ウィリアム・H・ユーカーズ
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概要
ウィリアム・H・ユーカーズ(William H. Ukers:1873-1945)は紅茶およびコーヒーの両分野において、それぞれ単独でも一生分の仕事に相当する規模の総合書を残した稀有な著者です。
インターネットもデータベースも存在しない時代に、世界各地を実際に回り、産地・流通・文献を集め、一人で体系化を行った点は、現在から見ても異例だとしか言えません。

Photograph by Col. William P. Roome, New York
(Public domain)
人物像
20世紀前半のアメリカにおいて、紅茶とコーヒーという二大嗜好飲料を、文化・産業・流通・歴史の全てを含めて体系化しようとした編集者であり、研究者です。
学者というよりも、
- 調査者
- 記録者
- 編集者
としての性格が強く、自らを前面に出すことは少ないです。しかしその仕事量と到達点は、個人の業績としては明らかに時代の限界を超えています。
方法論の特徴
Ukers の仕事の核心は「理論を立てること」ではなく、世界中に散らばる事実を、一度全て集め切ることにありました。
- 文献調査
- 現地訪問・調査
- 産地・工場・商社への接触
- 用語・慣習・数字の確認
それらを、
- 評価せず
- 選別しすぎず
- まず「全部置く」
という態度でまとめ上げているのです。そのため文章は平板になりやすいのですし、実際そうなっていますが、同時に恣意性が極端に少ないのです。
紅茶とコーヒーを「別のもの」として書いた人
特筆すべき点は、Ukers が紅茶とコーヒーを「同じ嗜好品」として安易に扱わなかったことです。
- 紅茶 → 文化・習慣・階級・儀礼
- コーヒー → 商品・労働・技術・市場
と、それぞれが置かれている社会的文脈を分けて、別の論理で記述したのです。この差異を意識的に書き分けた点に、Ukers の観察眼の鋭さがあるといえます。
なぜ今でも参照されるのか
情報の新しさという点では、Ukers の記述はすでに古いです。しかし、
「どこまでを紅茶として扱うか」
「何を紅茶史に含めるか」
「用語をどう整理するか」
という枠組みそのものは、現在でも多くの後続研究の土台になっています。このサイトや特に『紅茶用語辞典』はUkersの影響を否定はできません。
つまり彼は「答えを出した人」ではなく「問いの地平を確定させた人」だと言えるのです。
辞典的総評
William H. Ukers は、紅茶史・コーヒー史における最後の「一人で全体を引き受けた編集者」であるといえます。
現代において同じ仕事を再現することは、能力の問題ではなく、分業化した社会構造そのものが許しません。
その意味で、彼の仕事は「更新されるべき研究」ではなく、参照され続ける基準点として存在しているのです。
🧸くまの一言
Ukers は、面白い文章を書く人ではありません。
思想家でも、語り部でもありません。
しかし、誰かがやらなければならなかった「全部を一度集める仕事」を、本当に一人でやり切った人なのです。
紅茶か、コーヒーか、どちらか一方だけでも一生分の偉業なのに、両方を書いているのです。
この量と密度を、この時代に、この精度でまとめた人物は、おそらく今後1世紀は現れないでしょう。
だからこそ、彼の本は「面白くはない」です。
だが、なくてはならないものでもあるのです。
それが、William H. Ukers という存在だとくまは思うのです。
🔗リンク
オール・アバウト・ティー(ALL ABOUT TEA)
All About Tea. Vol. 1(原文)
All About Tea, Vol. 2(原文)
All About Coffee(原文)