Mote Spoon

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概要

Mote Spoon(モートスプーン)は18〜19世紀の英国で用いられた、茶葉の微細片(mote)を除去するための専用スプーン型器具です。片側に穴あきスプーン(濾し用)、もう一端に尖ったピック状の突起を備える形状が典型です。
モートスプーンは、当時高級なものだった紅茶の一滴にまで“流れの品格”を求めた時代の象徴だといえます。飲用の精度だけでなく、サーヴィス全体を美的動作として捉えた文化が生んだ道具なのです。

George I Antique Silver 'Rat-Tail' Mote Spoon
George I Antique Silver ‘Rat-Tail’ Mote Spoon

機能と使用場面

・ポット内に残った茶葉の“もつれ(mote)”や詰まりを取り除く

・注ぎ口に溜まった茶葉をほぐし、湯の流れをスムーズにする

・ピック状の端は、注ぎ口に詰まった葉を突いて除去するための道具

・主にオーソドックスティー用の銀製ティーポットや、注ぎ口が細く目詰まりしやすい器に使われる

歴史的背景

18世紀英国の貴族・富裕層ティーサービスに登場します。当時の紅茶は大きな茶葉が使われ、ストレーナーを使う前段階での“流れの管理”が必要でした。現代のようなポット内フィルターや一体型ストレーナーがない時代における“プロ用ツール”だったのです。

材質・形状

多くは純銀製(Sterling Silver)で、手彫りの装飾がある芸術品のようなものも存在しています。穴のパターン(透かし彫り)やピック部分の形状はブランドや時代によって多様です。

現代における位置づけ

実用器具としての使用はほぼ消失しています。ヴィクトリアンアンティーク、紅茶史収集の対象として人気があります。また、一部のハイエンドなサロンでは象徴的にティーセットの一部として添えられることがあります。

類似器具・比較

  • ティーストレーナー
    注ぐ瞬間に茶葉を濾す器具(茶葉の“出口管理”)
  • Mote Spoon
    注ぐ前に詰まりや浮遊茶葉を除去(茶葉の“流れ管理”)
  • ピック付きスプーン
    似た形式だが、Mote Spoon は「濾し」機能が主体で歴史性あり

Mote Spoon自体の歴史

1967年から作られていたと書かれている物もありますが、正確には1697年から約100年の間に作られていたようです。

拠の概要

London Gazette(ロンドン・ガゼット)1697年に「long or strainer tea-spoons with narrow pointed ends(細長いあるいは濾す用のティースプーン)」と記述されており、これが最初期の記録とされます。この記述が「1697年頃からの使用」の起点を明確にしています。(1)

そして、「18世紀末にストレーナーが主流となり、Mote Spoonは作られなくなった」(2)とされています。つまり、「約100年で消えた」という言い方は、「1697年の最初期記述」と「1780年代に再び記録されなくなる」という変化を捉えたものと言えます。

この150年以上前の文献が、そのままモートスプーンの「誕生・終焉の枠組み」の出典になっているのです。

参考文献

(1)
emuseum.history.org Mote spoon

Etiquipedia Mote Spoon Etiquette and History

(2)
AC Silver What Is a Mote Spoon?

The British Antique Dealers’ Association “Terms of the Trade: Mote Spoon”