聞く紅茶教室
講義時間:約5分
第64講 紅茶とデザイン様式(1)
紅茶は「美しくなければならない飲み物」になった
皆さんは、紅茶と聞くと、どんな景色を思い浮かべるでしょうか。
白いティーカップ。
銀のスプーン。
静かな午後の光。
整えられたテーブル。
けれど、紅茶は、はじめから優雅だったわけではありません。
もともと紅茶は、薬でした。
輸入品でした。
そして、大英帝国の経済を動かす「商品」でした。
そこでは、
「どんな器で飲むか」より、
「どれだけ手に入るか」の方が重要だったのです。
19世紀の前半まで、紅茶は、あくまで「飲むためのもの」でした。
ティーカップは必要最低限。
紅茶缶は保存箱。
テーブルは食事を置く板。
まだそこに、
「美しい紅茶空間」という考え方はありません。
けれど19世紀の終わり頃、
紅茶は、静かに変わり始めます。
紅茶が、
「飲むもの」から、
「見せるもの」へ変わっていったのです。
ティーカップの形。
テーブルクロスの色。
ティーセットの材質。
紅茶缶の装飾。
部屋の壁紙。
家具の線。
広告に描かれる女性たち。
紅茶のまわりにある、
すべての視覚要素が、
ひとつの世界観を持ち始めます。
つまり紅茶は、
味覚だけの文化ではなくなったのです。
視覚。
空間。
暮らし。
美術。
紅茶は、それらすべてを含む文化へ変わっていきました。
そして20世紀を前にして、
紅茶は、ある大きな役割を持つようになります。
それは、
「美しくなければならない飲み物」
という役割です。
ここから紅茶は、
単なる嗜好品ではなく、
「暮らしそのものを演出する存在」になっていきます。
では、人々は、
どのようにして「紅茶のある時間」を美しく整えていったのでしょうか。
紅茶と聞いた時、
多くの人は、
アフタヌーンティーや、
美しく整えられたティーテーブルを、
思い浮かべるのではないでしょうか。
紅茶と「美」。
この二つが、
強く結びつき始めたのは、
19世紀の終わり頃からでした。
そしてその感覚は、
現代にも、
しっかり受け継がれています。
ホテルのアフタヌーンティーも、
美しいティーカップも、
「紅茶は美しいもの」という感覚の延長線上にあります。
日本にも茶道があります。
そこでもまた、
「美」が語られます。
茶という植物は、
人間に「美」を求めるものなのかもしれない。
くまは、
ときどき、
そんなことを思うのです。
次回は、
ヴィクトリア時代のティーセット文化を通して、
「器が時間をデザインした時代」を見ていきましょう。