紅茶と香料(1)

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香料について

フレーバーティー

紅茶を売っているお店に行くと色々な香りの紅茶を売っています。いわゆるフレーバーティーというものです。アールグレイなどはその代表的なものです。フレーバーティーの包みなどを見ると

「原材料:紅茶、香料」

と書いてあると思います。フレーバーティーじゃないと思っていてもよく見たらこういう表記がある、ということもよくあります。

「香料」

気になりますよね。そもそも香料というのは「香りを着ける」目的と「香りを強める」目的に使われます。アールグレイなどはベルガモットの香料などで「香りを着け」て作られた紅茶です。今回はこの香料について詳しく見ていきたいと思います。

成分表示
紅茶の原材料表示の例

香水

香料と一言で言っても色々あります。例えば、トイレの芳香剤、あれも立派な香料です。あと香水も香料のかたまりです。香水にはオーデコロン、とかオードトワレとか5種類の分類がありますが、あれも香水の中の香料の濃度によって名前が分かれています。ちなみに一番濃いパルファン(parfum)が香料の濃度15~30%、一番薄いオーデサントゥール(eau de senteur)が香料の濃度1~3%です。

色々な香水

食品香料

食品添加物として使える香料には芳香剤や香水に使われる香料と同じものも結構あります。食べても安全な香料なら、他の芳香剤などに安心して使えるからです。もちろん、全然違うものも多くあります。それこそ色々です。

食品に使われる香料(以下、食品香料とします)は食品においしさを加えるために使われる香料のことをさして、一般にはフレーバーと呼ばれています。これは天然にある果物や紅茶、コーヒーなどの飲み物などの香りを再現して、更においしくしたり、多くの人から「おいしい」と思ってもらうために作られたものです。

食品のおいしさは食品自体の味はもちろんのこと、食べたり飲んだりする時の環境によっても変わります。例えば同じ庭で同じアイスクリームを食べたとしても、真夏の炎天下で食べるのと雪の降る真冬の夜中に食べるのではおいしさがまったく違うと思います。こうした飲食の環境には温度、音、香りなどが複雑に絡まってきています。

このうち、香りと味に関わるのが食品香料です。それこそ多くの食品で使われています。食品香料は大きく4つに分けられます。

1.水溶性香料
水に溶ける香料でエッセンスともよばれます。製造工程で熱の加わらない飲料や冷菓によく使われます。

2.油性香料
香料を植物油等に溶かしたものです。耐熱性が高いので、製造工程で熱が加わるキャンディー、ビスケット、チョコレート、チューインガムなどによく使われます。

3.乳化香料
香料を天然ガム類等を使って乳化させた香料です。水に加えると、白濁する特徴をもっています。ジュースなどにマイルドな香りと乳白な色を与えるために使われます。

4.粉末香料
粉末状にした香料です。インスタント食品、チューインガム、錠菓、スナック菓子などによく使われます。

このうち、紅茶に使われるのは最初の水溶性香料がほとんどです。

フレーバーティーと香料

香料は悪者ですか?

香料が入っているというと、それだけで悪いものが入っていると思う人はいつでも一定数います。これは古くは1975年に有吉佐和子が『複合汚染』で公害等と並べて、食品添加物の危険性を指摘した頃から始まります。しかもこれ、あくまでも「小説」なのですけどね。それでも当時は正確なルポルタージュでもあるかのような扱いを受けていました。

複合汚染
『複合汚染』有吉佐和子(1975年)

チクロ問題からの教訓

その直前に「チクロ問題」がありました。1956(昭和31) 年に食品添加物として認められた合成甘味料のチクロはアメリカ食品医薬品局が発癌性や催奇形性の疑いを指摘して1969年にアメリカ合衆国やカナダが使用禁止を発表しました。これは大変な問題になりました。なぜなら、虫歯にならない甘味料ということで「子ども向けのお菓子」「子ども向けのジュース」等でチクロを使っていないものを探すのが難しいほど「子供用に普及」していたからです。

これを受けて日本でも1969年(昭和44年)10月に農林省が使用中止を要請した結果、清涼飲料水の製造企業が自主規制に同意して使われなくなりました。さらに同年11月に使用禁止となり、食品添加物の指定も取り消しとなり、チクロの使用が完全に禁止されました。しかし、1972年にスイス連邦政府がテスト結果としてチクロの無害を発表、現在でも中国、カナダ、EUなど約55ヶ国で使用されています。

ここで問題なのは「チクロは危険」というニュースだけが当時の日本人の頭に焼きつき、後に安全性がスイスで確認されたことや、EU等の先進国でもいまだに使っているということはほとんど報道されなかったという事実です。そして日本では今でも科学的根拠がない状態でチクロは危険と普通に報道されています。下に実例をあげておきました。ちょっと薄いですが、写真の下のキャプションを見てみてください。2024年のものです。

いまだにチクロが危険であるという断定的な報道がされている例
『【人工甘味料に潜む問題点】WHOは「肥満予防のために摂取することを推奨しない」の指針 脳卒中や高血圧のリスクが増加、腸内環境への悪影響も危惧』(女性セブンプラス 2024.10.05 11:00)

そして2000年前後にマスメディアが「無香料」「無添加」という宣伝文句を使って派手にマーケティングしていた時代もありました。このマーケティングは

「無香料」=「安全・安心」
「無添加」=「安全・安心」

という暗示を多くの人に刷り込んできました。そしてその逆の意味の刷り込みとして

「香料」=「危ないもの・悪いもの」
「食品添加物」=「危ないもの・悪いもの」

という図式ができてしまったのです。でも、無香料、食品添加物無添加の食品、飲料を探す方が現実には大変です。国が食品衛生法などを筆頭に安全基準を定めてかなり厳しい条件の中で使われているのが「食品添加物」であり「食品香料」なのです。ですから、たしかに一部の食品添加物などに問題が出たりすることはありますが、ほとんどは科学的根拠を元に安全が確認されているものなのです。なので、食品添加物や香料が危険で、悪いものというのはかなりバイアスがかかっているのも事実なのです。

もちろん、食品添加物の全てが安全、安心だと言っているわけではありません。ここでは「全てに危険性を感じる」というのも非科学的で賢明な判断ではないということを言っているにすぎません。きちんと安全なものと疑わしいものの区別をつけて、正しく恐れなければ賢い消費者にはなれないということです。ちなみに最近の消費者庁の調査結果を元にしたグラフ作ってみました。これをみても今現在50%以上の人が「無添加」や「不使用」を盲目的に避けているのがわかりますし、物価が下がればその割合はもっと増えるのではないかと思います。

消費者の「無添加」志向
(消費者庁「平成29年度食品表示に関する消費者意識調査報告書」を元にくま作製)