紅茶用語と語る(2) 発酵(Fermentation)

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📘登場人物 (今回は3人なので最初にご紹介)

🧸くま(文化記録係)
🧪発酵さん(古参用語、和製科学語の重鎮)
🌬️酸化さん(最近存在感を増している自然現象系)

🧸はじめに🧪

🧸くま
発酵さん、お時間いいですか?紅茶の現場でお名前を見かけるたびに、いつか話をしたいと思ってました。

🧪発酵さん
おやおや、どうもどうも。ずいぶん前から茶業界で顔を出してますよ。日本では、私が「紅茶の製造工程の要」ってことになってましてね。

🧸くま
でも実は……紅茶のいわゆる「発酵」って、微生物による分解ではないですよね?酵素がポリフェノールを酸化させている現象であって、本来は「酸化(oxidation)」では?

🧪発酵さん
それは百も承知。でもね、「発酵」という用語が紅茶に使われたのは歴史的経緯の賜物なんですよ。大正〜昭和初期の製茶技術書で私の名前が採用されてから、日本農林規格(JAS)でもずっとこの表記なんです。

🌬️酸化さん登場

🌬️酸化さん(通りすがり)
……だからといって、本質を曲げるのは困るな。私こそ実際に起こっている現象そのものだ。茶葉の細胞内でポリフェノールが酸化して、テアフラビンやテアルビジンになる。それが紅茶の色と香りを生む。

🧸くま
わかります。制度としての「発酵」と、現象としての「酸化」のズレ──それがこの用語の面白いところなんです。日本では「発酵」と言うのが制度的に正しい。でも、国際的には“oxidation”への転換が進んでいる。

🧪発酵は文化語🧸

🧪発酵さん
……とはいえ、私は「文化語」でもあるんですよ。発酵といえば味噌、醤油、納豆──「時間の魔法」って意味も背負ってる。紅茶に私の名を冠することで、「茶の熟成」感を伝えたかったんじゃないですかね。

🧸くま
たしかに。言葉は科学だけじゃなくて、味覚の想像力を育てるものでもありますからね。

🌬️酸化さん
でも誤解は誤解だ。君のせいで“紅茶って納豆みたいなものですか?”なんて聞かれるんだぞ。

🧪発酵さん(苦笑い)
いやはや、私も時代に合わせて少し名乗りを変える時期かもしれませんな。「酵素的酸化(enzymatic oxidation)」とか、どうですか?

🧸くま
……それ、とても良い折衷案ですね。じゃあ次の辞典改訂では、「発酵(実際には酸化)」という注釈付きで紹介しましょうか。

🧪🌬️発酵さん&酸化さん
それなら我々も納得です🫖

🧸ところで……あいつどうよ?🧪🌬️

🧸くま
ところで、おふたりにはもうひとつ気になる言葉があって──「酸化発酵」って言葉、最近よく見かけるんですけど、どう思います?

🌬️酸化さん(眉をひそめて)
あれはな……正直言って、どっちつかずな言葉だと思う。酸化か発酵か、はっきりさせればいいものを、“知ってるふう”に見せたい時に使われがちなんだよ。

🧪発酵さん(やや困ったように)
私としても、「発酵」って言わないと伝わらないから……という“配慮のつもり”なんでしょうがね。でもね、くまさん、

「用語が配慮に堕ちたら、文化は鈍る」

んですよ。

🧸くま
まさにそこなんです。わかりやすくしようとして言葉を盛りすぎると、結局だれも核心を掴めなくなる。「酸化発酵」なんて言葉、発酵のイメージと酸化の科学性が混ざって、かえって混乱します。

🌬️酸化さん
科学的に見ても、あれは酸化であって、発酵じゃない。はっきり言おう、「酸化発酵」は、理論的にも用語としても蛇足だ。

🧪発酵さん
あれは「文化語」ですらないですね。

🧸くま
なるほど、じゃあくまの「紅茶用語辞典」では、「発酵」=制度用語、「酸化」=実際の現象、「酸化発酵」=避けたい混合語──そういう整理でいきましょうか。

🧪🌬️発酵さん&酸化さん
それが一番です🫖

🧸補足解説🔖

  • 日本語の「発酵」は制度上の用語(JAS表記)です。
  • 実際の現象は「酵素的酸化(enzymatic oxidation)」です。
  • 国際的には“oxidation”が主流(ISOやFAOも)です。
  • 「酸化発酵」という混合語は、意味をぼかすため、くまは非推奨です。

「酸化発酵」という言葉について

近年、一部で「酸化発酵」という語が使用されることがありますが、実際には紅茶製造における現象は「酵素的酸化」であり、「発酵」(微生物作用)とは異なります。
くまは「酸化発酵」という混合語は、“誤解を助長する用語”とみなし、使用を避けています。