JAS法と紅茶

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📝 概要

JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)は、日本における農産加工物全般の品質基準を定める制度であり、紅茶もその対象となります。戦後の農業振興と品質管理の一環として導入され、紅茶の製造・表示・流通に制度的な枠組みを与えました。

📜 JAS制度の導入と紅茶

1950年代末、戦後復興が進む中で、農産物の品質表示や等級付けのためにJAS制度が確立されます。これにより、紅茶にも明確な分類や製造条件、検査基準が導入され、「紅茶とは何か」を法律で定義することが求められるようになります。

紅茶のJAS規格は、主に「外観(形状・色)」「水色(抽出液の色)」「香味」「異物混入の有無」などによって評価され、国際的には英国式の紅茶評価基準にある程度準拠していました。

🧩 制度の狭間に取り残された“存在”

しかしここには、制度に則ることができなかった多くの“現場”が存在していました。
たとえば、零細な製茶業者が作る手揉み紅茶や、地方独自の紅茶づくりは、JAS検査にかけるコストも通達理解も難しく、「制度に入れないから、存在しない」ものとして市場から消されていったのです。

その結果、「紅茶=JAS規格を満たした輸入茶or大手の国産品」という図式が広まり、和紅茶や草の根的な生産者は、制度の“外側”に置かれ続けました。

📦 制度が作った“日本紅茶観”

JAS法は品質の均質化・向上には寄与した一方で、「画一的な基準による排除」も引き起こしました。
個性豊かな小規模紅茶や、伝統的な製法を用いた紅茶は、「基準外」や「雑茶(ざっちゃ)」と見なされ、JASマークのないものは流通しにくいという現実が生まれました。

🧭 制度と向き合うという選択

2000年代に入り、和紅茶の価値が再評価されるなかで、JAS制度の意義と限界が見直されつつあります。現在では、有機JASや地理的表示保護(GI)制度との連携も検討されるようになり、制度と多様性をどう両立させるかが課題となっています。

🔚 “制度が定義しなかった紅茶”へのまなざし

JAS法が紅茶に与えた影響は大きい一方で、制度が定義しなかった紅茶たちの価値をどう記憶し、評価し直すか──そこに、日本の紅茶文化の未来がかかっています。

🔗 関連項目