漢代

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概要

漢は中国の王朝で前漢から後漢の二つの王朝(両漢)を総称して「漢王朝」と呼ばれます。前漢から後漢にかけて、茶は依然として薬用植物として扱われつつも、しだいに「飲む」という行為をともなうようになる時期でもあります。茶の名が文献に現れ、貢納・交易・日常使用の萌芽が見える歴史上の転換点です。


詳解

紀元前後から3世紀にかけての漢代は、茶文化史において「薬から飲料へ移行する扉が開いた時代」とされています。前漢の医薬書『神農本草経』には「荼(と)」という表記が見られ、苦味・解毒・利尿といった薬効が記されています。この「荼」が現在の「茶」と必ずしも同一ではないとする説もありますが、のちの文献比較により「同源語であり、用途・加工が変化していった」と考えられています。

漢代の茶は、まだ嗜好品でも社交具でもありませんでした。まだ焙煎や精製の技術が発達する前で、葉は煮出し、他の薬草と合わせ、「飲める薬」として扱われていたのです。後漢末の疫病流行に際し、煎じて飲むことで身体を整える用法が普及したことは、茶が家庭や軍事・交通拠点にまで広がったことを示しています。

またこの時代、茶はすでに一部の地域では 「税・贈答・貢納」 の対象になり始めていました。四川・巴蜀地方では、高地山間で採れた茶葉が軽く加工され、長距離輸送の際に「荷を軽くし、価値を保つ物品」として取引されていたことが確認できます。この物流上の利点が、後世の団茶・固形茶へとつながっていきます。

漢代は、茶の社会的地位こそまだ高くなかったものの、「茶が人の生活圏に入った最初の時期」と言えます。薬効から始まり、飲用へと移行し、さらに課税・流通の視野に入ったことで、茶は「文化」へ向かう助走を始めていたのです。


🧸くまの一言

漢代は薬として現れた茶が、人の暮らしに居場所を求め始めた時代だといえます。

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