ISOとは何か?(5) ISOとJAS・Codex:日本と世界の規格の交差点

Contents

はじめに ラベルには書かれていない“「世界の事情」

「この紅茶、有機って書いてあるけど、JASマークがない……?」

お茶を選ぶとき、そんな疑問を持ったことはありませんか?
あるいは、「ISO認証を受けている」などと誇らしげに書かれている紅茶もあります。けれど、それが必ずしも「オーガニック」や「安全」を意味するわけではない、この微妙なすれ違いの背景には、JAS法、Codex規格、ISO規格という3つの制度の違いがあります。

そしてそれぞれの制度が持つ「立場」や「目的」の違いが、ときに紅茶のラベルにまで影響してくるのです。


1.規格とは何か? ISO・JAS・Codexの役割を比べてみる

規格名誰が作る?目的使われる場面拘束力
ISO
(国際標準化機構)
民間主導工業的な定義・品質統一香料・製法・安全試験など任意(契約や取引の信頼性)
JAS
(日本農林規格)
日本の農水省表示と流通のルール有機表示・紅茶の等級表示など法的拘束あり
Codex
(国際食品規格)
FAO・WHO主導食品貿易の安全性と共通基準農薬残留・食品添加物などWTO紛争で参照される国際基準

この表は「規格とは何か? ISO・JAS・Codexの役割を比べてみる」というテーマで、3つの主要な食品関連規格の違いとつながりを、わかりやすく説明しています。

ISOについて

正式には「国際標準化機構」です。
世界中の企業や機関が集まって、共通のモノサシを作る場所です。
たとえば「紅茶の定義」「試験方法の手順と基準」などといった技術的なルールを整備します。
参加は任意ですが、国際的な商取引では、これが「暗黙の共通語」として働きます。

JAS

「日本農林規格」です。日本の国内法によって定められています。
農林水産省が定めているもので、例えば「有機JASマーク」が有名です。
これは日本の市場で安心して食品を選ぶための基準で、違反すると販売できなかったり、表示できなかったりします。

Codex(コーデックス)

世界的な「食品安全の基準書」とも言える存在です。
国連のFAOとWHOが共同で運営していて、食品の残留農薬の基準や、添加物の上限など、国際貿易に欠かせないルールを作ります。
「WTOで揉めたとき、最終的な基準になる」こともあるので、非常に影響力があります。

3つの規格の違いは?

  • ISO:企業・団体が自主的に守るための国際標準。
  • JAS:日本国内の法律に基づく表示・取引ルール。
  • Codex:国際貿易や食品安全の基準。

どれも「ルール」ですが、「誰が作るのか」「何のための規格か」「法的な強制力があるか」で大きく違います。

共通点は?

どれも、消費者の安全・安心のために設計されているということです。
そして、信頼できる表示や流通の基盤として欠かせないという点では一致しています。

紅茶やお茶のように、国を越えて愛される食品には、こうした規格が背後にしっかりと存在しています。
私たちが安心して飲めるのは、誰かが決めたルールが、目に見えないところで機能しているからなのです。

それぞれはすべて「正しい」規格ですが、その前提や使われ方が違います。
たとえばISOが重視するのは「どう定義し、どう計測するか」です。一方で、JASは「その表示が日本の消費者にとって信頼できるかどうか」になります。そしてCodexは、国際貿易の場で使える「妥協点としての基準」です。


補足 なぜ「妥協点としての基準」なのか?

Codex(コーデックス規格)は、科学的・衛生的な安全性をベースにしていますが、実際の制定プロセスでは「各国の法制度や利害の衝突」が避けられません。そのため、最終的に採用される規格は、「科学的理想」というよりも、「政治的に合意できる現実的ライン」として策定されることが多いのです。

この意味で、Codexは「各国が合意できる最大公約数」を目指すため、「妥協点としての基準」という一面を持っています。

これはネガティブな意味ではなく、むしろ多様な価値観と制度のあいだで、信頼できる国際ルールを築く技術でもあります。いわば、Codexは「科学と政治のあいだの芸術」と言えるかもしれません。


2.なぜすれ違うのか 制度の「読者」が違う

  • ISO:業者・工場・国際企業が主な読者
  • JAS:日本国内の消費者・監督官庁を対象
  • Codex:各国の政府・貿易交渉の基準として使われる

つまり、ISOで「オーガニック的」な製法を守っていても、それだけではJAS有機認証は取れません。
EUで有機認証を取得していても、日本に「オーガニックとして輸出する」にはJASの認証を別途取得する必要があるのです。


3.実例 紅茶の現場で起きていること

たとえば、スリランカの紅茶農家がEUの有機認証とISO 22000の安全認証を持っていたとしても、日本に「有機」と表示して輸出するにはJAS有機の認証機関を通す必要があります。

一方で、日本の小さな紅茶農園では、JAS認証のコストと手間が高すぎて、実際には有機で育てていても「有機」とは表示できないというケースもあります。

そして、CodexやISOでは認められている成分でも、JASでは表示義務が生じる、そうした「制度のすきま」が、しばしば現場を悩ませているのです。

たとえば先日私が手にしたネパールのお茶には、
『2025年春摘み JEAU CHAU ダイアモンドヒマラヤ オーガニック紅茶 茶葉 50g 最上級グレード SFTGFOP 有機栽培 / 無添加 / 無農薬 / 有機JAS』
という、とても長い名前がついていました。
けれどこの長さこそが、遠いヒマラヤの国から「本気で日本の消費者に届けたい」という願いと、そこに費やされた手間や時間を語っているのです。


4.見えてこない境界線 制度が交差する場所で起きること

こうしたすれ違いは、誰かが悪いわけではありません。でも、制度が「違う言語」で書かれている以上、それらの交差点では翻訳者のような役割が必要になります。

  • 国際的なISOの定義
  • 輸出入の際に参照されるCodex
  • 国内で法的に表示を縛るJAS法

この3つの規格が交差する場所にこそ、消費者の信頼と、生産者の努力がすれ違わないための工夫が求められているのです。


ラベルの裏には規格のドラマがある

スーパーで何気なく手に取った紅茶のパッケージ。その「有機」表示や、ラベルの小さなロゴマークの裏側には、国際的な制度のせめぎ合いと、それを乗り越えようとする生産者や輸入者たちの工夫が詰まっています。

そして今も、小さな茶畑の片隅では、「本当の意味での“信頼される一杯”」をめざして、見えない制度の壁と静かに向き合っている人たちがいます。