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前回、紅茶用語としての発酵について扱いました。今回はもう少し、本来の発酵についてあまり本などでははっきりされていない点を含めて抑えてみたいと思います。
発酵の歴史
発酵の化学的発見
アルコール発酵のメカニズムは1789年にフランスのAntoine-Laurent de Lavoisier(アントワーヌ=ローラン・ド・ラヴォアジエ / 1743-1794)によって糖がエタノールと二酸化炭素に分解される反応であることを示しました。これにより、アルコール発酵は化学反応として捉えられるようになったのです。

1815年にJoseph Louis Gay-Lussac(ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック / 1778-1850)はグルコース(ブドウ糖)が発酵してエタノールと二酸化炭素に変わるという反応式を、以下のように示しました。
C₆H₁₂O₆ → 2 C₂H₅OH + 2 CO₂
この反応式は今日でもアルコール発酵の基本として用いられています。彼はこの研究によって、発酵が化学的に定量的に扱えることを示し、大きな功績を残しました。

このようにしてGay-Lussacは発酵を化学式によって確実なものにしたのです。ただ、彼が確定したのはここまでで、問題の
「なぜこの化学反応が起こるのか?」
はわかりませんでした。実はこれはとても大きな問題だったのです。と、言うのも同じ葡萄を元に作っても、おいしいワインができたり、酸っぱいビネガーになってしまったりで、このままでは
「何ができる、できてみなければかわからない」
という状況にはかわりがなかったからです。
ただし二人とも化学者であって、細菌学者ではありませんでした。どこまで微生物のことを勉強していたかは定かではありませんが、あくまで化学現象として捉えていたのだと思います。
皇帝の悩み
1850年代のフランスでは、ワインやビール、酢などの発酵製品がしばしば原因不明の腐敗(酸敗)に見舞われており、輸出品としての信用問題にも発展していました。
困ったフランス皇帝Louis-Napoléon Bonaparte(ナポレオン3世)はこの問題に対応すべく、1857年頃、Louis Pasteur(ルイ・パスツール / 1822–1895)にワインの腐敗現象の科学的調査を依頼しました。これがきっかけとなって、彼の発酵研究が本格化しました。
ルイ・パスツール
パスツールの発見
当時の科学界では、発酵は「触媒作用による化学反応」と考えられていました(リービッヒら化学者の説)。これに対し、パスツールは発酵液を顕微鏡で観察し、次のことを突き止めました。
「発酵は微生物の生命活動の産物であり、酵母が酸素のない条件下で糖を分解してエタノールと二酸化炭素を生成する」
これを通して、彼はしたのです。簡単に彼の業績をまとめると次のようになります。
1857年〜1860年代
当時の科学界では、発酵は「触媒作用による化学反応」と考えられていました(リービッヒら化学者の説)。これに対し、パスツールは発酵液を顕微鏡で観察し、発酵は生きた酵母の活動によって起きるものだと主張しました。
1860年に「アルコール発酵の微生物学的理論」を発表します。この研究により、酵母の役割が決定的に理解されるようになりました。
パスツールの殺菌法(Pasteurization)
この発酵研究の中で、パスツールは微生物による汚染や腐敗のメカニズムにも着目し、ワインや牛乳を低温加熱で殺菌して品質を保つ「パスチャライゼーション(Pasteurization)」を考案しました。これは食品技術に革命をもたらしました。この殺菌法は現代でも使われています。
これにより、ナポレオン3世はフランスの醸造産業の改革に成功し、パスツールは国家的英雄として評価されることになります。
