紅茶用語と語る(3) くま茶漉しとティーストレーナーと語ってみた

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📘登場人物⁉️

🧸くま
🍵茶漉し
🍽️ティーストレーナー
(人がいない……)

🧸二人はちがうものなの⁉️

🍵茶漉し
やぁ、ひさしぶりだね。最近あんまり出番がなくなっちゃってさ

🍽️ ティーストレーナー
こちらこそ。でも、名前だけはよく見かけるようになったよ。輸入雑貨屋の棚や、SNSの紅茶投稿とかでね。

🍵茶漉し
それって、つまり“文化の違い”ってやつかい?

🍵 「茶漉し」と「ティーストレーナー」は何が違うのか?🫖

🧸一見するとどちらも茶葉をこすための道具で、「同じもの」と思われがちですが、その背景には文化的な違いがあります。と、偉そうに言っていますが、実はくまも

「同じものの和名と英名」

だと思っていました。つまり、

🍵茶漉し

主に日本茶(煎茶、番茶、ほうじ茶など)を急須で淹れたとき、茶葉が器に入らないように使う道具。金属やプラスチック製で、茶碗に直接かけるタイプが多い。

🍽️ ティーストレーナー

英国式紅茶文化で使われる茶こし。ティーポットからカップに注ぐ際、金属や陶器のストレーナーを用いて、茶葉を濾す。

ようするに日本茶を濾す時は茶漉し、紅茶を濾す時はティーストレーナー

だと思っていたのです。

🧸形状は似ていても、「どんなお茶を、どう飲むか」によって、求められる機能や雰囲気が異なります。

🍵茶漉し
そうだろうね。今じゃスーパーで売ってるのは、ほとんどが洋風のストレーナー型だ。

🏠 昭和の台所では……

🧸昭和10年代生まれの方々の多くは、「茶漉し」と聞いて思い浮かべるのは、アルミの縁と細かい金網の付いた道具でしょう。それを急須ややかんの口に当てて、家族にお茶を注ぐ……そんな姿が当たり前でした。

紅茶を飲むにしても、茶漉しをそのまま使い「紅茶=外国風の日本茶」として扱うのが普通。ティーストレーナーという言葉すら、生活圏に登場しなかったのです。

🍰 そして平成・令和の紅茶文化へ

🧸ところが、1980年代以降の紅茶ブーム、2000年代の輸入雑貨ブームを通じて、「ティーストレーナー」は雑貨文化と結びつき、紅茶の道具として定着していきます。

  • 紅茶専門店の増加
  • 「アフタヌーンティー」というライフスタイルの輸入
  • SNSでの映え投稿文化

こうした流れの中で、「ティーストレーナー」は実用品というより、ライフスタイルの象徴になったのです。

🍃 生活文化の変化が用語にあらわれる

「茶漉し」も「ティーストレーナー」も、茶葉を濾すという基本機能に違いはありません。しかしその背景には、

  • 何を「お茶」と考えるか
  • どんな空間で、誰と飲むか
  • 道具を通して、どんな雰囲気を演出するか

といった文化的価値観の違いが反映されています。

昭和の食卓では道具は「実用」でした。令和のテーブルでは「演出」や「物語性」が求められています。こうした価値観の変化が、「呼び名」の違いとなって現れているのです。

🍃 茶漉しとティーストレーナーの小さな対話

もしも「茶漉し」と「ティーストレーナー」が言葉を持っていたら、きっとこんな風に語るのではないでしょうか。

🍵茶漉し
実用本位の私たちは、もう忘れられてしまったのかな……

🍽️ ティーストレーナー
でもね、私たちが支えてきた“お茶の時間”のぬくもりは、今も変わらないよ。

🍵 茶漉し
そうだろうね。今じゃスーパーで売ってるのは、ほとんどが洋風のストレーナー型だ。でも、昔は急須すらない家庭もあってね。わたし一つで立派にお茶が飲めたんだ。今じゃ、私に

直接茶葉を入れて、そこにお湯をかけてお茶を飲む

なんてこと、知らない人の方が多いのだろうね。
(🧸知りませんでした!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!)
戦後の高度経済成長とともに、急須や湯呑はステータスになり、家庭の食卓も洋風化していった。それに伴って、私の出番もだんだん減っていったよ。

🍽️ ティーストレーナー
一方、わたくしは紅茶とともに輸入されて、日本の喫茶店やホテル文化に根づいていったの。特にバブル期以降のカフェブームで”西洋式”の紅茶が洗練の象徴とされていったのよね。

でも、わたくし本来の文化的背景が知られることは少なかったわ。みんな、わたくしを“おしゃれな茶こし”くらいにしか見ていないかもしれない。
(🧸そう思っていました!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!)

🍵 茶漉し
そういうこった。だけど最近は、若い人たちがまた”シンプルな道具で丁寧にお茶を飲む”ことに関心を持ってくれてる。わたしももう少し復活できるかもしれない。

🍽️ ティーストレーナー
そしてわたくしも、単なる西洋文化の象徴ではなく、美しい所作の一部としての意味をもっと伝えていけたらと思うの。

🧸くまのひとりごと

つまり、日本はお茶の道具を西洋式に置き換えてきたけれど、それと同時に、もともとあった実用の知恵や風景を失っていったということなのかな。

日本のお茶文化は、時代とともに変わってきました。でも、その中で何を失い、何を得たのかを考えると、「茶漉し」と「ティーストレーナー」は、過去と現在、日本と世界をつなぐ小さな証人なのかもしれません。

道具の名が変わる時、文化もまた変わります。

その変化を見つめることは、私たち自身の暮らしや価値観を見直すきっかけになるかもしれません。それぞれの器具が語るストーリーに、私たちはもっと耳を傾けていいのかもしれませんね。そんなつもりでくまは自分の作っている『紅茶用語辞典』の道具の項目を書いています。そして実は何度も書き直しています。道具への理解が深まったとき、綴るべき言葉が増えるからです。

道具は人が由来を忘れても、道具が自分の由来を忘れることはないのです。