聞く紅茶教室

講義時間:約10分

第80講 植物としての茶

お茶の違いというと、

緑茶。
紅茶。
烏龍茶。

そうした種類の違いを思い浮かべる人が多いかもしれません。

でも実は、その前に、

「茶の木そのもの」

にも違いがあります。

そしてその違いは、
大きく三つの層から生まれています。

自然の違い。
人の選択。
そして、育て方の文化です。


まず、
茶の木の正式な名前は、

Camellia sinensis。

カメリア・シネンシスです。

ツバキ属の植物で、
ツバキやサザンカの仲間でもあります。

この茶の木には、
大きく分けて二つの主要な変種があります。


一つは、
中国の山地に適した、

シネンシス種。

もう一つは、
インド・アッサム地方で育つ、

アッサミカ種です。


シネンシス種は、
葉が小さく、
香りが繊細です。

冷涼な気候に適していて、
上品な風味を生みます。

一方アッサミカ種は、
葉が大きく、
力強い味わいになります。

濃い水色と、
厚みのある味を作るのが特徴です。


世界のさまざまなお茶は、
この二つの系統を土台にして生まれています。

しかも、これは人が作った違いではありません。

長い時間をかけて、
自然環境の中で育まれてきた違いなのです。


しかし実際の茶園では、
もっと複雑なことが起きています。

シネンシス種とアッサミカ種は、
長い歴史の中で交雑し、
さまざまな個性を持つ茶樹が生まれました。

そこで人は、

「この香りが良い」
「この味が良い」

という茶を選び、
品種として固定していったのです。


日本で特に有名なのが、
「やぶきた」です。

日本の茶園の、
七割以上を占めるとも言われる、
代表的な品種です。

紅茶用品種では、
「べにふうき」なども知られています。


ここで重要なのが、
増やし方です。

茶には、
二つの増やし方があります。

種から育てる「実生」。

そして、
同じ個体を挿し木で増やす、
「クローン」です。


実生は、
多様な個性を生みます。

しかし品質は、
ばらつきやすくなります。

一方クローンは、
均一な品質を保てます。

つまり、

多様性を取るか。
安定性を取るか。

そこにも、
人の選択があるのです。


さらに、
茶の木は、
育て方によっても姿を変えます。

自然のまま、
大きく育つ「喬木型」。

剪定を繰り返し、
低く整えられる「灌木型」。

この違いです。


中国雲南省の古樹茶などでは、
数百年生きる喬木型の茶樹が見られます。

これは、
人が自然から「採る」文化を象徴しています。

一方、
日本の整然とした茶畑は、
灌木型です。

人が管理し、
育てる文化を表しています。


つまり茶畑の形そのものが、

その土地の、
労働観や美意識を語っているのです。


そして、
もう一つ大切なのが、
産地です。

茶は、
育つ場所によって、
大きく性格を変えます。


標高が高くなると、
気温が下がります。

すると茶葉は、
ゆっくり育つようになります。

その代わり、
香りが少しずつ蓄積され、
華やかな高山茶になります。


逆に、
南国の平地では、
成長が早くなります。

その結果、
渋みの強い、
力強い味が生まれます。


つまり茶とは、

植物である前に、
土地を映す鏡でもあるのです。

その葉の形と香りには、

自然。
人。
文化。

そのすべてが、
静かに宿っているのです。


くまのひとりごと

くまは、
茶畑の写真を見るのが、
とても好きです。

同じ「お茶の木」なのに、

日本の整った茶畑と、
中国の古樹茶の風景では、
まるで空気が違います。

きれいに並んだ茶畑には、
人が育ててきた文化が見えます。

山の中の古樹茶には、
自然の時間の長さが見えます。

お茶は、
ただの植物なのに、

その育ち方を見るだけで、
人間の文化まで見えてくる。
そういう気がします。

そこが、
くまにはとても面白く感じるのです。