香りの地図を作る-テイスティング入門(5)
学習目標
- フレーバーホイールや中心語彙の考え方を通して、紅茶の香りを整理し、比喩に頼りすぎず、他者と共有しやすい表現を選べるようになる。
3行まとめ
- 香りを表現するときは、思いついた比喩を並べるだけでは伝わりにくくなります。
- フレーバーホイールや中心語彙を使うと、香りの方向性を整理しやすくなります。
- 比喩は便利ですが、まずは香りの軸を見つけ、そのあとで補助的に使うことが大切です。
この講義の問い
- 香りを自由に表現することと、他の人に伝わるように表現することは、どう両立できるのでしょうか。
紅茶の香りを表そうとすると、果物、花、木、蜜、香辛料など、さまざまな言葉が浮かびます。
けれど、言葉が増えすぎると、かえって伝わりにくくなることもあります。
今回は、香りの地図を作る考え方を見ていきます。
4.フレーバーホイールの読み方
ワイン・コーヒーと同様に、紅茶にも香りのフレーバーホイール(香り地図)があります。
Tea World ではこれを下記の5分類に整理し、初心者でも迷わないTea World 独自の「中心軸のホイール」を採用しています。
Tea World フレーバー5分類
- 花(Floral)
- 果(Fruity)
- 樹木(Woody/Nutty)
- 蜜・甘さ(Honey/Sweet)
- 青さ(Green/Fresh)
ここに産地差を乗せると、読者は自然と「どの方向に香りが伸びる茶か」を認識できます。
後の「テイスティング軸」でこの分類が「軸」になります。
5.香り語彙の「中心」と「周辺」
香り語彙は無限に増えます。
しかし、紅茶では 「”中心語彙”だけ押さえれば十分」です。
中心語彙(迷わない語彙)
- 花
- 蜜
- 穀物
- 果物
- 樹木
- 青さ
- ロースト
- 熟成
周辺語彙(状況に応じて使う語彙)
- 柑橘(トップ)
- ベリー(ミドル)
- 熟果(ミドル〜ボトム)
- スパイス(ボトム)
- バター・乳(加工香)
中心語彙だけで「香りの方向」はほぼ説明できます。そこに周辺語彙を補助的な彩りとして使うのが Tea World 式です。
6.比喩の使い方と限界
香り表現で陥りがちなのが「比喩が暴走してしまうこと」です。
例:
「雨上がりの古い木造校舎の廊下」
「彼岸花が群生している湿った土の香り」
美しいけれど、一般読者には伝わりません。
Tea World では、比喩は「読み手に伝わる最小限」に留めること、を推奨しています。
もちろん比喩は悪くありません。ただし、軸と事実が先。比喩は後。
これが正しい順番です。
7.国産紅茶の語彙が難しい理由
国産紅茶は、多くの読者が最初に戸惑う領域です。
理由は大体次の3点です。
① 香りが「横に広い」
スリランカやインドのように「縦に伸びる香り」ではなく、複数の方向に「広がる香り」が特徴なのです。なので、語彙が散りやすくなります。
② 保存変化が早い
光・空気・湿度の影響を受けやすいため、香りの立ち上がりが一定しない点も挙げられます。なので語彙が安定しないことが多いです。
③ 処理技術が茶園で個性化している
日本は「茶園=ブランド」であり、加工の違いがダイレクトに香りに出ます。
ゆえに、「中心語彙」だけで読む、という Tea World 式が最も得意とするところとなります。
今日のポイント
- 香りの言葉は、自由であるほどよいわけではありません。
- 中心となる語彙を持ち、そこから必要に応じて比喩を足すことで、伝わりやすいテイスティング表現になります。
森のくまのひとこと
人が誰かに何かを伝えるためには「言葉による表現」が必要です。
紅茶のテイスティングも同じです。
テイスティングをしたらそれを表現することが大切です。
軸になる言葉と、補助的な比喩が表現には役立ちます。