聞く紅茶教室

講義時間:約11分

第83講 国際規格としての茶

六大茶類が生まれた時、
お茶の分類は、
まだ中国語の世界の中にありました。

しかしその後、
茶は世界中へ広がっていきます。

すると、
新しい問題が生まれました。


国によって、
言葉が違う。

分類も違う。

同じ茶を指していても、
呼び方が一致しない。

そんな混乱が起きるようになったのです。


たとえば、
中国語では、

紅茶。

でも英語では、

black tea。

つまり、
「黒いお茶」です。


さらに、
中国で「黒茶」と呼ばれるものは、

英語では、
dark tea。

と呼ばれます。


つまり、
同じ茶なのに、

色の感覚が、
国によって逆転している。

そんな現象が起きていたのです。


こうした混乱を整理するために、
国際的な標準化が進められていきました。

そこで登場するのが、

ISO。

国際標準化機構です。


ISOは、

「世界中で、
同じものを、
同じように扱う」

ための仕組みを作る組織です。


ネジのサイズ。

コンピューターの規格。

食品の基準。

そして、
お茶の分類まで。

世界共通の「言葉」を、
作ろうとしているのです。


茶の分野では、
多くの産茶国が参加しています。

中国。
インド。
スリランカ。
日本。
イギリス。
ケニア。

それぞれ、
文化も歴史も違う国々です。


つまり、
お茶の国際規格とは、

単なる技術の話ではありません。

文化同士が、
どう折り合いをつけるか。

その対話でもあるのです。


まず整理されたのは、
言葉でした。

一九八〇年、
ISO 6078。

茶の用語集が作られます。


ここでは、

black tea。
green tea。
flavour。

など、
茶に関する言葉が、
世界共通語として定義されました。


その後、
今度は、

「どう淹れるか」

が標準化されます。


ISO 3103。

紅茶の標準抽出法です。


どの温度で。
どれくらい蒸らし。
どんな器を使うか。

それを統一することで、

世界中で、
同じ条件で比較できるようになったのです。


そして二〇二三年。

ついに、
お茶の分類そのものが、
国際規格として整理されました。

それが、

ISO 20715。

茶の分類規格です。


ここで重要なのは、

お茶を、
「加工工程」

で分類していることです。


緑茶は、
初期段階で酸化を止める。

白茶は、
自然な変化を中心に作る。

烏龍茶は、
部分的に酸化させる。

紅茶は、
十分に酸化させる。

黒茶は、
微生物発酵を伴う。


つまりISOは、

味やイメージではなく、

「どう作ったか」

を共通言語にしたのです。


これは、
六大茶類を、
そのまま翻訳したわけではありません。

文化的な分類を、

世界中で共有できる、
科学的な言葉へ、
組み替えたものなのです。


ただし、
標準化には、
難しい面もあります。


たとえば、
プーアル茶には、

生茶。
熟茶。

という違いがあります。

しかしISOでは、
どちらも、
まとめて dark tea とされます。


つまり、
世界共通語を作る代わりに、

地域ごとの細かな違いが、
見えにくくなることもあるのです。


それでも、
共通の分類がある意味は、
とても大きいのです。

それがあることで、

違う国の人たちが、
同じお茶について、
話せるようになるからです。


標準化とは、
違いを消すことではありません。

違いを理解するための、
共通の地図を作ることなのです。


六大茶類が、
文化の産物だとするなら。

ISO体系は、
文明の産物なのかもしれません。


お茶はかつて、
「道」でした。

そして今では、
世界共通語になろうとしています。


その背後には、

科学。
文化。
言葉。

そして、
人が自然をどう理解するか。

そんな思想が、
静かに流れているのです。


くまのひとりごと(案)

くまは、
ISOの文章を初めて見た時、

「こんなに静かな文書なのか」

と思いました。

そこには、
感情的な表現は、
ほとんどありません。

でもその代わり、

「世界中の人が、
同じお茶を、
同じ言葉で語れるようにしたい」

という、
静かな意思を感じました。

しかも面白いのは、

世界共通語を作ろうとすると、
逆に、
文化ごとの違いが、
はっきり見えてくることです。

紅茶。
black tea。
黒茶。
dark tea。

同じお茶なのに、
色の感じ方まで違う。

そこに、
人間の文化の面白さを、
くまは感じるのです。