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1.化学的考察
🍇Muscatel flavorとマスカットの香気成分🍇
Dargeeling tea (ダージリンティー) のMuscatel flavor (マスカテルフレーバー)とマスカットの香気成分には、いくつか共通する化学物質があるとされています。特に、どちらも「フラボノイド類」や「テルペン類」など、類似の成分を含んでいます。
リナロール(linalool / 3,7-dimethyl-1,6-octadien-3-ol)
linaloolは、オクタジエン類のアルコールで、3番目と7番目の炭素にメチル基が付いています。1,6-オクタジエン骨格に3位のヒドロキシ基(-OH)がついています。
これは、Dargeeling teaのMuscatel flavorにも見られる香気成分で、フローラルで甘い香りが特徴です。また、マスカットにも、特にその果皮に含まれており、フルーティーで花のような香りを強調します。

linalool
ゲラニオール(geraniol / 3,7-dimethyl-2,6-octadien-1-ol)
geraniolは、Linaloolと似た構造を持ち、オクタジエン骨格に1位のヒドロキシ基(-OH)を持っています。また、2位と6位に二重結合があり、3位と7位にメチル基があります。
Dargeeling teaのMuscatel flavorにおける一因として知られる、甘くて花の香りがする化学物質です。マスカットにも含まれており、果物に特有のフローラルな香りを加える役割を果たします。

geraniol
エステル類(特にエチルアセテート、エチルヘキサノエートなど)
エチルアセテート(ethyl acetate)はエステル類で、エタノール(ethanol)と酢酸(ethanoic acid)が反応して形成されます。

ethyl acetate
エチルヘキサノエート(ethyl hexanoate)もエステル類で、エタノールとヘキサン酸(hexanoic acid)から生成されます。構造としては、エチル基(C2H5)とヘキサン酸の6つの炭素からなる鎖が結合しています。
エステル類は、果物の香りに関与する化学物質で、マスカットやDargeeling teaの香りを形成する重要な成分です。ethyl acetateなどは、フルーティーで甘い香りを強調し、どちらにも存在します。

ethyl hexanoate
テルピネン(Terpinene / 1-methyl-4-(1-methylethyl)-cyclohex-1,4-diene)
テルピネンは、シクロヘキサン環にメチル基(-CH3)とイソプロピル基(-CH(CH3)2)がついた構造を持っています。シクロヘキサン環には二重結合も含まれており、その配置によって異なる異性体があります。
Dargeeling teaの香気に最も影響を与えるテルペン類で、柑橘系の香りに似た清涼感を持っています。マスカットにも、この種のテルペンが含まれており、果物の清涼感を強調します。
これらの香気成分であるテルピネン類の中で、特に重要なのはα-テルピネンとγ-テルピネンです。この2つがマスカテルフレーバーの主な成分となります。

α-テルピネンとγ-テルピネン
🦌Muscatel flavorとムスクの香気成分🦌
Muscatel flavorはムスクの香りとの共通点からこのように呼ばれるという説もあります。そこで両者の香気成分の共通成分を検討します。
Muscatel flavorとムスクの香気成分にはいくつかの共通点があり、これらの香気成分は、フローラルで甘い香りをもたらすと共に、ボディ感や深みを提供します。Muscatel flavorとムスクの香りに共通する主な香気成分として、以下が挙げられます。
・geraniol
・linalool
・ethyl acetate
これらはマスカットが持っている香気成分と同じ成分です。しかし、一番重要なα-テルピネンとγ-テルピネンがありません。このように分析していくと「ムスク説」はかなり根拠を失っていきます。
🍇化学的考察では「マスカット説」が有力になりました。🍇

シベリアジャコウジカ
参考文献
『ダージリン紅茶の特徴的な香気に寄与する成分の探索』
(馬場良子,中村后希,熊沢賢二 2017)
2.言語学的考察
化学的な考察からはmuscatel flavorのネーミングはマスカット由来が濃厚になってきました。では言語的にはどうでしょうか。
🍇マスカット説🍇
muscatelを辞書で調べてみました。
・muscatel:muscat から造る甘口のデザートワイン
(研究社 新英和中辞典より)muscatel
a sweet wine made from muscat grapes:
(マスカット種の葡萄から作られた甘いワイン)
・a half-bottle of sweet muscatel
(甘いマスカットワインのハーフボトル)
・This town is very much the centre of large mass-producing vineyards, including Muscatels. (この町は、マスカットワインをはじめとする大規模大量生産ブドウ園の中心地です)
(Cambridge dictionary /ケンブリッジ英英辞典より)
さらにWebでこの単語を色々と検索すると色々と興味深い例文が出てきます。以下、列挙してみます。
・I ordered a bottle of muscatel.
マスカテルを1瓶注文した。 (Weblio英語基本例文集)・Muscatel is a type of sweet wine with a distinct musky flavor.
ムスカテルは独特の麝香味がある甘いワインの一種です。・Muscatel is often paired with fruit or cheese as a dessert drink.
ムスカテルはデザートドリンクとしてフルーツやチーズに合わせられることが多いです。・Muscatel grapes are used to make some of the world’s finest dessert wines.
ムスカテルのブドウは世界でも最高のデザートワインの一部を作るために使用されます。・Muscatel is a sweet wine made from Muscat grapes, often enjoyed as a dessert wine or an aperitif.
マスカテルはマスカットのブドウから作られる甘口のワインでデザートワインや食前酒として楽しまれることが多いです。(以上、天才英単語 )
こうしてみるとマスカットを材料にしたワインのことがたくさん出てきます。「マスカットの香り説」がさらに有力になってきました。
🦌ムスク説🦌
・musk:麝香、ジャコウ鹿(シベリア・チベットの小型の鹿)の雄の腹部の麝香腺分泌物から採れる黒褐色の香料。(英辞郎)
・musk:
1.an odorous glandular secretion from the male musk deer; used as a perfume fixative.
雄のジャコウジカからの香りのよい腺分泌物。香水定着剤として使われる。2.the scent of a greasy glandular secretion from the male musk deer.
雄の麝香鹿の脂っこい腺分泌物の香り。(以上『英ナビ辞書』)
意味的にはDargeeling teaの甘い香りを表す単語としてはよさそうな気がします。しかし、英語のスペルに着目するともし、muskが語源なら「マスカテル」は「muskatel」となるはずですが、辞書にはこの単語は出てきませんし、検索してもオーストリアのワインが出てくるくらいです。
それに「マスカテルフレーバー」について書いてある英語の本を見ると例外なく「muscatel」となっていて、「ク」の音は「k」ではなく「C」になっています。この観点から見ても、やはり「マスカテル」は「マスカット説」の方が有力で、「ムスク説」は違うのではないかと判断できます。
🍇言語的にも「マスカット説」が有力になりました。🍇