contents- はじめに
- 🟧 1. 紅茶は「黒い茶葉」ではない?
- 🟧 2. ISO 3720:紅茶の定義とその背景
- 🟨 3. ISO 3720の主な内容と品質要件
- 🟨 4. ISO 3720と等級・フレーバーの関係
- 🟩 5. ISO 3720は現場でどう使われているのか?
- 🟦 6. おわりに:なぜ「定義」が大切なのか?
はじめに
「紅茶って何?」と聞かれたら、なんと答えますか?
おいしいお茶? 黒くて渋みのある飲み物?
それとも、緑茶や烏龍茶とは違う「何か」?
実は、世界中で流通する「紅茶」には、ちゃんとした定義があります。
国際規格「ISO 3720」では、「どんなものを紅茶と呼ぶのか」を製法ベースで明確に定めています。
ここでは、この「紅茶の定義とは何か?」をテーマに、専門家や生産者だけでなく、日常的に紅茶を楽しむ人にも役立つ視点から解説していきます。
- 紅茶はどうやって定義されているの?
- 「茶葉」と「紅茶」の違いって?
- なぜこうした定義が必要なの?
そんな疑問を、国際規格の文脈から、わかりやすくひもといていきましょう。
🟧 1. 紅茶は「黒い茶葉」ではない?
スーパーの棚ではわからない紅茶の正体
「紅茶って、黒い茶葉のことじゃないの?」
そう思った方は、実は世界基準でいう「紅茶」の定義をまだ知らないかもしれません。日本では黒っぽい乾燥茶葉を見て「紅茶」と認識するのが一般的ですが、それはあくまで「見た目」の話です。国際的には、茶葉の色ではなく「どのように作られたか」によって紅茶と認められるかどうかが決まります。
紅茶とは、単なる黒い茶葉ではありません。
それは「発酵(正確には酸化)」と「乾燥」という工程を経たことで生まれる、独特の香味と抽出液の色を持つ飲み物です。つまり、紅茶の本質は製法にあります。そしてこの製法をもとに、世界中で共通の理解を持つために作られたのが、国際標準化機構(ISO)による「紅茶の定義」です。とくに、ISO 3720という規格は、紅茶が「紅茶であるための最低限の条件」を記した、いわば「紅茶のパスポート」とも言える存在なのです。
🟧 2. ISO 3720:紅茶の定義とその背景
製法によって定まる「紅茶」の国際基準
国際標準化機構(ISO)は、食品や工業製品など幅広い分野で「共通のルール」を定めるための国際的な団体です。そのなかで紅茶について定義しているのが、ISO 3720:2011 “Black tea — Definition and basic requirements”(紅茶 — 定義および基本要件)という規格です。
この規格が定める紅茶とは、以下のような条件を満たすものです:
酸化酵素による処理(いわゆる「発酵」)を経て、乾燥されたもの。
湯で抽出したときに、特有の色・香り・味を持つ抽出液(liquor)を生成すること。
ISO 3720:2011
つまり、見た目が黒いことは必要条件ではありません。ISOが重視するのは「製法のプロセス」と「抽出液(liquor)の性質」なのです。
✅ 定義のポイント
- 紅茶は「製法」で定義される。
- 「発酵」とは、茶葉の酸化を指す。
- 規格では、liquor(リカー)=抽出液の色・香味が品質の鍵とされる。
🟨 3. ISO 3720の主な内容と品質要件
「紅茶」と呼ぶために必要な最低限の条件とは?
ISO 3720は、「紅茶」を名乗るための基本的な品質要件(basic requirements)を定めています。これはあくまで最低限の共通基準であり、特定の産地やブランドの「個性」や「等級」とは別に、紅茶としての共通土台を保証するためのルールです。
主な要件は以下の通りです。
🔹 茶葉の処理(Processing)
- 酸化酵素の働きによって茶葉が変化(酸化/いわゆる「発酵」)していること
- 最終製品が乾燥された形態であること
👉 製法がもっとも重要であり、「発酵していること」と「乾燥していること」が紅茶の定義の中心です。
🔹 茶液の特性(Liquor Characteristics)
- 湯で抽出したとき、明瞭で清澄な液体であること
- 特有の香りと味を持つこと(ただし詳細な数値基準はなし)
👉 ここでは、水色(すいしょく)=抽出液の見た目と、香味のバランスが評価対象になります。
🔹 異物・異臭の排除
- 茶葉以外の植物片や異物が含まれていないこと
- 異臭やかび臭がしないこと
👉 これは食品としての安全性や品質維持のための、最低限の衛生基準といえます。
✅ まとめると
- 製法が正しいこと(発酵して乾いていること)
- お湯で淹れたときに、きれいで香りがあること
- ゴミや変なにおいがないこと
このように、ISO 3720は「紅茶であるための共通の約束」を最低限定めたものです。次のセクションでは、こうした基準と実際の茶葉(Loose Leafやティーバッグなど)との関係、そして「等級」や「フレーバー」の扱いについて検討します。
🟨 4. ISO 3720と等級・フレーバーの関係
どこまでが「紅茶」なの?
ISO 3720は「紅茶」の基本的な製法と品質に関する共通基準を示すものであり、紅茶の品種・等級・ブランドの違いには直接関与しません。ですが、この基準があることで、どんな茶葉も最低限「紅茶」として認定されるためのラインが明確になります。
🔹 紅茶の「等級」は別の分類軸
FOP、BOP、CTCなどの等級分類は、ISO 3720では定義されていません。これらは茶葉の形状・サイズ・加工法に応じた商業的分類であり、流通や価格設定に使われます。つまり、等級は紅茶の中での「内部分類」であって、「紅茶であるか否か」はISO基準が先に来ます。
🔹 フレーバードティーやミルクティーは?
ISO 3720は「香料の有無」や「加糖」「ミルク添加」には言及していません。つまり、アールグレイのようなフレーバードティーも、紅茶(black tea)をベースにしていれば、基本的にはISO対象の紅茶です。ただし「加味された製品としての品質評価」はまた別の基準(CodexやJASなど)に委ねられます。
🔹 ティーバッグや粉末は対象外?
細かく粉砕された茶葉(ダスト)やCTC製法のティーバッグ用紅茶も、紅茶の製法に則っていればISO基準に含まれます。ただし、極端に細かい粉末やインスタントティーは、別の加工食品扱いとなる場合があります。
✅ まとめると
- 等級(FOPとかBOP)は、お茶の中の「ランク」みたいなもの
- フレーバーをつけても紅茶のルールに合っていればOK
- ティーバッグも紅茶、インスタントはちょっと別かも
ISO 3720は、世界中で取引される紅茶が「最低限の品質」を持っていることを保証する役割を担います。ダージリンでもアッサムでも、ティーバッグでもリーフティーでも、「紅茶」である限り、この土台の上に乗っているのです。
🟩 5. ISO 3720は現場でどう使われているのか?
流通・輸出・制度における「紅茶の基準」という役割
ISO 3720は単なる理論的な定義にとどまらず、実際の紅茶取引や食品制度の現場でさまざまな形で活用されています。とくに国境を越えた取引において、この規格は最低基準としての「共通言語」の役割を果たしています。
🔸 貿易の現場では「最低基準」として機能
紅茶を輸出入する際、「ISO準拠」の記載があれば、受け入れ国側での品質証明に役立ちます。特に途上国から欧州・日本へ輸出される紅茶では、農園や工場がISO 3720の内容を理解・遵守していることが信頼の材料になります。また、一部の国では、「ISO 3720準拠であること」を輸入認可の前提条件とするケースもあります。
🔸 日本ではどう使われている?
日本ではJAS法により「紅茶の格付け制度」は存在せず、ISO 3720も法的拘束力はありません。ただし、輸入業者や大手販売者が自社基準としてISOを参照しているケースは多く見られます。
また、有機JASや残留農薬検査といった別制度の「前提条件」として、紅茶の定義そのものをISOに準拠させている実務も確認できます。
🔸 なぜ「ISO 3720に合致」が重要なのか?
現代の流通では、「茶」であっても国によって定義が異なる場合があります(例:中国緑茶 vs. インド紅茶)。その中でISO 3720があれば、「この製品は確かに “black tea” である」という最低ラインが保証されます。特にECサイトや国際的なバイヤーが商品を確認する際、「ISO準拠であること」は商品カテゴリーの認定に役立ちます。
✅ まとめ
- ISO 3720は「このお茶は紅茶ですよ」と世界中に伝える共通ルールです。
- 日本では法律ではないけれど、企業が参考にしています。
- 貿易や輸出のときにとても大事な基準になっています。
🟦 6. おわりに:なぜ「定義」が大切なのか?
ISO 3720が教えてくれる「紅茶という概念の共有」
紅茶は、もはや特定の国や文化に限定された飲み物ではありません。世界中の生産者、流通業者、消費者が「同じもの」を指すために、共通の定義が必要なのです。ISO 3720は、その「共通語」として、非常に重要な役割を担っています。
🔸 言葉だけでなく「現場」を支える定義
「紅茶」と言ったときに、ある人は渋い飲み物を想像し、別の人はフルーツティーを思い浮かべるかもしれません。このようなズレを避け、品質や種類を正確に伝えるには、定義が不可欠です。たとえば、「紅茶=完全発酵茶である」と定義することで、緑茶や烏龍茶との違いが明確になります。
🔸 「曖昧さ」を乗り越えるための国際規格
茶の文化は国ごとに異なり「紅茶」と言っても意味が通じない地域もあります。だからこそ、ISOのような中立的な国際基準が必要です。それにより、世界中の茶園・工場・輸出入担当者が、共通の前提で話ができるようになります。
🔸 そして、消費者の信頼のために
規格とは、業界内の秩序を保つだけでなく、消費者にとっての「信頼の土台」でもあります。なので「この紅茶はISO 3720に準拠している」と言えることは、安全・品質・分類の明確さを意味しています。紅茶に限らず、あらゆる「食品の言葉」において、定義の明確さが信頼を支えます。
✅ まとめ
- 紅茶の定義は「製法」によって決まる(発酵・酸化→乾燥)
- ISO 3720は、その定義と品質を世界的に共有するための国際規格
- この「共通語」があることで、生産者・流通・消費者が信頼できる紅茶の取引が可能になる