聞く紅茶教室
講義時間:約11分
第48講 茶園は、アルゴリズムになる
昔、茶園を管理していたのは、人間の「目」でした。
空を見る。
葉を見る。
土を触る。
風を感じる。
そして、「そろそろ摘み時だ」と判断する。
茶園とは、自然と人間が対話する場所だったのです。
けれども現在、その風景は少しずつ変わり始めています。
センサー。
ドローン。
衛星データ。
AI解析。
つまり茶園は今、「データ空間」へ変わり始めているのです。
特に中国では、スマート茶園と呼ばれる取り組みが急速に進んでいます。
茶畑の中に、温度センサーを置く。
湿度を測る。
土壌水分を記録する。
日照を解析する。
そして、その情報をAIがまとめて分析する。
昔なら、人間が経験で読んでいた変化を、機械が数値として追い始めているのです。
ここで重要なのは、「機械化」と聞いて想像する世界とは、少し違うということです。
単純に、人を減らすだけではありません。
むしろ現在の問題は、「自然が複雑すぎる」という点にあります。
たとえば、山ひとつ違うだけで、気候は変わります。
同じ茶園でも、
斜面。
標高。
日当たり。
霧。
風。
それによって、葉の育ち方は微妙に違う。
つまり茶園とは、本来、「ばらつきの世界」なのです。
しかしAIは、そのばらつきを、大量に比較できます。
どの場所が乾きやすいのか。
どこで害虫が増えやすいのか。
どの区画の香りが強くなりやすいのか。
それを、人間より速く、長期間で比較できる。
つまりAIは、「自然の癖」を読み始めているのです。
ここで象徴的なのが、ドローンの存在です。
昔、茶園を見るには、人間が歩かなければなりませんでした。
しかし今は、空から茶園を観察できます。
葉の色。
成長速度。
乾燥状態。
病害。
それを画像解析で確認する。
つまり茶園は、「空から読む対象」に変わり始めたのです。
さらに現在、一部ではロボット摘採の研究も進んでいます。
茶摘みは本来、非常に繊細な作業です。
どの芽を摘むのか。
どこを残すのか。
それによって品質は変わる。
だから長い間、「機械化が難しい」と言われてきました。
しかしAI画像認識が進歩すると、機械は少しずつ「芽」を識別できるようになります。
つまり機械は、「どれが摘むべき葉か」を学び始めているのです。
ここで、少し不思議なことが起きます。
昔、茶園とは、「自然の場所」でした。
けれども現在は、
センサー。
クラウド。
アルゴリズム。
データ解析。
そうしたものが茶園へ入り込み始めています。
つまり茶園は、「自然と人の対話の場」から、「自然とアルゴリズムが接続される場所」へ変わり始めているのです。
もちろん、ここには不安もあります。
もしすべてがデータ化されたら、紅茶は均一なものになってしまうのではないか。
職人は不要になるのではないか。
自然は管理されすぎてしまうのではないか。
そう考える人もいます。
けれども、一方でAIには、人間を助ける可能性もあります。
近年、気候変動によって、茶園は大きな影響を受けています。
豪雨。
干ばつ。
異常気温。
害虫。
そうした複雑な変化を、人間だけで追い続けるのは、ますます難しくなっています。
だからAIは、「自然を支配する道具」というより、
「複雑になりすぎた自然を、人間が理解するための補助」
として必要になり始めているのです。
そして、ここで面白いことが起きます。
AIが自然を読み始めれば読み始めるほど、人間は逆に、「数値化できないもの」を意識し始めるのです。
今年の空気。
香りの印象。
なぜか忘れられない一杯。
人が「美しい」と感じる感覚。
そうしたものは、まだ完全にはアルゴリズムへ変換できません。
つまり未来の茶園は、
完全な機械化でもなく、
完全な昔ながらでもなく、
人間とAIが、一緒に自然を読んでいく場所へ変わっていくのかもしれません。
くまのひとりごと
人間とAIが、一緒に自然を読んでいくというのは、
ある種の「美しさ」が、
そこにはあると思います。
しかもそれは「人間対AI」、
ではなくて、
「人間単独では見切れなくなった自然を、
AIと一緒に読み解く」
という方向なのです。
そして面白いのは、
AIが入ることで逆に、
「人間にしか感じられないもの」
が、より強く浮かび上がる可能性があることです。
だから未来は案外
AIが自然を壊す
でも、
人間がAIを拒絶する、
でもなく、
「AIによって、人間がもう一度自然を深く見る」、
という方向へ行くのかもしれません。