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Darjeelingについて
Darjeeling (ダージリン)はインドの北東の標高2,000mを超える山々が連なるヒマラヤ山脈の麓に位置しています。ネパール、ブータンと接していて北方には標高8,586m、エベレスト、K2に次いで世界第3位のカンチェンジュンガがそびえ立っています。元々はイギリス人が避暑地にと考えて開拓したなごりからか、インドでもっとも治安の良い場所とも言われ、女性が夜一人で歩いていても安全とまで言われています。
夏季を除けば一日の寒暖差が10℃ほどなので、朝晩に霧が発生します。この霧がDarjeeling特有の紅茶の香りを作るといわれています。独特な気候の影響でDarjeelingのクオリティーシーズンは年3回あります。他の産地と比べると、規模は1万7,500ヘクタールと小さいのでDarjeelingでは、年間わずかに1万t前後しか生産されません。その代わり品質がよいので高値で取引されることが多いのです。
Darjeelingの歴史
Darjeelingにチャノキがもたらされたのはほとんど偶然の産物でした。そもそもDarjeelingは高地で日照不足、朝晩の霧など、湿気が多すぎて茶の栽培には適さないと考えられていました。地理植物学の創始者でCharles Darwin (チャールズ・ダーウィン)の親友でもあったArchibald Campbell (アーチボルド・キャンベル)博士も同様に考えていました。

1839年にDarjeelingの新任監督官として着任してから2年以内にこの考えが間違っていたことがわかりました。
それ以前、Campbellはカトマンズで著名な民族学者で博物学者のBrian Houghton Hodgson (ブライアン・ホートン・ホジソン / 1800-1894) のもとで働いていた際に、Hodgsonから多大な影響を受け、在来の動植物を愛情を持って世話するようになっていました。

標高2,100mの高さにある自宅の庭に植えた茶の苗木に混じって、Campbellは1841年にヒマラヤ西部の麓にある苗床から持ってきたチャノキの苗を植えました。木は1840年代後半に実をつけ、1853年には会社の検査官がCampbellの庭では中国種とアッサム種の両方が順調に育っていると報告しました。
CampbellはDarjeelingとKurseong (クルセオン)にイギリス政府支援の茶園を設立しました。アッサム種と中国種の両方が植えられましたが、予想外に中国種がよく育ちました。中国から密輸された苗木は、Darjeelingの霧深い高地気候でよく育ったのです。東インド会社は茶園のために土地を開墾し、区画を整備して、個人や小規模企業に苗木を流通させ始めました。
Darjeelingの茶の商業栽培は、1852年から1853年にかけて中国産の茶樹をメインにして始まりました。
1970年代になるとインドにとって、紅茶の最大の顧客はイギリスからソビエト連邦に移っていて、ソ連ではアッサム種の方が好まれたので、Darjeelingでも中国種からアッサム種へと植え替えが進みました。しかし1991年にソ連が崩壊すると、メインの顧客がソ連から顧客が西ヨーロッパ諸国と日本に移りました。そこでまたアッサム種から中国種への植え替えが行われ、さらに2010年後半にはほとんどの茶園が有機農法に転換しました。それによって、より品質的優位を勝ち取り、今でもDarjeeling産の茶葉は高値で取引されています。
3大産地の茶葉について
Darjeeling
Darjeelingの紅茶にはクォリティーシーズン(旬)が3回あります。
春摘み(3月~4月):first flush (ファーストフラッシュ)
爽やかな香りで、紅茶独特の渋みより、緑茶のような感じがします。さっぱりとしたシンプルな味です。いわゆるDarjeelingを期待して飲むと、ちょっと物足りなさを感じるかもしれません。ストレートで飲むのに適しています。ミルクとか入れてしまうと香りも何もかもが殺されてしまう感じです。水色も紅茶より緑茶と紅茶の間くらいの薄い黄色~薄いオレンジです。
くまはこれが飲みやすくて結構好きです。なによりいつもは強いDarjeelingが繊細さを魅せてくるこのシーズンのものはなかなか味わえない良さを感じるのです。

夏摘み(5月~6月):second flush (セカンドフラッシュ)
「これこそDarjeeling」という感じのものがこのsecondです。Darjeeling特有のMuscatel Flavor (マスカルテルフレーバー)が楽しめるのもこの時期のものです。
甘み、渋み、旨み、コクと風味と香りが最大になり、当然もっとも評価が高くなる茶葉です。Darjeelingは「紅茶のシャンパン」とよばれますが、それはこの時期のものをさしています。

秋摘み(10月~11月):autumn flush (オータムフラッシュ / autumnal:オータムナル)
firstやsecondと比べて味も風味も落ちると言われていますが、ものによっては落ち着いた風味と穏やかな香りが感じられると思います。あと、甘みは一番強いです。まろやかで、やさしいコクがあって、ミルクにも負けないと思います。
このうちもっとも品質がよいとされるのは、もちろんsecond flushなのですが、繊細な香りと味が楽しめる人ならばfirst flushも負けていないと思います。ただ、ちょっと華奢な感じがするのもたしかなので紅茶らしい紅茶を求めるならばsecond flushに勝るものはないと思います。

autumnalの楽しみ方?
ただ、autumnalは1年程度熟成させた方がおいしくなることが多いようです。以前、くまが知り合いに「寝かせておいたDarjeelingがあるから飲むかい?」と言われて、不思議に思いながらご馳走になったのがこのautumnalを熟成させたものでした。フルボディで、second flushのような風味を微妙に残しつつ、蜜のような甘い香りとちょっと果物っぽい香りが混ざったような結構強い香りがしていました。その後、別の機会に新しいautumnalを飲んだのですが、寝かしておいたものとくらべるとはるかに香りも弱かったので、autumnalを手に入れたら、密閉容器に入れて日が当たらないように大事に保管して、1年後を楽しみにする、というのもありだとくまは思います。
この他に
雨季摘み(7月〜9月):third flush (サードフラッシュ / monsoon flush:モンスーンフラッシュ)
と、言うのもあるそうですが、他の時期に比べて香りも味も落ちるし、特徴がない感じなのだそうです。くまは一度も見たことがありません。
Assam ・Cacharl
AssamのクォリティシーズンはDarjeelingと同じように3回あります。
春摘み(2月~3月):first flush (ファーストフラッシュ)
ミルクがあうと言われるAssamですが、これだけはストレートで飲むべきだと思います。爽やかな香りで、マイルドな甘さにあっさりした後味なので、ミルクを入れると風味が殺されてしまうと思います。

夏摘み(4月~6月):second flush (セカンドフラッシュ)
Assamを説明するときによく出てくるmalty flavor (モルティフレーバー)と呼ばれる甘く芳醇な香りに、濃いミルクを入れても全然負けない力強い味わいなのが、この時期のものです。渋み、旨み、コクが増していて、3回のクォリティシーズンの中でもっとも評価が高くなります。日本で目にするのはほとんどがこれです。

秋摘み(9月~11月):autumn flush(オータムフラッシュ / autumnal:オータムナル)
ともかく重いです。渋みもしっかりしているし、味もコクもどっしりとした感じです。ただ、後味は意外にもあっさりしています。

Nilgiri
Nilgiriのクオリティーシーズンは、西側で1〜2月、東側で8〜9月です。
マイルドで癖がなく、紅茶の渋みなどが苦手だという人でも飲みやすいのが特徴です。逆に言えば、物足りない、という感想を持つ人もいます。クォリティーシーズンのものは果実っぽい香りがして「香りを楽しむ紅茶」という感じです。
