第Ⅲ部 紅茶の味わい方
第37講

紅茶テイスティングとは何か -テイスティング入門(1)

読了目安:10分

学習目標

  1. 紅茶テイスティングの基本的な考え方を理解し、紅茶を「おいしい・おいしくない」だけでなく、香りの変化として観察する視点を持てるようになる。

3行まとめ

  • 紅茶は、味だけでなく香りの変化を楽しむ飲み物です。
  • テイスティングとは、紅茶を難しく評価することではなく、香り・味・余韻の動きを静かに観察することです。
  • 買うこと、保存すること、味わうことは別々ではなく、紅茶を理解するための一本の流れとしてつながっています。

この講義の問い

  • 紅茶を「味わう」とは、ただおいしいかどうかを判断することなのでしょうか。

紅茶を飲むとき、私たちはつい「おいしい」「飲みやすい」といった言葉でまとめてしまいます。

けれど、その一杯の中では、香りや味が少しずつ変化しています。

今回は、その変化を読むための入口に立ってみましょう。

序章 香りを読むという考え方

今回からTeaWorld流のテイスティングについてお話ししたいと思います。

実はこれを書くかどうか結構悩みました。なぜなら、くまのティスティングは誰かに習ったわけではなく、自己流だからです。だから、ワインのテイスティング(これはちゃんとやりました)とかが、多少混ざってしまっている部分はあるかもしれません。また、これを読んで「偉そうに色々書いているけどこの程度か」とばれてしまうかもしれないとも正直思いました。

でも、やはり、避けて通れないテーマなので、くま独自の部分が多分多いであろう「TeaWorld流のテイスティング」についてお話していきます。

またこのテイスティングについては、できるだけ細かく分けて、1回の分量が少なくなるようにしました。それは、どこからどこまでが1つの塊かが、わかりやすいように、ということと、あとから見返したり、1つ1つ実践していったりするのにその方が便利だと思ったからです。


1.紅茶は「香りの芸術」である

紅茶を味わうという行為は、実は「味」よりも圧倒的に香りの領域が支配します。

ワインやコーヒーと比べても、紅茶の香りは「変化の速度」が早く「構造」が繊細で「温度依存性」が強いのです。つまり紅茶は、香りの立ち上がりと変化を見る芸術品、と言ってよいのです。この捉え方を軸に置くと、

  • 香りが読めれば、紅茶の9割は理解できる
  • 保存の重要性が自然に分かる
  • テイスティングの技術が「香りの観察」へ統合される

という全体像が明確になります。


2.文化としてのテイスティング

本来、紅茶のテイスティングは専門職の技術であり「生産」「鑑定」「ブレンド」「貿易」といった文化の根幹を担うものです。つまり家庭での「おいしい淹れ方」とは全く異なる系統です。

しかし、ここが重要です。

この技術は、誰でも手の届くシンプルな原則の集まりであり、専門家だけの領域ではありません。Tea Worldの役割は、この技術を日本語の文脈に落とし込み、

  • 生活の中で
  • 誰でも
  • 無理なく
  • 「香りを読む人」に

なって頂くことだと思っています。


3.買う・保存する・味わうが一本につながる意義

紅茶が難しく見える最大の理由は、買う・保存・淹れる・味わうが別々の分野として扱われてきたことにあります。

しかし本当は、すべてが一本の線でつながっています。

  • どんな思想のメーカーが作ったか→「ブランドで買う」
  • どんな土地で育ったか→「産地で買う」
  • どのように光・空気・匂いから守るか→「保存」
  • 保存状態がどう現れるか→「香りの読み取り」
  • 香りからどんな淹れ方が最適か→「抽出」
  • 香りの変化をどう捉えるか→「テイスティング」

これがすべて一つの循環に収まり、最後に「読む力」として結晶します。「Tea World流テイスティング」は、この循環を初めて「日本語で統合した体系」になります。


4.香りの物語

テイスティングとは、香りの瞬間的な変化を観察し「物語」として捉える技術です。

  • 湯を注いだ瞬間の Top
  • 温度が少し下がった Middle
  • 最後の余韻で現れる Bottom

これらを一本のストーリーとして追うのが、TeaWorldの流儀です。

そしてさらに香りは「正確に表現される必要はない」と思っています。正確さよりも本当に重要なのは、

  • 自分だけの軸を持つこと
  • 自分の言葉で読むこと

です。そのための「語彙」「軸」「比較」「記録」を、このテイスティング編で体系化します。


5.テイスティングは誰にでもできる技術

テイスティングは才能ではなく、観察の順番さえ整えれば、誰でも身につく「技術」です。

  1. 香り
  2. 渋みの質
  3. 余韻

まずはこの3つだけ。この「3点セット」を捉えるだけで、劇的に世界が変わります。そしてその3点は

香り → 渋み → 余韻

の順で読むのが最も自然です。この序章の目的は、難しそうに感じられるテイスティングを
「最終的には生活技術になる」
というところまで引き下げ、誰にでも道を開くことです。

森のくまのひとこと

くまにとって「怖いテーマ」の始まりです。

なぜなら、くまの紅茶についての力量がだれにでもよくわかってしまうテーマだからです。

でも、逆に言えば、こういうテイスティングでも十分紅茶は楽しめます、という見本にはなると思います。

今日のポイント

  • 紅茶テイスティングは、特別な人だけの技術ではありません。
  • 大切なのは、正解を当てることではなく、目の前の一杯に何が起きているかを丁寧に見ることです。