聞く紅茶教室
講義時間:約11分
第59講 日本は、技術と手仕事を両方選んだ
いま、日本の紅茶は、大きな分岐点に立っています。
それは、
「技術」
と
「手仕事」
が、同時に進み始めているということです。
一見すると、この二つは反対のものに見えるかもしれません。
機械化。
自動化。
AI。
それは、「人間の手」を減らしていく方向に見えます。
一方で、クラフト紅茶や和紅茶では、
手摘み。
小ロット。
手作業。
そうした「人間らしさ」が強く重視されています。
では、日本はどちらへ進もうとしているのでしょうか。
面白いことに、日本は、その両方を同時に選び始めているのです。
まず、日本は世界有数の「技術国家」です。
農業ロボット。
センサー。
自動制御。
画像解析。
そうした分野で、日本は非常に高い技術力を持っています。
実際、緑茶分野ではすでに、
自動摘採。
品質センサー。
AIによる評価。
発酵制御。
そうした技術が少しずつ導入され始めています。
そして紅茶も、その延長線上にあります。
つまり日本は、
「技術によって、高品質を安定化する」
方向へ進み始めているのです。
これは決して悪いことではありません。
近年、気候変動によって、茶葉づくりはますます難しくなっています。
気温。
雨量。
害虫。
乾燥。
昔の経験だけでは、追い切れない変化も増えてきました。
だからAIやセンサーは、
「人間を不要にする道具」
というより、
「複雑になりすぎた自然を、人間が理解する補助」
として必要になり始めているのです。
しかしその一方で、日本では逆に、
「手仕事の価値」
も強くなり始めています。
小さな茶園。
手摘み。
天日萎凋。
少量生産。
作り手の名前。
つまり人びとは、
「人が作ったこと」
そのものに価値を感じ始めているのです。
ここで面白いのは、
技術が進めば進むほど、
逆に「人間らしさ」が価値を持ち始めるという点です。
AIは、安定した品質を作れます。
大量比較も得意です。
再現性も高い。
けれどもその一方で、人間は、
今年だけの香り。
この人だけの作り方。
この土地の空気。
そうした「再現できないもの」を求め始める。
つまり未来では、
AIが「均質な高品質」を支え、
人間が「唯一性」を生み出す、
そんな役割分担が進んでいくのかもしれません。
そしてここに、日本らしさがあります。
日本は昔から、
「技術」
と
「手仕事」
を、どちらか一方だけにしない国でした。
最先端の工業製品を作りながら、
同時に職人文化も残してきた。
大量生産を行いながら、
手作業の価値も守ってきた。
つまり日本は、
「効率」と「繊細さ」を、両方抱え込む文化を持っているのです。
だからこれからの日本紅茶も、
AIで作られる紅茶。
人が手で作る紅茶。
その両方が共存していくのかもしれません。
そして、その二つを両方理解できる国だからこそ、
日本はこれから、
新しい紅茶文化を作っていけるのかもしれないのです。
くまのひとりごと
世界に誇れる最先端技術。
そして、
世界に誇れる職人技。
この二つは、
日本の大きな特徴だと言ってよいのかもしれません。
そして実は、
この二つが共存していることそのものが、
日本文化の特徴なのだと、
くまは思っています。
少し注意して見てみると、
この構造は、
さまざまな分野に共通しています。
最先端技術を発展させながら、
同時に手仕事も残していく。
効率化を進めながら、
繊細さも守ろうとする。
日本は、
そういう文化をずっと続けてきました。
そして現在、
少子高齢化や、
地方の人口減少は、
農業をはじめとする第一次産業へ、
大きな影響を与えています。
すべてを手仕事だけで支えるのは、
物理的に難しくなり始めています。
だからこそ今後は、
手仕事を大切にしながら、
手仕事だけでは支えきれなくなった部分を、
最先端技術で補っていく。
そして、
技術によって生まれた余裕で、
「人間にしかできない仕事」
を続けていく。
そうした知恵が、
ますます重要になっていくのかもしれません。
国産紅茶も、
その例外ではありません。
最先端技術と、
世界に誇れる手仕事。
その両方が、
これからの和紅茶を、
どんなふうに育てていくのか。
くまは、
とても楽しみにしているのです。