Contents1.妊婦さんとお茶
妊娠すると母親学級などで「お茶類を飲まないように」という指導がされます。これはお茶類が「鉄の吸収を阻害」してしまって、貧血などの原因になりえるからです。では実際に、紅茶と鉄にはどのような関係があるのでしょう。
2.紅茶と鉄の仕組み
紅茶を飲むと鉄の吸収が悪くなる、というのはよく言われるのですが、実際にはどのようなことが体の中で起こっているのでしょう。
紅茶の渋みのもとになっているボリフェノールは非ヘム鉄(ほうれん草などに含まれる植物性の鉄のことです)と結合して可溶性の複合体や沈殿(不溶性複合体)を作ります。
可溶性複合体というのは「水には溶けこんでいるけれどポリフェノールとくっついてしまって塊になってしまったもの」です。この塊になると腸にある「鉄専用の入り口(輸送体)」から体の中に入ることができなくなってしまいます。
また沈殿(不溶性複合体)は水にすら溶けていないので、もっと吸収できない塊になってしまっているのです。
ようするに「鉄とポリフェノールがくっついて塊になって腸から吸収しにくくなくなる」というのが紅茶(お茶類全部)が鉄の吸収を邪魔してしまう仕組みです。
ちなみにヘム鉄(肉・魚などの動物性の鉄)は別経路(非ヘム鉄とは違う「腸の入り口」)で吸収するので影響を受けにくいという違いがあります。(1)
🥗 非ヘム鉄(食事中)
├─ ➕ 促進:🍋ビタミンC / 🍖🐟MFP因子
└─ ➖ 抑制:🍵茶ポリフェノール(タンニン)/ 🌾フィチン酸
│
├─ ⏱ 同時に紅茶 → 抑制アップ↑
└─ ⏱ 1–2時間ずらす → 抑制ダウン↓
結果
✅ 促進が優位 → 吸収アップ↑
⚠️ 抑制が優位 → 吸収ダウン↓
となります。
3.どのくらい下がる?
同時に飲むと大きく低下
では、紅茶を飲むとどの程度鉄の吸収が阻害されるのでしょうか。食事と一緒に紅茶を飲んだ場合、数十パーセント以上、大幅に非ヘム鉄吸収が下がるという古典的試験や近年の安定同位体研究が複数あります。それらによると、同位体試験では85%以上吸収が低下したという結果が報告されていますし、古い臨床試験でも大幅な低下が報告されています。(2)(3)
濃い・多いほど低下
紅茶が濃ければ濃いほど、紅茶由来のポリフェノールは当然増えます。そして量飲めば飲むほど、ポリフェノール量は増えます。なので、濃い紅茶を多く飲むほど、吸収が抑制されることが分かっています。(4)
ずらせば和らぐ
食後1時間ずらすだけで、鉄吸収の抑制がおよそ半分に減少するという食事試験があります。なので鉄を取りたい場合は、食後すぐの紅茶は我慢して、1時間ほどたってからにするとよいことになります。(5)
環境次第では相殺可能
肉・魚・鶏(ヘム鉄・MFP因子)やビタミンCなどの鉄の吸収を助けるもの(吸収促進因子)が十分とられていると、紅茶の抑制を上回って、相殺できることもあります。(6)(7)
4.どう付き合う?
A. 鉄を「しっかり取りたい」日
時間をずらす:鉄サプリ/鉄強化食品/非ヘム鉄の多い食事とは前後1–2時間空けるのが効果的です。目安は最低1時間です(抑制が目に見えて減る)。(5)
味方を足す:同じ食事にビタミンC(柑橘/果物/野菜)や 肉・魚を組み合わせると、吸収促進が期待できます。(7)
💡デカフェでも同じ:抑制の主役はカフェインではなくポリフェノールです。デカフェでも“同時飲み”は避けたいところです。デカフェかどうかは関係ないからです。(6)
B. 普段の食事(鉄不足でない人)
食後の一杯はOK:バランスの良い食事(肉/魚/野菜/果物込み)なら、量と濃さを常識的に保てば大きな問題になりにくいです。(6)
渋みの使い分け:油っぽい食後は長め抽出で口を締めるようにして、軽い食事の時は短めで渋み控えめにする、などの工夫も大事です。
C. 鉄過剰の管理が課題のケース(医師の方針下で)
場面次第で、食事と一緒の紅茶が「鉄の取り込みを抑える工夫」として活用されることがあります(自己判断は絶対NG)。(6)
🐻くまのはなし
勉強していてよかった
くまは以前C型肝炎になっていたことがあります。C型肝炎と告げられた頃、看護師の友人が「私は読めないけど」と最新論文の束を30冊近く託してくれました。まだネットが今ほど普及していない時だったのでとてもありがたかったです。そして1年間のインターフェロン治療は失敗しました。治療の失敗の後、しばらくは特に治療ができない、と言われがっかりするのと、その時の医師の言い方に不信感が芽生え、病院を変えることにしました。
フロンティア電子
3年後、さらに新しい論文を積み増していたとき、ふとフロンティア電子の模型が頭に浮かびました。「鉄はFenton型の反応で活性酸素を加速しうる。遊離鉄はラジカル反応の起点になる。肝臓の炎症下では鉄を入れないほうがいい」と直感的に閃きました。今では当たり前になっていますが当時は肝炎と鉄の関係に注目している医者はほとんどいませんでした。そこでいくつもの論文を両手に主治医と相談し、鉄を徹底的に控える生活を組み立ててから挑んだ2度目のインターフェロン治療は、数値が面白いほど動いて、結果、寛解しました。もちろん、紅茶、お茶を毎日たくさん飲んでいました。
当時はインターフェロンの成功率が 55% → 78% へ上がっていく過渡期です。くまの体験をヒントに主治医はその後症例を集め「C型肝炎では鉄をどう扱うか」がきちんと語られるようになっていったそうです。科学を信じて読み解くことは、たしかに人を助ける、と思いました。
個体差と「うまくいく」という確信
体質や病期、治療の組み合わせで、同じ工夫でも効き方は人によって違います。くまの場合は「鉄を控える」戦略が身体に合ったのだと思います。さらに「これで良くなる」という強い確信が、日々の食事・睡眠・治療の継続や選択を良い方向に揃えてくれた実感があります。結果として、炎症や酸化ストレスを下げる方向に総力戦で働いたのかもしれません。
科学的な機序(鉄と酸化ストレス)と、生活の実践(食や睡眠)、そして「うまくいく」という心の在り方、この三層が重なったときに結果が出やすいとは言えます。そしてくまの場合は、その三つがたまたま同じ方向を向いたのだと思うのです。
※これはあくまでもくまのケース(N=1)であり、同じ結果を万人に約束するものでは決してありません。医療的判断は必ず主治医と行ってください。
5.上手な飲み方(まとめ)
タイミング
鉄サプリや鉄強化食品と被る時は1–2時間ずらすと効果的です。
量
カフェイン感受性に応じて決めましょう。寝る前はデカフェ/ミルクティーなども選択肢です。
抽出
渋みを抑えたい時は短め抽出、食中の油っぽさを引き締めたい時は長め抽出で渋みを活かすのがコツです。
ミルク・レモン
ミルク由来タンパク質やレモンの酸は渋みの感じ方を変えます。でも何かの効果を変えるわけではありません。嗜好と体調に合わせて、というのが大切です。
参考文献
今回の記事をまとめるにあたって、以下のサイトや論文を参考にさせて頂きました。この場にて御礼申し上げます。
1.Iron Absorption: Factors, Limitations, and Improvement Methods(新しいタブで開きます)
2.Tea Consumption Reduces Iron Bioavailability from NaFeEDTA in Nonanemic Women and Women with Iron Deficiency Anemia: Stable Iron Isotope Studies in Morocco(新しいタブで開きます)
3.The effect of tea on iron absorption.(新しいタブで開きます)
4.Iron absorption in young Indian women: the interaction of iron status
with the influence of tea and ascorbic acid(新しいタブで開きます)
5.A 1-h time interval between a meal containing iron and consumption of tea attenuates the inhibitory effects on iron absorption: a controlled trial in a cohort of healthy UK women using a stable iron isotope(新しいタブで開きます)
6.Effect of tea and other dietary factors on iron absorption(新しいタブで開きます)
7.A Review of Nutrients and Compounds, Which Promote or Inhibit Intestinal Iron Absorption: Making a Platform for Dietary Measures That Can Reduce Iron Uptake in Patients with Genetic Haemochromatosis(新しいタブで開きます)
(いづれも2026年1月15日確認)