聞く紅茶教室
第86講 黄茶と青茶
偶然が生んだ茶、職人が育てた茶
こんにちは、森のくまです。
前回は、緑茶と白茶についてお話ししました。
若さを閉じ込めた緑茶。
そして自然に委ねる白茶。
今回はその続きとして、黄茶と青茶の世界を訪ねてみましょう。
まずは黄茶です。
おそらく日本では最も知られていないお茶かもしれません。
実際、中国茶に興味のある方でも、飲んだことがないという人は少なくありません。
黄茶は、緑茶とよく似たところから始まります。
摘み取った茶葉を加熱し、酵素の働きを止める。
ここまでは緑茶と同じです。
ところが黄茶には、その後にもう一つ工程があります。
それが中国語ではモンホアンと呼ばれる工程です。
茶葉を軽く湿らせた状態で包み、しばらく休ませます。
すると葉の内部で、ごく穏やかな変化が起こります。
緑茶の鮮やかな若さは少し落ち着き、
代わりに柔らかな甘みや温かみのある香りが生まれてくるのです。
くまは黄茶を飲むたびに、
秋の日差しを思い出します。
春の緑茶が若葉だとすれば、
黄茶は少し成熟した木漏れ日のようなお茶です。
面白いことに、この黄茶は偶然から生まれたとも言われています。
緑茶を作る途中、
少し作業が遅れてしまった。
すると、本来とは違う香りを持つ茶ができた。
しかし人々は、それを失敗とは考えませんでした。
むしろ新しい魅力として受け入れたのです。
茶の歴史には、こうした偶然の発見がたびたび登場します。
人間は失敗から学ぶ生き物ですが、
お茶もまた、失敗の中から進化してきたのかもしれません。
さて、次は青茶です。
青茶と言われてもピンとこない方が多いと思います。
しかし烏龍茶と言えば、ほとんどの方がご存じでしょう。
青茶とは、烏龍茶のことです。
青茶は緑茶と紅茶の中間に位置します。
完全に酸化させるわけでもなく、
まったく酸化させないわけでもない。
その中間を狙うのです。
葉の縁だけを少し傷つけ、
部分的に酸化を進める。
この絶妙な加減によって、
花のような香りや果実のような香りが生まれます。
中国福建省には鉄観音があります。
現地ではティエグァンインと呼ばれています。
台湾には凍頂烏龍があります。
さらに日本では、とうほうびじん、と呼ばれることが多い、東方美人という有名なお茶もあります。
どれも同じ青茶ですが、
香りも味わいも驚くほど違います。
そして青茶を語るうえで欠かせないのが焙火です。
焙火。
つまり焙煎です。
火を使って茶葉を仕上げる工程です。
しかしこれは単なる乾燥ではありません。
火加減によって、
香りは果実のようにもなり、
木のようにもなり、
蜜のようにもなるのです。
まるで職人が香りを設計しているかのようです。
私は青茶を飲むたびに、
お茶作りは農業であると同時に工芸でもあると思います。
茶畑で育てるだけでは終わらない。
最後は人間の感覚と経験が味を決める。
そこに青茶の魅力があります。
黄茶は偶然が生んだお茶。
青茶は職人が磨き上げたお茶。
同じ茶葉から生まれながら、
その歩んだ道はまったく異なります。
しかしどちらも、人と自然が対話した結果として生まれたお茶なのです。
次回は、世界を結んだ紅茶と、長い時間を味方につけた黒茶についてお話ししましょう。
それでは、また次回お会いしましょう。