ジャンピング

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🔸定義(Definition)

ジャンピングとは、抽出容器の内部で茶葉が上下に循環する現象のことです。
水の比重差(温度差・溶質濃度差など)により生じる自然対流(convection)が原因であり、抽出が均一に進む理想的な状態の指標とされています。

『Talking of Tea(一次資料)』では、「茶葉が“跳ねる”というより、ゆっくり浮いて沈む運動」と説明されていて、「高い位置から注ぐ=ジャンピングを起こす」という俗説を明確に否定しています。


🔬 物理学的背景(Physics)

ジャンピングは熱湯に限らず 冷水でも生じます。
原因は以下の通りです。

  • 上下でのわずかな温度差
  • 茶葉の吸水による比重変化
  • 茶葉内部の微細な空気が抜けることによる浮力調整
  • 水中の溶質濃度差(紅茶の成分が溶ける速度差)

この密度差がゆっくりした対流(自然循環)を生み、茶葉が「静かに上下する」状態を作るのです。つまり、

熱湯:動きが速く、目視しやすい
冷水:動きが極めてゆっくり(数十秒〜数分規模)

という違いがあるだけで本質は同じなのです。


📝 『Talking of Tea』(Gervas Huxley著) による説明(要点)

  • ジャンピングとは対流ではなく循環である
  • 熱湯を「高い位置から注ぐ」こととは無関係
  • 適切な温度・水質・ポット形状によって自然に起こる
  • 抽出の「美味しさの原因」ではなく、美味しい抽出が進んでいる「結果の指標」

❌ よくある誤解(Myth-busting)

❌ 高い位置から注ぐとジャンピングが起こる

→ 誤り。むしろ乱流が起こり、循環を阻害してしまいます。

❌茶葉が激しく動くこと

→ 誤り。理想のジャンピングは静かで規則的な上下です。

❌ジャンピングすれば美味しくなる

→誤り。ジャンピングは抽出が均一な状態の可視化にすぎません。

その他にも多くの誤解がありますが主なものはこの3つです。


🍃 抽出への影響(Practical effects)

  • 成分がポット全体で均等に広がる
  • 抽出が過剰・不足になりにくい
  • 香気が逃げにくく、雑味が分離しやすい
  • 色が濁りにくい(特に高地産の紅茶で顕著)

🫖 2ポット方式との相性

くまが実践している「2ポット方式(抽出ポット → サーブ用ポットへ移し替え)」はジャンピングの恩恵を最大化します。

  • 抽出ポットでジャンピングが起こる
  • 移し替えで 過抽出を防ぎつつ均質な液体 を確保
  • サーブ用ポットでは安定した品質を維持

ジャンピング理論に基づく最も合理的な手法と言えます。


🧸くまのワンポイント

茶葉を「食べて」硬さを判断

茶葉の吸水と広がり具合を体感することで、ジャンピングの起こりやすさと蒸らし時間が把握できます。

蒸らし中に10秒単位で味見

ジャンピングによる抽出の「立ち上がり」を直に感じる方法です。茶葉のポテンシャルの見極めに有効です。


🗒冷水抽出におけるジャンピング(Slow Jumping)

ジャンピングは熱対流だけの現象ではありません。比重差がある限り、どの温度でも起こるのです。

だから常温水でも茶葉がゆっくりと上下します。時間は非常に遅いですが、現象の本質は同じなのです。水出し紅茶や冷浸茶でも根気さえあれば観察可能です。

これにより、ジャンピングは「紅茶の抽出という現象の普遍原理」と言えます。


🌕どんな淹れ方でもジャンピングは起こる

1.ジャンピングの正体

以上で説明してきたように、ジャンピングの正体は「温度差・密度差による自然対流(convection)」です。

つまり、

  • 熱湯でも
  • ぬる湯でも
  • 常温でも
  • 冷水でも(すごく遅いけれど)

水という物質を使う限り、必ず対流は発生します。したがって「ジャンピング現象」は常に起こるのです。

これは物理現象であって「技術の成否」を測る指標ではありません


2.“ジャンピング=美味しさの指標” という考えが根本的に誤りな理由

昔の解説書や一部の紅茶教室では、以下のような説明がされてきました。

「ジャンピングが見えれば成功」

「ジャンピングしなければ失敗」

しかしこれは科学的にも歴史的にも誤りです。以下その理由を挙げていきます。

1.ジャンピングは「自然対流」であり、淹れ方の巧拙と無関係

存在するかどうかではなく「どれくらい目に見える速度か」が違うだけです。

2.茶葉の形状(OP, BOP, CTC)によって見え方が違う

CTCは沈みにくいし、OPは浮力差が大きく見えやすいです。これは技術ではなく、葉の特性です。

3.透明ガラスポット以外ではそもそも「見えない」

当たり前ですが、陶器や陶磁器のポットでジャンピングを見て成功判定するのは不可能です。

4.Talking of Tea でも明確に「俗説」として否定

ジャンピングは「起こすもの」ではなく、「自然に起こる状態を観察できるだけ」だと説明されています。


3.「見えるジャンピング」と「見えないジャンピング」があるだけ

ジャンピングの本質は 存在するかしないか ではなく、

  • 見えやすいジャンピング
  • 見えにくいジャンピング

の違いに過ぎないのです。

見えやすくなるのは以下の場合です。

  • 温度差が大きい
  • 茶葉が大きい(OP)
  • ポットの形状が丸い
  • 水質が軽い
  • 透明ポットで観察できる

これだけの話です。つまり「存在の有無」ではなく「視認性の問題」です。


4.だから「ジャンピング=成功の基準」は論理破綻している

まとめると以下のようになります。

  • ジャンピングは常に起こる(速度が違うだけ)
  • 見えるかどうかは条件で変わる(技術の良し悪しではない)

つまり「ジャンピングが起こるかどうか」を成功基準にするのは根本的に成立しないのです。

これは科学的にも、歴史資料的にも、実践的にも明らかです。