紅茶と香り

目次

味は嗅覚で感じている

人が何かを知覚(=認知)する時の五官の割合は、
視覚:83%
聴覚:11%
嗅覚:3.5%
触覚:1.5%
味覚:1.0%
というデータがあります。(1)これは「おいしさ」でも同じ割合になるそうです。次に「おいしさ」を感じる要因について割合を出すと、食事の感覚的割合を100%だとした場合

料理自体:5%
食器・カトラリー:25%
残りの70%は食空間の環境(食卓・ロケーション・温度など)

と言われています。(2)それでは実際の飲食の風味自体はどのようになっているのでしょうか。これもデータによると
嗅覚:80%
味覚:20%
となっているそうです。研究者によると嗅覚が95%だと主張する人もいるそうですから、以下に嗅覚が私たちの「おいしさ」を支配しているのかがわかります。

嗅覚と味覚
「おいしさ」を感じる嗅覚と味覚

この割合の根拠は、味覚と嗅覚を認識する場所 (受容体)の数だといわれています。まず、味覚受容体は33種類あります。そして嗅覚受容体は400種類もあります。

そして味覚と嗅覚の受容体で感じとった情報が脳内で統合され「味」として認識されるのです。そのため、全く同じ味覚受容体を刺激する料理(つまりまったく同じ味のはずの料理)でも、嗅覚情報が少しでも変わると「味」の感じ方が変わるのです。
実際
①目隠しして、鼻をつまみ、じゃがいもとりんごを食べ比べても違いが分からなくなる。
②鼻をつまんで食べると味がしなくなる。
③カキ氷のシロップは色と香りを変えているだけで、実は同じ味のシロップ。
④市販の粉わさびは、わさびではなく(からし)に緑色とわさびの香りをつけただけ。
⑤水の入ったカップに「レモン」「ミント」「コーヒー」といった香りをつけた蓋をかぶせて、飲んでもらう実験で、ほとんどの人が水であることがわからなかった。
などの実例があります。

「香り」と「風味」の違い

「香り」も「風味」もよく使う言葉ですが、どう違うのでしょう?
これには諸説あるのですが、一応
香り:鼻から外気を吸うことで感じるにおい
風味:口内から鼻に抜けるときに感じるにおい

というGordon M. Shepherd (ゴードン・M・シェファード)博士の定義があります。(3)

シェファード博士と奥さんのグレース 2018

つまり鼻から直接感じるのが「香り」で何かを食べたり飲んだりしたときに口の中から鼻に抜ける形で感じるのが「風味」ということになります。そしてこの感じ方を
鼻から直接香るもの:オルソネーザル
口から鼻に抜けるもの:レトロネーザル

と呼んでいます。

オルソネーザルとレトロネーザル

「フレグランス」と「フレーバー」の違い

フレグランスとフレーバーもよく使う言葉ですが、日本フレグランス協会によると、
フレグランス・・・化粧品や香水に使用される香料
フレーバー・・・・食品に使用される香料

と区分しています。(4)

紅茶と香り

ダージリン紅茶のsecond flushの香りを表現する際に使われる「マスカテルフレーバー」という言葉が「マスカルテルフレグランス」とは言わないことはフレグランスとフレーバーの違いから正しいことがわかります。

また、香料を加えたEarl Greyなどの紅茶をフレーバーティーというのもこれで説明がつきます。

ようするに、紅茶の香りはそれが紅茶そのものから香るものでも、香料を加えたものでも、すべて「フレーバー」と呼ぶのです。そしてこうしたことがわかると紅茶用のティーカップがコーヒー用と比較してなぜ薄型なのか、なぜ広口なのかなどの理解が深まるのです。(『 紅茶の道具(2) ティーカップ』を参照してください)

紅茶と香料の話を『紅茶と香料(1)~(3)』で扱いましたが、香りと風味など、香りそのものやそれを感じる仕組みなどを説明する機会がなかったので、今回取り上げてみました。

参考文献

1.『産業教育機器システム便覧』(教育機器編集委員会編 日科技連出版社 1972)
2.『美しい洋食器の世界 眺める楽しみ、選ぶよろこび、使うしあわせ 最新版』(講談社 (1998/2/1)
3.『美味しさの脳科学:においが味わいを決めている』(Gordon M. Shepherd著, 小松淳子訳 インターシフト 2014)
4.『日本フレグランス協会HP フレグランスのABC』
http://japanfragrance.org/abc-web/ 2025.04.26確認)