紅茶と肥料 (2)

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🌱紅茶栽培における施肥の基本

『紅茶 紅茶と科学 (16) 紅茶と肥料 (1)』で解説した通り、紅茶(Camellia sinensis)は酸性土壌(pH 4.5~5.5)を好み、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)のバランスが重要です。施肥は発芽・摘採の頻度、収量、品質に大きく影響します。今回は具体的な例をあげながら、肥料についてもっと掘り下げてみましょう。

🌏国別の施肥設計と管理の特徴

🗾日本(主に静岡・鹿児島)

🍃施肥設計例(慣行農法)

基肥:2~3月に窒素30kg、リン10kg、カリ30kg/ha
追肥:各摘採後に窒素15~20kg/ha

特徴
品質重視で有機質肥料(魚かす・油かす・菜種粕など)も多用
pH調整に苦土石灰を施用

🧪有機農法

完熟堆肥・緑肥・ぼかし肥など使用
微生物活性と土壌構造改善を重視

🇱🇰スリランカ(主にウバ・ヌワラエリヤ・ディンブラ)

🍃施肥設計例(慣行農法)

年間:N 300~400kg/ha、P 60~80kg/ha、K 300~350kg/ha
鉄・亜鉛など微量要素も重要視

特徴
傾斜地栽培が多く、肥料の流亡対策として頻回施肥が多い
樹勢維持と病害対策を兼ねる

🧪有機農法

バイオダイナミック農法の導入例あり(Stassen社など)
コンポスト・ミミズ堆肥・トリコデルマ菌を用いた病害抑制

🇮🇳インド(主にアッサム・ダージリン・ニルギリ)

🍃施肥設計例(慣行農法)

年間:N 250~400kg/ha、P 50~75kg/ha、K 200~300kg/ha
栄養診断(葉のSPAD値・土壌分析)に基づく施肥

特徴
高収量を目指すアッサムではN多め、ダージリンでは香り重視で抑制
ブロークンタイプの生産では収穫頻度に合わせた追肥管理

🧪有機農法

Sikkim州では全面有機農法に移行
天然鉱物、乳酸菌、バチルス菌などを活用

有機肥料例と効果(スリランカ事例)
有機肥料例と効果(スリランカ事例)

🇱🇰スリランカの紅茶栽培における施肥設計(例:中標高地帯)

◉ 土壌と環境の前提

標高:600~1,200m(中標高、例:Kandy, Matale)
年降水量:2,000〜2,500mm
土壌:酸性土壌(pH 4.5〜5.5)、腐植含量が比較的高い

🌱通常の施肥設計(慣行農法ベース)

窒素(N)
目的:芽の発芽促進と葉の成長
施用量:年間約150~200 kg/ha(3〜4回に分割)
リン(P)
目的:根の発育と糖の転送
施用量:年間約30〜40 kg/ha
カリウム(K)
目的:病害抵抗性向上、乾燥耐性
施用量:年間約100〜150 kg/ha
マグネシウム(Mg)・硫黄(S)・微量要素
Mg:葉緑素合成(年間20kg/ha程度)
Zn・B・Fe:土壌診断結果に基づき必要時追加

📅 施肥サイクルの例(年3回)

時期 肥料内容 備考
3月(新芽前) N:P:K = 25:5:10 + Mg + Zn 発芽前に与えて初期成長促進
7月(雨季中) N:P:K = 20:10:20 根張りと病害予防強化
11月(収穫後) N:P:K = 15:15:15 + 堆肥 バランス回復と土壌改善

🧪有機農法での施肥設計(例)

主な資材:
堆肥(牛糞・茶殻・樹皮堆肥)
油粕(ネムやゴマ)
ボカシ肥(発酵有機肥料)
ミミズ堆肥(vermicompost)

📅サイクル

年4回、堆肥を1回あたり5~10トン/ha施用。
栄養不足を補うため葉面散布を併用(海藻エキスや魚エマルジョン)。

🪴効果

土壌の団粒構造改善、長期的には収量安定
病害虫被害の減少(特にRed Spider Miteなど)

🇱🇰慣行農法と有機農法の比較(スリランカ事例)

慣行農法と有機農法の比較 (スリランカ事例)
慣行農法と有機農法の比較 (スリランカ事例)

🍃備考(スリランカ特有の施策)

・スリランカでは有機転換に国主導の補助金制度が存在した(2021〜2022に全土有機化政策が打ち出されたが、のちに緩和)。
・有機への転換時は「養生期間」として2〜3年の減収を覚悟する必要がある。

🇱🇰標準的な肥料配合例(慣行農法/NPKベース)スリランカ事例

対象:ハイグロウンティー(標高1,200m以上)

標準的な肥料配合例(慣行農法/NPKベース)スリランカ事例
標準的な肥料配合例(慣行農法/NPKベース)スリランカ事例

📅施肥時期(年4回)

1月:乾季前の養分蓄積
4月:雨季直前の成長促進
7月:雨季中の品質維持
10月:次期発芽準備

🇱🇰有機農法の施肥設計例(スリランカ・Uva地域)

有機農法の施肥設計例(スリランカ・Uva地域)
有機農法の施肥設計例(スリランカ・Uva地域)

🌱効果

収量は化学肥料より劣ることがあるが、品質や土壌構造改善に優れる。

🌿補足

病害抵抗性の向上と長期的な土壌健全性を重視。

🇱🇰天候による施肥補正モデル(例:スリランカ紅茶研究所TRI推奨)

☔雨量連動型補正

乾季(雨量月100mm以下):窒素施用量を20–30%増加
雨季(雨量月300mm以上):流亡防止のため施用を2回に分割

🌡️気温変動補正

平均気温30℃超の月:植物ストレス緩和のため、カリ成分を10%増加
寒冷月(15℃以下):施肥を遅らせて根張り促進期に合わせる

📈施肥診断支援

葉面診断(SPADメーター)により窒素不足を検出
土壌電気伝導度(EC)計による過剰塩分のモニタリング