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水について
水の硬度
紅茶をおいしく淹れられる水については『紅茶 English Golden Rule』で簡単に取り上げました。その時に、
「紅茶に使うのに適した水は「軟水」です。ようするに水の中にミネラル分が少ない水のことです。」
という話を書きました。今回はもう少しこれを掘り下げてみたいと思います。ミネラル分が少ないと言っても、紅茶の味に大きく影響を与えるのはカルシウムとマグネシウムです。水の硬度というのはこのカルシウムとマグネシウムが水の中にどれくらい入っているか、を表しているのです。つまり
水の全硬度=カルシウム硬度+マグネシウム硬度
となります。水の硬度の計算法にはアメリカ硬度、ドイツ硬度、フランス硬度、イギリス硬度(クラーク度)があります。日本では戦前はドイツ硬度を使うことが多かったのですが、戦後はアメリカ硬度を使うのが一般的になっています。
水の分類
硬度の値によって、硬水や軟水と呼ばれます。世界保健機関 (WHO) の基準ではアメリカ硬度に従って、次のように分けられています。
軟水:0~60(mg/L)未満
中程度の軟水(適度な硬さの水、中硬水、中軟水):60~120(mg/L)未満
硬水:120~180(mg/L)未満
非常な硬水:180(mg/L)以上
ちなみにイギリスのロンドンのくまのパディントンが住んでいる付近の水道水の硬度は約220(mg/L)ですから「非常な硬水」になります。くまが住んでいる秋田市だと水道水の硬度は約25(mg/L)ですから(そんな言い方はないけれど)「とっても軟水」になります。
どうしてこんな差が生まれるのでしょうか?それは地形や地層と関係があります。地面にしみこんだ水が地層内を移動します。その間に地層の中のミネラル(マグネシウムやカルシウム)が水の中に混ざります。そしてそれが天然水として湧き出ます。
日本は国土が狭く起伏が激しいし、河川が比較的短いので水が岩や土に触れている時間が短いし、地下水も水が地層内に存在している時間が短いのです。そのため水がミネラルを吸収する時間も少なくなるので、結果として軟水になりやすいのです。
逆にヨーロッパ大陸などは国土が広くゆるやかな地形なので水が時間をかけて地層内を移動します。だからミネラルを吸収する時間が長くなるので硬水になりやすいのです。日本と同じ島国のイギリスで硬水が多いのはミネラルの多い石灰岩の地層が多いからだといわれています。参考までに世界の主要都市の水の硬度を一覧にしました。

日下譲・竹下成三「化学と工業」社団法人 日本化学会1990 より作成
ちなみに水の用途一般としては、軟水が良いものと硬水が良いものがあるので、そういう意味では使いようとも言えます。参考までに水の硬度と使い道について下の図であげておきます。

水の硬度を知るには
自分の住んでいる所の水の硬度を知るにはソフトウォータークラブ様の『全国都道府県別・平均硬度ランキングを発表!』を参照すればすぐわかります。
水のpHも知りたい場合はジェックス株式会社様の『全都道府県別水道水 硬度・pHデータ』が参考になります。
ちなみに水質というのは測定したときの自然の状態によって変化するのが普通なので、ソフトウォータークラブ様のデータとジェックス株式会社様のデータが多少違うのは当たり前です。ただ、大体の傾向はつかめると思うので一度は自分の住んでいる所の硬度などを調べてみるとおもしろいと思います。
また、市販のペットボトルの水などの硬度が知りたい場合は『CASIOのKEISAN』の「水の硬度計算」で知ることができます。
硬水だけどどうしよう?
自分の住んでいるところの水が硬水だったら、蛇口に取り付けるタイプの軟水に変える浄水器(ミネラル分を除去してくれればどのメーカーでもOK)を付ければ大丈夫です。間違って、汲み置き式の浄水器を使ってしまわないようにしてください。たしかにコストも安く、確実に軟水ができますが、空気が入らないので紅茶には不向きだからです。
紅茶がおいしい水
紅茶にあっている水は?
紅茶に向いている水というのは次の条件に当てはまる水だと一般的にいわれています。
1.適度な軟水(20~100くらい)
2.空気を多く含む水 (時々「酸素を多く含む水」と書いてある本などがありますが「空気」です。
3.pHが8.0~8.5 (中性は7.0ですから少しアルカリ寄り)が理想的
ということになります。くまの住んでいる秋田市の水道水は1と2はクリアしていますが、3は7.4なので微妙です。逆が「紅茶がおいしくない水」になります。一応あげておくと、
1.硬度が20未満、あるいは100以上の硬水
2.空気があまり含まれていない水
3.pHが高すぎたり、低すぎたりする水
ということになります。だからミネラルたっぷりのミネラルウォーターとか精製水などで淹れた紅茶はおいしくない、ということになります。
ちなみに精製水などのまったくミネラルが含まれていない水で淹れると水色はピンク色っぽくなります。
もっとも世の中には硬水で入れた方がおいしいという人もいなくはありません。硬水で紅茶を入れるとくせがなくなり、香りも抑えられ、味も落ちるのですが、同時に「渋み」も無くなります。この渋みがないのが良い、という人もいるのです。そういう好みを否定はしませんが、くまはそういう方とティータイムをご一緒したいとは思いません。
イギリスのミルクティー
イギリスのThe United Kingdom Tea & Infusions Association(英国紅茶・ハーブティー協会)の調査によればイギリスで飲まれる紅茶の94%がミルクティーだそうです。時々、英国ティーカウンシルの調査で98%という数字を書いている本などがありますが、それは古いデータです。それに英国ティーカウンシルはもうなくなっていて、The United Kingdom Tea & Infusions Associationに変わったのですから、情報のアップデートができていないデータだというわけです。

すでにお話したようにイギリスの水道水は多くが硬水です。硬水で紅茶を淹れると水色が黒ずんで、香りが抑えられたものになります。なので、イギリスでは少しでも硬水でもおいしくなるように「コク」を重視したブレンドが作られます。アッサムやケニア産のものが多くなるのはこの理由からなのです。
この「硬水の欠点をカヴァーするためにイギリスではミルクを入れるのだ」という人も少なからずいますが、当たらずとも遠からずなのではないかとくまは思っています。その点、ストレートティーが簡単に楽しめる日本に生まれて良かったとくまは思うのです。その辺については紅茶と文化『くまが日本風にこだわるわけ』をよければ読んでみてください。
まとめ
基本的に日本では水道水の多くが軟水なので、水の問題はあまり気にしなくて良いというのが結論です。
ただ、日本でも沖縄県や千葉県などでは硬水のエリアもあるので、一度は自分の住んでいる所の水を調べた方が良いと思います。硬水の場合は浄水器を付けるなどしてミネラルを除去すれば大丈夫なわけですから。