聞く紅茶教室
講義時間:約9分
第26講 アフタヌーンティーは、なぜ生まれたのか
アフタヌーンティー。
たぶん、
紅茶文化の中で、
いちばん有名な言葉かもしれません。
三段スタンド、
スコーン、
サンドイッチ、
そして、
午後の静かな時間。
けれど、
この習慣は
最初から、
「優雅な文化」として始まったわけではありませんでした。
始まりは、
もっと単純です。
お腹が空いた。
それだけでした。
十九世紀のイギリス。
上流階級では、
夕食の時間がどんどん遅くなっていきます。
もともとは、
夕方くらいだった食事が、
夜八時、
九時、
さらに遅くなることもありました。
社交。
舞踏会。
観劇。
そうした文化の影響です。
すると、
午後に、
空腹の時間が生まれます。
昼食は終わった。
でも夕食は遠い。
その、
「すきまの時間」。
そこへ、
紅茶と軽食が入り込んだのです。
ここでよく名前が出てくるのが。
ベッドフォード公爵夫人、
アンナ・マリア・ラッセルです。
彼女が、
午後に紅茶と軽食を取る習慣を始めた、
そう語られることが多いです。
ただし
現在では、
「発明者」というより、
この文化を象徴する人物として、
理解されることが増えています。
つまり、
一人の天才が、
突然作った文化ではなく、
いろいろな習慣が、
少しずつ形になっていったということです。
その中心に、
彼女の名前が残った、と
そう考える方が、
自然なのです。
やがて、
午後に紅茶を飲む時間は、
ただの軽食ではなくなっていきます。
友人を招く。
会話をする。
菓子を並べる。
食器を整える。
つまり。
「もてなしの時間」
になっていったのです。
ここで、
重要なのは、
アフタヌーンティーは、
「紅茶を飲む文化」ではなく、
「時間を整える文化」
だったということです。
どの時間に、
誰と、
どんな空気で、
どう過ごすのか、
そこに意味がありました。
そして、
アフタヌーンティーには、
独特の形が生まれていきます。
サンドイッチ、
スコーン、
ケーキ、
有名な、
三段スタンドですね。
しかも、
どれも、
会話を邪魔しにくい食べ物ばかりです。
片手で取れる、
重すぎない、
静かに食べられる。
つまり、
主役は、
食事ではなく、
「会話」だったのです。
食器も変わっていきます。
美しいティーカップ。
ボーンチャイナ。
銀のティーポット。
ティーナイフ。
ケーキスタンド。
紅茶は、
飲み物というより、
空間を演出する道具へ、
変わっていきました。
そして、
午後四時前後、
客を迎え、
紅茶を淹れ、
静かに会話を楽しむ。
その流れそのものが、
一つの「儀式」になっていきます。
ヴィクトリア時代。
アフタヌーンティーは、
イギリス上流社会の
完成された社交文化になりました。
でも、
ここが面白いのです。
始まりは、
「夕食までお腹が空く」
という話だったのに、
気づけば、
そこに、
階級。
作法。
食器。
会話。
そして、
時間の美意識まで、
入り込んでいったのです。
紅茶というのは、
本当に「時間を文化へ変える飲み物」
なのだと思います。
くまのひとこと
アフタヌーンティーは、
豪華なお菓子の文化、
みたいに見えますけれど、
本当は、
「午後をどう過ごすか」
の文化なのです。
何を食べるか、
ではなく、
誰と、
どんな空気で、
どんな時間を共有するか。
だから今でも、
アフタヌーンティーは
少し特別な感じがするのかもしれません。