キリティーとチャイ

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世界二大ミルクティーとCTCの話

ことのはじまり

先日キリティーについて触れた時に「鍋を使う」と書いたら、コメントで「現地では鍋を使っているのを見たことがない」というお話を頂きました。そこで気になったくまは色々と調べ始めました。今回のきっかけを下さったすりらんこさんに感謝です。

「濃厚ミルクティー文化」からCTC紅茶の本質を読み解く

世界には多くのミルクティー文化がありますが、その中でも キリティー(スリランカ) と チャイ(インド) は、「濃厚ミルクティー」の代表として特に愛されています。

しかし、その見た目の近さに反して、この二つは 思想・作り方・味の中心・文化背景 がまったく異なります。

そして両者を理解すると、CTC(Crush, Tear, Curl)紅茶という特殊な茶葉形状が生まれた理由が自然に浮かび上がります。

ここでは、キリティーとチャイを比較しながら、紅茶の文化と抽出技術の奥深さを読み解いていきます。


第1章 なぜキリティーとチャイを比べるのか

似ているけど違う

キリティーとチャイはどちらも「ミルクティー」です。そして見た目は似ている「濃厚ミルクティー」です。しかし、実際に飲んでみるとその味わいは驚くほど違います。

  • キリティー:紅茶そのものの香りとコクが主役
  • チャイ:スパイス・甘味・ミルクの一体感が主役

同じミルクティーでここまで差が出る理由。
そのキーワードが CTC茶葉 にあります。

キリティーもチャイも、共通して CTC を使います。
しかし、使い方も目的もまったく違います。

今回は、この「見た目は似ているが、実は根本思想が違う」ミルクティーを比較しながら、その背景を丁寧に追い、最後にCTCとはどのような紅茶なのかを明らかにしたいと思います。


第2章 キリティーの本質と多重世界

キリティーの基本像

キリティーは、スリランカで広く親しまれている濃厚ミルクティーです。「ミルクティー」と言われますが、実態は

「超濃縮紅茶(通常の5〜10倍の濃度)+ミルク」

という構造です。

スパイスは入れません。
甘味は加えますが、インドのチャイほど「甘さが主役」にはなりません。

つまり 紅茶そのものの香りやコクを極限まで濃くして楽しむ飲み方 がキリティーです。


抽出法の特徴 紅茶の「エスプレッソ」を作る

キリティーの核は、まずとんでもなく濃い紅茶液をつくることです。

  • CTC茶葉 15〜20g
  • 水 100〜150ml(ごく少量)
  • 小鍋でしっかり煮出す

これにより、香り・渋味・ボディ感がすべて凝縮した「紅茶のエスプレッソ」のような液体ができます。

そこへ ミルク100〜150ml を合わせて完成。

見た目はミルクティー色でも、味わいは「紅茶の存在感」が圧倒的に強く、ミルクに負けない「紅茶の力」が前面に出ます。

ポイントは……

  • ミルクの量は十分ある
  • しかし茶液が異様に濃いため、比率では紅茶が勝つ

したがって、「ミルクが少ない」のではなく、

「紅茶エスプレッソにミルクを合わせる」

という構造の飲み物と捉えるのが正確です。


味わいの中心 紅茶の香りとコクが主役

キリティーに使われるスリランカ産CTC(特にルフナ/サバラガムワなど)は、

  • 木質香(Woody)
  • 穀物香(Grainy)
  • キャラメル香
  • モルティーな甘香

が特徴です。キリティーはこれらの香りを「ミルクで薄める」のではなく、ミルクと砂糖によって香りのボリュームを増幅する飲み方です。重く沈まず、紅茶の香りがふわっと広がるのが魅力となるのです。


家庭・屋台・階層等で変わる「キリティー」像

ここがもっとも誤解されやすい部分です。くまもここで戸惑いましたし、冒頭の話もここにつながってきます。

実はキリティーには「家庭系」「屋台・商業系」「上流階級系」の三つの文化圏 があり、抽出方法もかなり異なります。

🏠家庭のキリティー:鍋を使わない「ミルクパウダー文化」

一般家庭では、

1° 普通の濃さの紅茶を淹れ
2° ミルクパウダーを入れ
3° 泡立てるように混ぜる

これが「国民的スタンダード」です。

理由は……

  • ミルクパウダー(Anchorなど)が非常に普及
  • 液体ミルクは高価
  • 冷蔵庫がない家庭も多い
  • 鍋で煮出すのはコストと手間がかかる

つまり庶民の日常のキリティーに鍋は登場しないというのは、現地観察として完全に正しいのです。そしてくまは教えてもらうまでそれを想定していませんでした。


☕屋台・商業のキリティー:鍋で煮出す「ショー文化」

屋台動画などのキリティーは家庭とは違います。屋台等では家庭とは違い、以下のような特徴があります。

  • 茶葉を鍋で煮る
  • ミルクも一緒に煮る
  • 何度も注ぎ替えて泡立てる
  • 甘味強め
  • パフォーマンス性が高い

という「見せる+濃い味」の文化なのです。商売としてのキリティーなので、濃い茶液 + ミルクを鍋で仕上げるのが定番のようです。

これは「家庭のスタンダード」ではなく、あくまでも屋台という独立した文化圏の飲み方です。くまが知っていたのはこれだったのです。


🫖上流階級・都市圏のキリティー:インド式煮出しの影響

コロンボの富裕層や一部の家庭では、インド式チャイの影響を受けた煮出しミルクティー文化が根付いています。これは階層性の強い文化圏で、

  • 鍋で紅茶+ミルクを煮込む
  • 砂糖で香りをまとめる
  • 使用する液体ミルクも高品質

といった特徴があります。もっとも、くまはこれについては話を聞いただけなので現時点では「そうらしい」ということです。


三つの文化圏を理解すると、キリティーがよく見える

まとめると以下のようになります。

  • 家庭系:鍋は使わない。ミルクパウダー+泡立て文化。
  • 屋台系:鍋で煮る。濃い味・ショー文化。
  • 上流系:煮出し式。インド文化の影響。

この三層を理解すると、

「鍋で作るのを一度も見たことがない」(→家庭側)
「屋台は鍋で煮出していた」(→商業側)

という「相反する話」が出てくることが自然に説明できます。

どちらも正しいのです。ただし、属している階層文化が違うのです。これがキリティー文化の全体像でした。


第3章 チャイとは何か

チャイの基本像

チャイは「茶」ではなく、チャイという「完成した飲み物」です。

紅茶の香りだけを楽しむものではなく、

  • スパイス
  • ミルク
  • 砂糖
  • 茶葉

これらが煮込まれて一体化した「飲む料理」のような存在です。


抽出法 材料を「すべて一緒に煮る」

チャイの作り方は、「煮出す」というより煮込むに近いです。

  1. 鍋に水とミルクを入れる
  2. 砂糖、スパイス(カルダモン・ジンジャー・シナモンなど)も入れる
  3. CTC茶葉を加える
  4. 全体をぐつぐつ煮込む
  5. 高い位置から注ぎ返して空気を含ませる

味は複数の素材の調和で成立します。


味わいの中心 スパイスが主役

チャイの味の中心は、

  • スパイスの香り
  • ミルクのコク
  • 甘味の厚み

この3つです。

茶葉は、これらを支える土台(ベース)としての役割になっています。キリティーとは、まったく思想が異なるのです。


インド生活におけるチャイ

チャイはインドの生活インフラの一部です。

  • 出勤前
  • 移動中
  • 雑談
  • 仕事の合間

チャイスタンド(チャイワーラー)は社交の場にもなっています。


第4章 見た目は似ているのに、中身がまったく違う理由

1.主役が違う

  • キリティー:紅茶が主役
  • チャイ:飲み物全体の調和が主役

2.濃度の方向性が違う

  • キリティー:紅茶の濃度を極限まで上げる
  • チャイ:全体を煮込んで融合させる

3.甘味の位置づけ

  • キリティー:紅茶の強さを丸める
  • チャイ:スパイスとミルクを「接着」する

4.色が似て見える理由

  • キリティー:濃茶がミルクを押し返して濃い色になる
  • チャイ:ミルク+スパイス+茶が混ざって同系色になる

これらがこの2つの大きな違いを生んでいます。


第5章 CTCとは何か ミルクティー文化を支える技術

CTCとは(簡易定義)

CTCとは、
Crush(押し潰す)
Tear(引き裂く)
Curl(丸める)
の工程を連続的に行い、茶葉を粒状に加工した紅茶のことです。

  • 表面積が大きい
  • 抽出速度が速い
  • 渋味・コクが短時間で出る
  • 煮出しに強い
  • ミルクや砂糖に負けない

という特性があります。


なぜキリティーとチャイはCTCを使うのか?

理由は単純です。

🔸 CTCは「濃く作れる」ため、ミルクに負けない
🔸 「煮出し」に向く唯一の形
🔸 スパイス・甘味との相性が良い

これら三要素を満たすのがCTCだけなのです。


リーフティーとの役割の違い

  • リーフ(OP、BOPなど):香りが主役、ストレート向き
  • CTC:濃度が主役、ミルクティー・チャイ向き

両者は「どちらが上か」ではなく、用途が違う「別の道具」なのです。


第6章 飲み比べガイド

日本で作る「なんちゃってキリティー」

  • CTC茶葉 10〜12g
  • 水 80〜100ml
  • 小鍋でしっかり煮出す
  • 牛乳を100〜150ml加える
  • 砂糖少々

→ 「紅茶が主役の濃厚ミルクティー」になります。


日本で作る簡易チャイ

水 100ml
牛乳 100ml
砂糖
スパイス(あればカルダモン+ジンジャー+シナモン+クローブ)
CTC 5〜7g
全体を煮込む

→ スパイス・甘味・ミルクが一体化した「チャイらしさ」が出ます。

🧸ナツメグをほんの少し最後に加えると「それらしさ」がアップします。


飲み比べのポイント

紅茶の香りが前に出るのはどちらか?
→ キリティー

甘味がないと成立しないのはどちらか?
→ チャイ

ミルクがないと成立しないのはどちらか?
→ チャイ

紅茶の個性が強く残るのはどちらか?
→ キリティー

このように観察すると両者の違いがとてもよくわかります。


🧸二つの濃厚ミルクティー文化とCTCの必然性

キリティーとチャイは、同じCTCを使い、どちらもミルクティーです。
しかし、その思想は正反対でした。

キリティーは
「紅茶の個性を極限まで濃くして味わう」

チャイは
「スパイス・ミルク・甘味を煮込んで調和させる」

この違いが、色・香り・甘さ・飲み方のすべてに表れています。

そして、どちらの文化も CTC という茶葉形状なしには成立しません。
CTCは、ミルクティーやチャイのような濃厚飲料に特化した、紅茶の工業デザインが生んだ道具 なのです。

この2つを理解することは、紅茶文化を「平面的な分類」ではなく、立体的な文化体系として理解する第一歩になるとくまは思います。