聞く紅茶教室
講義時間:約8分
第27講 パーラーという外交空間
アフタヌーンティーが広がると、
イギリスの家の中にも、
少しずつ変化が生まれていきました。
それが、
パーラー
という空間です。
今回は、
この「部屋」の話をしてみましょう。
パーラー。
英語では、
parlour。
語源は、
フランス語の parler。
「話す」
という意味です。
つまり、
もともとは、
「会話をする部屋」
だったのです。
十九世紀のイギリス。
男性たちには、
外の社交空間がありました。
議会。
クラブ。
職場。
パブ。
コーヒーハウス。
そういう、
「外の世界」です。
けれど、
当時の女性たちは、
そうした場所へ自由に入ることができませんでした。
だからこそ、
家庭の中に、
別の社交空間が作られていきます。
それが、
パーラーです。
パーラーは、
ただの客間ではありませんでした。
そこは、
家の中にある、
「外向きの空間」
だったのです。
客を迎え、
会話をし、
紅茶を出す空間。
つまり、
家庭の中に作られた、
小さな外交空間だったのです。
ここで重要なのは、
パーラー文化を強く育てたのは、
中産階級だったということです。
貴族には、
もっと大きな社交空間がありました。
舞踏会、
晩餐会、
大広間などです。
けれど、
中産階級には、
そこまでの規模はありません。
だから彼らは、
家の中に、
「小さな上流階級」を作ろうとしたのです。
そこへ置かれたもの。
レースのカーテン。
磨かれた家具。
ティーセット。
銀器。
花。
それらは、
ただの飾りではありませんでした。
「この家は、
どんな教養を持っているか」
「どのくらい余裕があるか」
「どんな趣味をしているか」
それを、
無言で伝えるための道具だったのです。
そして、
この空間で、
特に重要な役割を持ったのが、
女性たちでした。
紅茶を淹れる。
菓子を整える。
客を迎える。
会話の空気を作る。
つまり、
家庭を代表する、
「外交官」
のような役割を果たしていたのです。
政治的な権力は持てない。
けれど、
家庭という空間の中では、
女性たちが社交を動かしていました。
だから、
紅茶文化というのは、
単なる飲み物の文化ではなく、
空間の文化でもあるのです。
どんな部屋で、
どんな食器を使い、
どんな距離感で座るのか、
そこまで含めて、
「紅茶文化」だったのです。
そして、
このパーラー文化が広がることで、
紅茶は、
上流階級だけのものではなくなります。
「上流らしさ」を、
家庭の中で再現できる、
その縮小版サロンとして、
紅茶は、
中産階級へ深く入り込んでいきました。
面白いですよね。
紅茶一杯のために、
部屋の意味そのものが、
変わっていく。
それくらいに、
アフタヌーンティーは、
強い文化だったのです。
くまのひとこと
パーラーは
単なる客間ではなくて、
「家庭の顔」
だったのだと思うのです。
どんな紅茶を出すか。
どんなカップを使うか。
どんな会話をするか。
そこに、
その家の価値観が全部出るのです。
だから昔のティーセットというのは
ただの道具ではなくて、
「この家は、
どういう家です」
と語る、
名刺みたいなものだったのかもしれません。