聞く紅茶教室
講義時間:約9分
第81講 酸化と発酵
「お茶は発酵食品です」
そんな説明を、
聞いたことがある人も多いと思います。
でも実は、
この言い方は、
半分だけ正しくて、
半分は少し違っています。
なぜこんな混乱が起きたのでしょうか。
その理由は、
「酸化」
という現象が、
昔は「発酵」と呼ばれていたからです。
まだ科学が発達していなかった時代、
茶葉が変化していく様子は、
発酵しているように見えました。
茶葉の色が変わる。
香りが変わる。
味が変わる。
そのため、
人々は長い間、
これを「発酵」と呼んできたのです。
しかし後になって、
本来の発酵とは、
微生物の働きによる変化
であることが分かってきました。
そして、
紅茶や烏龍茶で起きている主な変化は、
「酸化」
であることも分かったのです。
現在では、
国際的には、
oxidation。
つまり、
「酸化」という言葉が、
一般的になっています。
一方、
日本では、
昔の製茶用語の流れを受け継ぎ、
今でも「発酵」という言葉が、
正式に使われています。
そのため、
少し混乱が残っているのです。
つまり、
お茶の「発酵」という言葉には、
実は二つの意味が含まれている。
そこが重要なのです。
まず一つ目は、
紅茶や烏龍茶に見られる、
「酸化」です。
茶葉には、
カテキンなどの成分が含まれています。
葉が傷つき、
空気に触れると、
それらが酸素と反応し、
少しずつ変化していきます。
その結果、
紅茶らしい香り。
赤い水色。
深い味わい。
が生まれていくのです。
つまり、
同じ茶葉なのに、
緑茶になったり、
烏龍茶になったり、
紅茶になったりする。
その大きな違いは、
この「酸化」の度合いにあります。
人はこの変化を調整するために、
さまざまな技術を生み出しました。
まず、
「殺青」。
加熱によって、
酵素の働きを止めます。
これによって、
酸化を止め、
緑茶らしい香りを保ちます。
次に、
「揉捻」。
葉を揉み、
細胞を壊します。
すると、
酸化が進みやすくなります。
そして、
「乾燥」。
熱で水分を飛ばし、
香りを固定します。
どの工程を、
どの順番で、
どの程度行うか。
その違いが、
緑茶。
烏龍茶。
紅茶。
それぞれの個性を作っているのです。
つまり酸化とは、
単なる化学反応ではありません。
それは、
「人が自然にどこまで介入するか」
という、
文化の選択でもあるのです。
一方で、
本当に「発酵」と呼べるお茶もあります。
それが、
黒茶です。
プーアル茶や、
六堡茶などでは、
乾燥後の茶葉に、
再び湿度を与えます。
すると、
微生物や菌が働き始めます。
これは、
紅茶の酸化とは違い、
微生物による、
本当の意味での発酵です。
菌たちが茶葉を分解し、
独特の熟成香を作り出していくのです。
つまり、
紅茶の「発酵」と、
黒茶の「発酵」は、
同じ言葉でも、
実は別の現象なのです。
茶とは、
酸化と発酵の、
ちょうど間に立つ文化なのかもしれません。
酵素を止めること。
菌に委ねること。
そのどちらも、
人間が自然と交わしてきた、
長い対話の形なのです。
くまのひとりごと
「発酵」という言葉は、
紅茶好きでも、
意外と混乱しやすい言葉です。
くまも最初は、
「紅茶は発酵茶」
と言われて不思議な感じがしていました。
でも調べていくと、
紅茶は主に「酸化」。
プーアル茶などは、
微生物による「発酵」。
という違いが、
見えてきます。
ただ、
面白いのは、
昔の人たちは、
科学的に正確ではなくても、
「葉が生き物のように変化していく感じ」
を、
ちゃんと感じ取っていたことです。
だから、
「発酵」という言葉が、
今でも残っているのかもしれません。
くまはそこに、
昔の人の感覚の鋭さを、
少しだけ感じるのです。