聞く紅茶教室

講義時間:約11分

第49講 コーヒーは先に機械へ渡された

AIが紅茶へ入り始めている。

そう聞くと、多くの人は、「そんな時代になったのか」と驚くかもしれません。

けれども実は、似た変化はすでに、コーヒーの世界で先に始まっていました。

しかも、その速度は、かなり速かったのです。

コーヒーは長い間、「職人の飲み物」でした。

焙煎。

抽出。

蒸らし。

湯温。

挽き目。

バリスタたちは、それを経験と感覚で調整していました。

特にスペシャルティコーヒーの世界では、「人の技術」が強く重視されてきました。

ところが現在、その世界へ、AIと自動化が急速に入り込んでいます。

象徴的なのが、「ロボット・バリスタ」です。

現在、一部のカフェでは、ロボットアームがコーヒーを淹れる実験が行われています。

カップを置く。

抽出する。

ミルクを注ぐ。

提供する。

つまり「接客以外」の部分を、機械が担当し始めているのです。

もちろん、最初は話題性の側面が強くありました。

けれども現在は、少し意味が変わり始めています。

なぜなら、機械の方が「安定」するからです。

人間には、疲労があります。

体調もある。

集中力も変わる。

しかし機械は、同じ条件なら、同じ抽出を繰り返せる。

つまりコーヒーは、「再現性」を求めて機械化され始めたのです。

ここで、さらに大きな変化が起きます。

AIは、コーヒーの「味」そのものを分析し始めました。

たとえば現在、Demetriaのような企業では、AIによるコーヒー品質評価の研究が進んでいます。

コーヒーの香気成分を分析する。

化学データを比較する。

過去の評価と照合する。

そして、「このコーヒーは、どういう特徴を持つか」を予測する。

つまりAIは、「味覚評価」の領域へ入り始めているのです。

ここで重要なのは、AIは「美味しい」を感じているわけではないという点です。

AIは、人間の評価パターンを、大量比較している。

つまり、

どの香りが高評価されるのか。

どの酸味が好まれるのか。

どんなバランスが人気なのか。

それを、人間より巨大な規模で分析し始めているのです。

さらに、焙煎そのものも変わり始めています。

アメリカのBellwetherという企業では、AI支援型の自動焙煎システムが開発されています。

焙煎とは、本来、非常に難しい作業です。

火力。

時間。

排気。

豆の状態。

それによって、味は大きく変わる。

だから焙煎師は、「職人」の代表のように語られてきました。

しかし現在、AIは、

温度変化。

過去の焙煎データ。

豆の特徴。

消費者評価。

それらを同時に比較しながら、「最適な焙煎」を提案し始めています。

つまりコーヒーの世界では、

抽出。

評価。

焙煎。

そのすべてが、少しずつ機械へ渡され始めているのです。

では、人間のバリスタや焙煎師は、不要になるのでしょうか。

ここで面白いことが起きます。

機械化が進めば進むほど、人間は逆に、「人間らしさ」を求め始めるのです。

会話。

空気。

その店の香り。

人が淹れてくれる時間。

つまりコーヒーは、「味だけ」で飲まれていたわけではなかったことが、逆に見えてきました。

これは紅茶にも似ています。

AIは、大量比較ができます。

再現性にも強い。

巨大なデータ処理もできる。

けれども最後に、

なぜこの一杯が忘れられないのか。

なぜこの香りに救われるのか。

そこまでは、まだ完全には説明できません。

だから現在、コーヒーの世界で起きていることは、「人間が消える未来」ではないのかもしれません。

むしろ、

機械が再現性を支え、

人間が記憶を残す、

そんな役割分担へ近づいているのです。

そして紅茶の世界も、今まさに、その入口へ立ち始めています。


くまのひとりごと

高速道路のサービスエリアに、
ちょっとお高いコーヒーの自動販売機があります。

コーヒーを豆から淹れてくれる、
自動販売機です。
この自動販売機は、ずいぶん以前からありました。

だから、コーヒーのAI化は時間の問題、

だと思っていました。

これが紅茶の世界にも入ってくるのも、
多分時間の問題でしょう。

それでも人間ならでは、
というものは残り続けると思います。
AIと人間が協力しあって共に働く。
その時人間は、
人間にしかできないことに、専念できるのだと思います。
それこそ本当の意味での、
人間性の解放、なのかもしれません。
そしてそうした中で淹れられる紅茶は、
きっとおいしいに違いないと思います。