紅茶と香料(2)

目次

天然香料と合成香料

天然香料

天然香料の原料となる植物の果実、花、蕾、樹木、樹皮、枝、葉、茎、根などの部位と産地および製法(抽出、蒸留、圧搾等)の組み合わせからとても多くの種類の天然香料が製造されています。

なのですが……
はっきり言いましょう!

「食品添加物に天然香料は存在しません」

実は、食品表示法で次のように定められているのです。

『天然香料及び一般飲食物添加物の表示は、別添2及び別添3に掲げる品名により行うものであること。(略)「天然」又はこれに類する表現の使用は認められない』
(食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)より)

簡単に言うと添加物の表記で「天然」って使わないでください、ということです。なので、どんなに天然香料でも「天然香料と書いてはいけない」のです。

でも香料の中には全く天然由来のものを含まない、完全な化学合成香料もあるので、それと区別するために天然香料と表現する場合もあるようです。食品の場合は法律的にはちょっとまずい表現なのですが、フレーバーティーの中にはとんでもなく強い香り(というか匂い)のフレーバーティーもありますから区別したい気持ちは理解できますけどね。

さて、法律的なことを別とすれば、というか化学的に言えば天然香料と合成香料があります。天然香料は動植物から作られるものですが、ほとんどが植物由来です。

天然香料の原料植物の例

天然香料の例をオレンジを原料にした場合で説明しましょう。オレンジを原料にした香料の場合、品種や産地だけでなく、果実、花、葉・小枝などの使用する部位によって、さらには、抽出法、蒸留法、圧搾法などの製造方法の違いからそれぞれ違った香料の生成物が作られます。

オレンジから製造されるさまざまな天然香料
(日本香料工業会HPより引用)

ちなみに天然香料の材料(これを「天然香料基原物質」と言います)として許可されているもののリストが国から指定されています。そのリストを下に引用しましたので、興味のある方はダウンロードしてみてください。

合成香料

合成香料の原料はエチレンやアセチレンなどの化合物を使って、化学反応を起こさせることで作られます。現在は3,000種以上の合成香料があるそうです。

合成香料は化学薬品から作られている人工的なものだからよくないのでは、と思う人も多いと思います。しかし、化学的に合成されたもの、というだけで化学構造はほとんどが天然香料や食品に当たり前に入っている成分と同じものなのです。

天然香料と合成香料の香料生産のプロセスは下の図のようになっています。

香料生産のプロセス(日本香料工業会HPより引用)

それに合成香料は食品添加物として安全性に関する評価や審議をパスしているもの以外は使えませんから、その意味で安全性は担保されています。ちなみに天然香料は長年の実績で安全性が担保されているものとされて、評価や審議は行われません。

食品添加物の指定と指定外の関係

紅茶と着香

いよいよ紅茶と香料の具体的な話に入ります。ここまではこれからの説明を理解して頂くための準備だったのです。

紅茶に用いる香料の種類

1.天然香料

天然の香りの成分を自然な方法で抽出した香料を加える方法です。
品質の高い茶葉を扱っている所では、天然香料の追加や天然素材を使って着香することが多いです。食品用香料として作られた天然香料は、香りも良いですし自然な香りのものがほとんどです。量が多すぎなければ問題はありません。

2.天然由来の人工香料

自然の香料の中に含まれる香りの分子を、天然香料や自然原料から一部だけを抽出したものを調合して食品香料を製造して着香する方法です。低品質の精油が天然由来の人工香料の原料として使われることもあります。香りの残り方などもある程度コントロールできる上に、安く質の良い香りを作り出すことができます。

3.天然に存在する成分を化学的に合成した香料

化学的に天然に存在する成分を合成した香料です。化学構造は天然のものと同じです。

4.化学的な合成香料

化学合成で作られた香料のブレンドで作られた、自然界に存在しない成分の香料です。安物のフレーバーティーによくあるものです。

たとえばアールグレイはベルガモットの精油で着香されたものとされていますが、安物のアールグレイはベルガモットに似た香りの合成香料が使われています。果物系の安物のフレーバーティーにも合成香料のものがよくあります。

各々の長所と短所

天然香料は天然の植物などから作られているという点では安心感があるのですが、これだって無条件に安全というわけではありません。種類や量によっては健康被害が出ることがあり得ます。

また、天然香料と2であげた天然由来の香料は揮発性なので香りの成分が酸化したり、なにより香りが飛びやすいのが欠点です。また合成香料に比べたら高価です。

合成香料の長所としては、成分や摂取量などがきちんと計算されているので、規定の範囲内で使われれば、天然香料よりも確実に安全です。

また、酸化しづらい成分が使われているので香りが長持ちしますし、熱にも強いのでクッキーやケーキなどに使っても香りが飛びません。逆に言えばこれこそが不自然なものの証拠でもあるのですけれども。それから、天然香料に比べて、場合によっては桁違いに安くできます。

くまは長年ハーブなどを仕事で扱っているので香りには敏感になってしまったので合成香料はすぐわかりますし、苦手です。天然の香りになれていると、香りが不自然で強いので不快なのです。