contents
発酵とは
発酵という言葉
発酵(fermentation)はお茶の種類を決定します。なぜならお茶は発酵の程度で決まるからです。たとえば緑茶は発酵させないけれど、紅茶はしっかり発酵させる等です。今回はこの発酵という言葉について掘り下げてみます。
普通、発酵というとある物質が微生物によって違う物質に変化することを指します。たとえば大豆が納豆になったり、牛乳がチーズになったりすることを指します。しかし、紅茶の場合、微生物は一切関与しません。
紅茶の発酵というのは実は「酸化」なのです。これを「酸化発酵」などという人がいますが、くまは「酸化」か「発酵」のどちらかを使った方が良いと思います。なぜなら「酸化発酵」という言葉は非常に不適切なものだからです。でも、本やサイトなどでは「酸化発酵」という言葉が使われている事が多いので無駄な知識に将来的にはほぼ間違いなくなりますけど「3つとも同じもの」ということを今は憶えておいた方が良いかもしれません。
科学的に言えば発酵ではなくて「酸化」です。でも、紅茶の場合は「発酵」でも間違いではないのです。
発酵とは
そもそも発酵というのは1837年、Charles Cagniard de la Tour(シャルル・カニャール・ド・ラ・ツール)、Theodor Schwann(テオドール・シュワン)、Friedrich Traugott Kützing(フリードリヒ・トラウゴット・キュッツインク)の3人(名前を憶えなくても全然支障ないです)がそれぞれ論文を発表し、顕微鏡による調査の結果、酵母は出芽によって繁殖する生物であると結論づけました。しかし、当時の化学者たちは発酵は純粋な化学的な反応だと決めつけていたので、あまり重要視されませんでした。
しかし、Louis Pasteur(ルイ・パスツール)が1850年代から1860年代にかけて、シュワンの行った「ブドウ果汁を煮沸して酵母を死滅させ、新しい酵母を加えるまで発酵が起こらない」という実験を繰り返して、発酵が生物の作用によるものであることを突き止めました。1857年、パスツールは乳酸発酵が生物によって引き起こされることを示し、1860年に彼は、それまで単なる化学変化と考えられていた細菌による牛乳の酸味の仕組みを明らかにしました。1877年、パスツールは、発酵に関する有名な論文「Etudes sur la Bière」を発表しました。
![Louis Pasteur [1822 - 1895]](http://tea-world.net/wp-content/uploads/2025/05/Louis-Pasteur-1822-1895-727x1024.jpg)
1897年、ドイツの化学者Eduard Buchner(エドゥアルト・ブフナー)が死んだ酵母から酵素を発見、さらに、発酵は微生物が産生する酵素によって引き起こされることが理解されたのです。
言葉としての発酵
紅茶用語として
つまり、発酵が微生物の働きによるものだということがはっきりと確定したのはPasteurが1857年に乳酸菌による乳酸発酵を、1860年に酵母によるアルコール発酵を証明してから、ということです。それまでは発酵がどうして起こるか分からなかったため、「どうしてそういう変化が起こるかわからないが、放置しておくとある物質が違う物質になっている」という現象全てに対して「発酵」という言葉を使っていたのです。
と、いうことは微生物による物質の変化を発酵と呼ぶようになったのは1857年以降ということになります。しかし、イギリス人が自分たちで紅茶を作り始めたのは、1830年代半ばにアッサムのJaipur Estate(ジャイプール茶園)で実験栽培を始めた時です。つまり「紅茶の発酵」は発酵が微生物によるものだとわかる前から「紅茶用語」として使われていたのです。
これからの「発酵という言葉」
だから、発酵が微生物によるものだとわかって、さらに紅茶の場合はただの「酸化」であることが化学的にわかっても「紅茶用語としての発酵」という言葉は生き残ったのです。だから、発酵が微生物によるものだとわかって、紅茶の場合はただの「酸化」であることが化学的にわかっても「発酵」という言葉を使い続けているのです。
世界では、「発酵 (Fermentation)」から、「酸化 (Oxidization)」という用語に変わってきています。日本語では、「酸化重合」と言うのが本当は適切です。ちなみに関税の税率が記載されている輸入統計品目表(実行関税率表)では、「発酵」と書かれていますから、日本では「発酵」が正式な呼び方です。
「酸化発酵」という言葉
なのでわざわざ「酸化発酵」等という必要はなく「発酵」で良いわけなのです。これが最初の方で「酸化」もしくは「発酵」と呼ぶべきで「酸化発酵」はおかしい、と言った理由なのです。もっと言ってしまえば「酸化発酵」と言っている時点で、紅茶の歴史も対して知らないし、科学的知識もないけど専門家ぶって語っている人を見破るポイントになる言葉、といえるかもしれません。
これからこうしたお茶を巡る用語も科学的な用語は色々変化していくのだと思います。そうした変化に関しては日本は残念ながら後進国です。せめて賢い消費者として世界においていかれないようにしたいとくまは思っています。