第58講 / 全68講
現在の部 第Ⅲ部 紅茶の味わい方
全6部構成
  • 第Ⅰ部 紅茶の全体像
  • 第Ⅱ部 紅茶の選び方
  • 第Ⅲ部 紅茶の味わい方 今ここ
  • 第Ⅳ部 紅茶の淹れ方
  • 第Ⅴ部 紅茶の道具
  • 第Ⅵ部 紅茶の文化と未来
この部の講義
  1. 第37講 紅茶テイスティングとは何か -テイスティング入門(1)
  2. 第38講 観察という視点-テイスティング入門(2)
  3. 第39講 香りを言語化する-テイスティング入門(3)
  4. 第40講 紅茶のテクスチャーを読む-テイスティング入門(4)
  5. 第41講 香りの地図を作る-テイスティング入門(5)
  6. 第42講 初心者のための紅茶テイスティング-テイスティング入門(6)
  7. 第43講 テイスティングの基本手順-テイスティング実践編(1)
  8. 第44講 香りを読む順番-テイスティング実践編(2)
  9. 第45講 テイスティング軸を作る-テイスティング実践編(3)
  10. 第46講 Tea World フレーバーホイール-テイスティング実践編(4)
  11. 第47講 比較テイスティング-テイスティング応用編(1)
  12. 第48講 季節性(旬)-テイスティング応用編(2)
  13. 第49講 茶葉を読む-テイスティング応用編(3)
  14. 第50講 保存と味-テイスティング応用編(4)
  15. 第51講 テイスティングノート-テイスティング応用編(5)
  16. 第52講 メンタルノイズ-テイスティング応用編(6)
  17. 第53講 フレーバーティーのテイスティング-テイスティング応用編(7)
  18. 第54講 道具と水-テイスティング応用編(8)
  19. 第55講 紅茶を「読む」ということ-テイスティング応用編(9)
  20. 第56講 香りの紅茶の世界 理論編(1)2つの紅茶
  21. 第57講 香りの紅茶の世界 理論編(2)香りづけの文化史
  22. 第58講 香りの紅茶の世界 理論編(3)市販品の世界 今ここ
  23. 第59講 香りの紅茶の世界 理論編(4)精油の世界
  24. 第60講 香りの紅茶の世界 理論編(5)香りの方向性
  25. 第61講 香りの紅茶の世界 理論編(6)着香という文化的行為
  26. 第62講 香りの紅茶の世界 香りの紅茶を作る(1)基本思想
  27. 第63講 香りの紅茶の世界 香りの紅茶を作る(2)フレーバードティーを作る
  28. 第64講 香りの紅茶の世界 香りの紅茶を作る(3)センテッドティー
  29. 第65講 香りの紅茶の世界 香りの紅茶を作る(4)家庭で楽しむセンテッドティー
  30. 第66講 香りの紅茶の世界 香り文化の転換点
  31. 第67講 オリジナルブレンド 世界でひとつの香りを編む
  32. 第68講 オリジナルブレンド あなたの香りを創造する
第Ⅲ部 紅茶の味わい方
第58講

香りの紅茶の世界 理論編(3)市販品の世界

読了目安:8分

学習目標

  1. 市販のフレーバードティーが、食品用香料・茶葉の選定・香りの定着・品質管理によって作られていることを理解する。

3行まとめ

  • 市販のフレーバードティーは、香料をただ茶葉にかけただけのものではありません。
  • 香りを均一につけ、時間が経っても一定の品質を保つために、さまざまな技術が使われています。
  • 香りの強さだけでなく、茶葉との相性や保存性も大切な設計要素です。

この講義の問い

  • 市販のフレーバードティーは、なぜ袋を開けるたびに安定した香りを感じられるのでしょうか。

市販のフレーバードティーは、華やかな香りが印象に残ります。

しかし、その香りは偶然ついているわけではありません。

茶葉の選び方、香料の種類、混ぜ方、香りの定着、保存性。

そこには、香りを安定して届けるための工夫があります。

フレーバードティーは、文化であると同時に、技術でもあるのです。

3.市販品はどう作られるのか

「安全な香りづけ」の仕組み

市販のフレーバードティーは、どれも均一に同じ香りがして、品質も安定しているように感じられます。しかしその裏には、食品としての安全性を確保しながら、紅茶の香りを長期間保つための非常に高度な技術が使われているのです。ここでは難しい専門語を避けつつ、家庭のセンテッドティーとは全く異なる「工業的香りづけ」の仕組みを見ていきます。


1.市販品は「香りの付着」と「香りの保持」を両立させる技術

市販の香りづけには、基本的に食品用香料(FoodFlavor)が使われます。これは食品添加物として厳しく管理された香料で、

  • 緻密な成分分析
  • 安全性評価(急性毒性・慢性毒性)
  • アレルゲン表示
  • 食品衛生法の基準値

などをすべてクリアしたものだけが使用されます。
茶葉に香りを付ける際の目的は2つだけです。

(A)香りを均一に付ける
(B)香りを長期間保持する

紅茶は乾物なので、ミスト状の食品用香料を微量(0.05〜0.2%)だけ付着させ、ドラムの中で全体に均一化します。

香りを吸いにくいリーフにも、微粉の多いものにもムラなく付着するように、分散性と揮発性を細かく調整した香料を使います。


2.香料はほんの「一滴」も強烈に香るよう設計されている

「香料」と聞くとドバっと入れるイメージがありますが、実際は1kgの茶葉に対して0.5〜2g程度です。これは香りの成分が非常に高濃度な「方向性の塊」だからです。

  • フローラル
  • シトラス
  • ウッディ
  • スパイシー
  • バニラ系
  • ベリー系

など、香りの構造ごとにまったく異なる成分構成を持つ「調香」が行われます。


3.香りづけの工程 「均一化・定着・安定化」いう3プロセス

工業的フレーバードティーは、次のような工程で作られます。

1°ドラムに茶葉を入れる
ステンレスの大型ドラムが一般的です。

2°ミスト状の香料を微量噴霧
液体ではなく、霧状です。香りが一点に集中しないようにするためです。

3°ゆっくり攪拌し、香りを均一に付着させる
回転速度や時間も決まっています。

4°定着
香料の軽い成分を飛ばし、重い香りのみ残して「方向性」安定させます。この工程があるため、市販のフレーバードティーは開封直後から安定した香りがするのです。

5°熟成(休ませる)
香りが茶葉に浸透・拡散する時間を取ります。ここを省くと「香りのパワーにムラ」生まれます。


4.ベース茶葉の選び方も技術のひとつ

実はメーカーは香りづけに使うベース茶葉を香りとの相性で選びます。具体例は以下のようなものがあります。

  • 柑橘・ベリー→クセのないブロークン
  • フローラル→中国紅茶やキャンディ
  • スパイス→アッサム(重さが合う)
  • ウッディ・スモーキー→キームン系

紅茶の「性格」理解しているからこそ、香りが最も美しく乗る茶葉を選べるわけです。


5.なぜ市販品は安定しているのか?

香りの「揮発と酸化」コントロールしているから、です。食品用香料は、光・酸素・湿度に弱い成分をあらかじめカットしたり、置き換えたりしています。つまり

  • 家庭でやるとすぐ飛ぶ香り
  • 市販品は長く残る香り

になるのは、香料側の化学的な設計の違いからくるのです。


6.なぜ家庭で精油を使ってはいけないのか?

市販の香りづけの安全性は「食品用」であることによります。

  • アロマ精油は「雑貨」
  • 医療用精油は薬理作用が強すぎる
  • 食品用精油は安全性・濃度・揮発性が規格化されている

だから、紅茶に使っていいのは食品用だけ、という非常に明確な線引きがあるからです。


7.フレーバードティーは「工業技術の結晶」である

つまり、市販品の香りづけは

  • 化学
  • 調香
  • 香料化学
  • 食品衛生
  • 食品工学
  • 設備工学
  • 茶の物性理解

等のすべてが組み合わさった専門技術であり、

手作業で真似してはいけない
そして真似できるものでもない

森のくま

というのが基本的には正解です。ただし、まったく「できない」わけでもありません。それについては次回お話しします。

森のくまのひとこと

市販のフレーバードティーは「技術の塊」です。

くまは昔、食品香料の会社で共同研究をしていたことがありますが、本当にすごい技術でした。

香りと素材(茶葉)との相性など計算に計算をされつくされているのです。

香料は文化を背負った化学技術なのです。

今日のポイント

  • 市販品では、食品用として管理された香料が使われます。
  • 香りは茶葉全体に均一につくように調整されます。
  • ベース茶葉の種類によって、香りの乗り方や印象が変わります。
  • 香りを安定させるには、定着・熟成・保存の管理が必要です。
  • よいフレーバードティーは、香料と茶葉のバランスで成り立っています。