例えば以下が同時に意識されます。
- 産地別(ウバ/ディンブラ/ルフナ など)
- グレード別(OP / BOP / Dust など)
- 季節差(フラッシュ)
- 品質レンジ
- 価格帯
- 用途(ベース用/トップノート用)
重要なのは、個々の茶の知識ではなく、それらの「位置関係」にあります。
実務における意味
カスデックを持っている、とは、紅茶を「好み」ではなく、商品・市場・役割として把握している、ということを意味しています。
そのため、オークション関係者・ブレンダー・バイヤーの世界では、カスデックを持たない者は、まだ紅茶を「扱っていない」という暗黙の了解が存在しています。
面接・評価文脈での用法
ティーボードやオークション関連等の面接で、
「君のカスデックを見せてほしい」
と言われる場合、それは物理的な棚を指すのではなく、本当の問いは、
「君は紅茶市場を、どのような盤面として頭の中に持っているか」
ということです。
文化史的な位置づけ
カスデックという発想は、紅茶を文化や嗜好として語る以前に「完全に商品として把握している」ことの証拠なのです。
この点で、カスデックは 紅茶を「語る人」と「任される人」を分ける境界線とも言えます。
🧸くまのワンポイント(1)
カスデックとは、知識の量ではないし、経験の年数でもありません。
紅茶を一枚の盤面として見渡し、どこに何を置くかを自分の言葉で説明できるかどうか、その一点に尽きるといえます。
だからこそ、紅茶業界の大切な場面(各種面接等)でこの言葉が出てくるのです。
🧸くまのワンポイント(2)
Deck の基本的な意味(共通点)
deck の根っこにある意味は一つです。
「同じ性格のものを一まとまりにして、並べ替え・比較・運用できる集合」
だから……
- トランプのデッキ
- カードゲームのデッキ
- 船のデッキ(甲板)
- 資料を並べるデスク/デッキ
は、全部つながっています。
トランプの「デッキ」との一致点
トランプのデッキを考えると、カスデックの意味が一気に分かりやすくなります。
🃏トランプのデッキ
- カードは全部違う
- でも役割と位置づけが決まっている
- シャッフルできる
- 組み合わせで価値が変わる
つまり、一枚一枚ではなく「全体としてどう組まれているか」が重要です。カスデックもまったく同じ発想です。
カスデック
- 茶葉は全部違う
- でも産地・グレード・価格帯で役割がある
- 並べ替えられる
- 組み合わせ(ブレンド)で価値が変わる
つまり、紅茶をカードとして扱い、市場を一組のデッキとして持つ、という感覚なのです。
なぜ “Deck” であって “Shelf” ではないのか
ここが重要です。
- shelf(棚)→ 置いたら終わり
- box(箱)→ 保管が目的
でも、
- deck → 並べる、比べる、入れ替える、組み直す
つまり「思考と判断のための集合」です。だから「カスデック」なのです。
「デッキを見せろ」と言われる意味
トランプで言えば、
「君のカードの切り方を見せろ」
「その手札でどう勝つつもりだ?」
と聞かれているのと同じです。
- 何を強カードと見るか
- どこで切るか
- 何を捨てるか
- それを説明できるか。
それを問われているのです。
まとめ
カスデックの deck は、トランプのデッキと同じです。
それは、紅茶を一枚一枚ではなく、組み合わせと配置で考えるための概念なのです。この理解があると、カスデックという言葉はもう二度と曖昧になりません。