聞く紅茶教室
講義時間:7
第87講 紅茶と黒茶
世界を結んだ茶、時間を育てる茶
こんにちは、森のくまです。
前回は、黄茶と青茶についてお話ししました。
偶然が生んだ黄茶。
そして職人の技が磨き上げた青茶。
今回は、世界でもっとも有名な茶の一つである紅茶と、長い時間を味方につける黒茶の世界を訪ねてみましょう。
まずは紅茶です。
おそらく世界で最も広く飲まれているお茶と言ってよいでしょう。
紅茶の特徴は、茶葉を十分に酸化させることにあります。
茶葉は深い色へと変化し、香りも豊かになります。
カップに注がれた紅茶は、美しい紅色を見せてくれます。
中国ではこれを紅茶と呼びます。
一方、英語ではブラックティー。
同じお茶なのに名前が違うのは面白いですね。
中国は水色を見て名付けました。
西洋は茶葉の色を見て名付けました。
それぞれの文化の見方の違いが表れているようです。
さて、紅茶の歴史を語るとき、いくつかの名前が登場します。
ダージリン。
アッサム。
セイロン。
紅茶が好きな方なら、一度は耳にしたことがあるでしょう。
ダージリンはヒマラヤの麓で育ちます。
繊細で華やかな香りを持っています。
しばしば「紅茶のシャンパン」と呼ばれることもあります。
アッサムは力強い味わいが特徴です。
ミルクティーにすると、その魅力がよく分かります。
そしてスリランカのセイロンティー。
爽やかな香りと明るい味わいで、世界中の人々に親しまれています。
さらに現代では、ケニアやタンザニアでも多くの紅茶が作られています。
こうして見ると、紅茶は世界そのものですね。
くまは時々、紅茶の香りは文明の香りだと思うことがあります。
茶畑から港へ。
港から船へ。
船から世界へ。
紅茶は海を越え、人々の暮らしを変えていきました。
イギリスのアフタヌーンティーも、その一つです。
一杯の紅茶が、「午後四時」という時間そのものに意味を与えたのです。
紅茶は飲み物であると同時に、時間の文化でもあったのです。
さて、ここで話は大きく変わります。
次は黒茶です。
黒茶は、紅茶以上に時間を必要とするお茶です。
しかし、その時間の使い方がまったく違います。
紅茶は酸化によって完成します。
一方、黒茶は完成してからさらに変化していくのです。
代表的なのはプーアル茶です。
中国雲南省で作られる有名な後発酵茶です。
ほかにも六堡茶や茯磚茶などがあります。
黒茶では微生物が重要な役割を果たします。
茶葉を積み上げ、湿度や温度を管理しながら発酵を進める。
すると香りは穏やかになり、味わいは丸くなっていきます。
若い黒茶と熟成した黒茶では、まるで別のお茶のようです。
そして黒茶には、もう一つの顔があります。
それは旅の茶という顔です。
昔、中国の内陸部からチベットやモンゴルへ向かう隊商たちは、大量の茶を運びました。
長い旅の途中で茶は発酵を進めます。
そして到着したときには、出発したときとは違う味になっていたのです。
くまはこの話が好きです。
なぜなら黒茶は、人が作っただけでは完成しないからです。
時間が作り、
微生物が作り、
旅が作る。
そんなお茶なのです。
紅茶は世界を結んだ茶でした。
黒茶は時間を育てる茶でした。
どちらも同じ茶葉から生まれながら、その歩みはまったく異なります。
しかし、その違いこそが茶の豊かさなのです。
次回は、六大茶を香りの地図として眺めてみましょう。
緑茶の清香。
白茶の柔香。
青茶の花果香。
そして黒茶の陳香。
六つの茶が織りなす香りの世界をご案内します。
それでは、また次回お会いしましょう。