聞く紅茶教室

講義時間:約10分

第38講 イングリッシュ・ティータイムは輸出された

帝国が終わったあとも、紅茶は消えませんでした。

むしろ紅茶は、新しい役割を持つようになります。

それは、「イギリスらしさ」を世界へ見せる文化になることでした。

かつてイギリスは、広大な植民地を持つ帝国でした。

しかし第二次世界大戦のあと、その帝国は急速に解体されていきます。

植民地は独立し、世界の中での立場も変わっていきました。

そんな中で、イギリスは新しい形で「英国らしさ」を世界へ示そうとします。

そこで重要な役割を与えられたのが、紅茶でした。

ただし、ここで輸出されたのは、茶葉だけではありません。

輸出されたのは、「イングリッシュ・ティータイム」という文化そのものだったのです。

白いテーブルクロス。

銀のティーポット。

三段スタンド。

ボーンチャイナのカップ。

スコーン。

そして、ゆっくり流れる午後の時間。

それらすべてが、「英国文化」として演出されていきました。

この流れを象徴する出来事のひとつが、一九五一年の「フェスティバル・オブ・ブリテン」です。

これは、戦後復興の中で開かれた大規模な国家イベントでした。

そこでは、工業やデザインだけではなく、「英国の暮らし」そのものが展示されます。

そして紅茶の時間は、「英国らしさを見せる場面」として重要視されました。

つまり紅茶は、ただ飲まれるものではなく、「英国を見せる舞台装置」になっていったのです。

さらに、この文化は観光によって世界へ広がります。

イギリスを訪れた旅行者たちは、ホテルでアフタヌーンティーを体験しました。

リッツ。

フォートナム&メイソン。

そうした場所で紅茶を飲むことは、「英国を体験すること」そのものになっていきます。

ここで大切なのは、味だけではありません。

紅茶をどう飲むか。

どんな空間で飲むか。

どんな器を使うか。

その「形式」そのものが価値になっていたのです。

つまり紅茶は、「飲み物」から「文化体験」へ変わっていきました。

そして、このイメージは映画やドラマによってさらに強化されます。

貴族が紅茶を飲む場面。

静かな午後。

整えられたテーブル。

そうした映像は、「英国らしい暮らし」の象徴として世界へ広がっていきました。

たとえ実際に英国へ行ったことがなくても、人びとは「紅茶=英国らしさ」という印象を持つようになります。

ここで起きていたのは、とても興味深い現象でした。

アフタヌーンティーは、もともとイギリス国内の日常文化でした。

けれども世界へ輸出される中で、「英国の伝統文化」という物語が強化されていきます。

そして、その輸出されたイメージが、逆に「これこそ英国文化だ」と再確認されるようになっていったのです。

つまり紅茶は、「イギリスで行われているから伝統なのではなく、伝統として世界へ語られたから、英国文化として強く見えるようになった」とも言えるのです。

しかし、この時代の変化はここで止まりません。

紅茶は、さらに大きく姿を変えていきます。

それは、「ゆっくり味わう文化」から、「すばやく消費する商品」への変化でした。

そして、その象徴となったのが、ティーバッグです。

次に見ていくのは、「ティーバッグと大量消費社会」の時代です。


くまのひとりごと

ティータイム文化を
第二次世界大戦後のイギリスは
輸出してきました。

また、イギリスを訪れた外国人は
イギリスのホテルなどで
イギリス風のティータイムを体験することで
「イギリスらしさ」を楽しんだりしています。

そして時々耳にするのが
イギリスで飲んだ紅茶と
日本で飲んだ紅茶が違う
と、いう話です。

これは日本とイギリスでは水の質が違うので
同じ茶葉でもまるで違った
味や風味になるので、
当然の話なのです。

また雰囲気も味の記憶に影響します。
くまはイギリスでも日本でも
それ以外のどこででも
その土地の水に合わせて
おいしく飲むのが大切だと思っています。