contents
概要
ISO 3720は、紅茶(Black Tea)の定義を完全発酵されたCamellia sinensisの葉を原料とする乾燥製品と定めた。これに加えて最低限の品質基準を定めた国際規格です。発酵を経た茶葉に関して、「紅茶として流通するために満たすべき基本条件」を定め、国際貿易における共通の土台を提供しています。
品質ではなく「存在の保証」
高級茶や特色茶はこの規格では評価されませんが、国際市場で「不適格な粗悪品」を排除する機能を持ちます。
世界の茶貿易共通言語
貿易書類や証明書で“ISO 3720準拠”とある場合、それは「最低限紅茶としての品質を保証している」と読み取れます。
目的
紅茶(Black Tea)の品質に関する国際的な最低基準を定めることで、輸出入時の品質保証と取引の円滑化を図ること目的としています。
起源・背景
ISO 3720は、国際標準化機構(ISO)により定められた紅茶(Black Tea)の理化学的品質基準であり、世界貿易において「紅茶」として分類される商品の最低条件を定めたものです。
1988年に開催されたFAO(国連食糧農業機関)の紅茶輸出国部会において、国際市場における紅茶の品質改善と信頼確保の必要性が議論され、各国がこの基準の遵守に合意したというものです。
検査項目と規格値(重量比 %)
水分 | < 8.0 |
水分エキス含有量 | >32.0 |
灰分(総量) | 4.0~8.0 |
灰分中の水溶性割合 | >43.0 |
酸不溶性灰分 | < 1.0 |
水溶性灰分のpH | 1.0~3.0 |
繊維素含有量 | < 16.5 |
運用上の意義
商業紅茶(CTC、BOPF等)において流通の信頼性と品質確保のために広く用いられている。
品質の客観評価が困難な「官能項目(香り・風味)」に代わる理化学的保証手段。
備考
・最小限の国際同意基準であり、上質茶(高級リーフティーや手摘み茶)の品質評価には用いられません。
・プレミアム紅茶や特殊製法の茶(例:オーガニック・ハンドロール茶など)は別の基準で評価されることがあります。
補足
・輸出入における「紅茶としての認証」や、衛生・品質トラブル時の基準線としてよく参照されます。紅茶業界における最も基本的な「品質保証の土台」です。
・2021年版以降、ISO 3720では缶・パウチ等に密封された紅茶の包装・表示要件が補足されました。また、フレーバーティーやカフェイン除去茶は本規格の対象外と明文化されています。
・さらに、ISO/WD 37201(作業草案中)が今後「紅茶関連用語の国際統一」を目的に登場予定であり、ISO 3720との補完的関係が注目されています。
批判・課題
- 工業的な「最低品質ライン」であり、プレミアムティーや特殊製法茶(CTC以外・ハンドロール等)の評価には不十分。
- 伝統や地域ごとの茶文化の多様性を反映しきれていない。
- この規格は香りや味といった官能的評価を含まないため、プレミアムティー(例:ダージリン、ネパール高地茶など)はISO 3720に完全には適合しない場合もあります。そのため、ISO 3720はあくまで「商業流通上の品質担保」を目的とした規格であって、茶文化全体の価値判断と必ずしも一致するものではない点に留意が必要です。
用語一覧
関連用語一覧
項目 | 内容 |
名称 | ISO 3720 |
正式名称(英語) | Black tea — Definition and basic requirememt |
和訳名称 | 紅茶ー定義および基本要件 |
制定機関 | 国際標準化機構(ISO) |
初版制定年 | 1986年(最新版はISOサイトで要確認) |
関連分野 | 食品規格、貿易、品質保証、農産加工品の国際流通 |
目的 | 紅茶(Black tea)の最低限の品質基準を定め、国際取引、流通における統一的な定義と基準を提供するため。 |
対象範囲 | ・完全発酵された葉(Camellia sinensis 由来) ・脱水・乾燥を経て保存可能な状態の紅茶 ・大量取引(Bulk tea)における「紅茶」としての認証基準 |
補足情報 | ・ISO 3720は「最小限の国際的同意点」 であり等級や品質の上級指標ではない。 ・各国の茶業界や貿易機関はこれを基準にさらに上乗せのローカル規格や等級体系を持つことが多い(例:インドのTea Board、スリランカのSLTBなど) |
関連規格 | ISO 1839(茶のサンプリング法) ISO 6078(茶に関する用語集) ISO 11287(緑茶の定義と基本要件)など |
主要な品質基準項目(分析値)
指標名 | 説明 |
紅茶の定義 | 発酵を経た茶葉であること。 |
異物混入の基準 | 金属片・石・他植物片などの許容限度。 |
水分含量の上限 | 一般的に約8%以下。 |
感官的品質基準 | 外観・香り・色調の基本要件 |
粉末・繊維等の分類指針 | 但し、詳細等級分類は含まれない。 |
水分エキス含有量 (Moisture content) | 茶葉中に含まれる水分の割合。8.0%以下が基準(品質・保存安定性の指標)。 |
灰分含有量(合計) (Total Ash) | 燃焼後に残る無機成分(ミネラルなど)の総量。茶葉の無機成分の目安となる。 |
酸不溶性灰分含有量 (Acid-insoluble ash) | 灰分のうち希塩酸に溶けない部分。砂・石などの無機不純物の混入を検出。 |
灰分全体に占める水溶物の割合 (Water-soluble ash as % of total ash) | 灰分のうち、水に溶ける成分の割合。水溶性ミネラルや可溶性無機成分の評価に使われる。 |
水溶性灰分のpH値 (pH of aqueous ash solution) | 水溶性灰分を水に溶かした時のpH。酸性度またはアルカリ性度の評価に使われる(通常pH5~7の範囲内)。 |
繊維素含有量(粗繊維) (Crude fiber content) | 紅茶中に含まれる粗繊維の量(非消化性成分)。品質の低下や異物混入の判定材料になる。 |