オリジナルブレンド 世界でひとつの香りを編む
学習目標
- この講義では、紅茶のブレンドを「感覚」だけではなく、「香り・味・コク」という三つの要素から整理して考えられるようになることを目指します。
- また、紅茶の香りづけについては、Tea Worldオリジナルの「森のくま三分法」という技法のそれぞれの特徴と役割を説明できるようになることを目標とします。
3行まとめ
- 紅茶のブレンドは「香り・味・コク」の三つの要素で考えると理解しやすい。
- 良いブレンドを作るためには、材料より先に「どんな香りの物語を作りたいか」を決めることが大切である。
- 香りづけには「ハーブブレンド」「センテッド」「香料含浸ドライ素材」という三つの異なる技法があり、それぞれ仕組みも目的も異なる。
この講義の問い
- あなたは、どんな香りの物語を作りたいですか?
- 朝の窓辺でしょうか。
- 雨の日の書斎でしょうか。
- 冬の暖炉の前でしょうか。
- 紅茶のブレンドとは、茶葉を混ぜる作業ではなく、ひとつの情景を香りとして形にする作業なのかもしれません。
「何を混ぜればおいしくなるのですか?」
ブレンドの話をすると、よくそんな質問を受けます。
けれど、本当に大切なのは材料ではありません。
まず決めるべきなのは、「どんな時間を飲みたいのか」ということです。
紅茶は、香りによって景色を作ることのできる飲み物です。
今回は、その景色の作り方についてお話ししていきましょう。
はじめに
紅茶の香りというものは、不思議なものです。
春の朝に開けた窓の空気を思い出させたり、子どもの頃に母がそばに淹れてくれた湯気を連れてきたりします。
茶葉そのものだけでも美しいのですが、そこにもうひとつの香りをそっと重ねると、紅茶は驚くほど表情を変えます。
今回はその「表情の作り方」をお話します。
難しい作法ではありません。
道具もいりません。
ほんの少しの好奇心と、自分の好きな香りを大切にする心があれば、それで十分です。
1.香りと味は、別々の「動き」をしている
お茶を飲む時、私たちはひとつのカップに向き合っているようで、実は三つの世界が同時に動いています。
(1)香りは「ふわり」と立ちのぼる
温度に合わせて立ち上がり、空気の流れとともに鼻へと届く。
香りは、最初の印象を決める役者です。
(2)味は「ゆっくり」と溶け出す
水に溶ける成分が時間と温度で変わり、甘み・渋み・深みを形作ります。
(3)コクは「粒の細かさ」で決まる
粒度が細ければ重く、大きければ軽やかです。
じつは、ブレンドの時にいちばん影響を受けやすい要素です。
この三つが同時に動いているからこそ、紅茶は「組み合わせると化粧のように変わる」飲み物なのです。
2.素材を選ぶ前に、ひとつだけ決めてほしいもの
ブレンドを始める時、
「どれを混ぜたら美味しくなる?」
と考える方が多いのですが、実は逆の順番のほうがうまくいきます。
それは「どんな香りの物語を作りたいか」を先に決めることです。
たとえば……
朝の空気みたいに軽くしたい
書斎のように落ち着いた香りにしたい
冬に飲む、深く甘い香りにしたい
柑橘をひとしずく垂らしたように爽やかにしたい
こうした「情景」が一つあるだけで、材料は自然と選ばれていきます。
3.茶葉の三役 ~香り・味・コク~
素材を選ぶときは「三役」を考えると迷いません。
香り担当
最初の印象をつくる主役です。
ニルギリ、ディンブラ、ライトな烏龍など、風が通るような茶葉が向いています。
味の芯
紅茶らしいリズムを与える中盤の役者です。
ディンブラ、キャンディあたりが適任です。
コク担当
全体を支える低音の役です。
アッサムCTCやルフナなどが頼もしい存在です。
この三つの役割が揃うと、ブレンドは驚くほど安定します。
4.黄金比は「70:20:10」
料理にも黄金比があるように、紅茶のブレンドにも基本の比が存在します。
- 主役:70%
- 補助:20%
- コク:10%
まずはこの比率で始め、味が薄いならコクを増やし、香りが物足りななら補助を増やすようにします。
ただそれだけで、初心者でも驚くほど美しい一杯が生まれます。
5.紅茶の「香りづけ三分法」
この章で書かれていることは、香料の専門書でも「紅茶文化の技法」として明記してあるものはありませんし、一般向けのハーブ関係書、紅茶関係書には書かれていない話です。
三つの技法
紅茶の世界には「香りの付け方が三つある」という秘密があります。
「混ぜれば香りがつく」と思われがちですが、実は技法が違えば、香りの動き方も、味の出方も、保存の仕方も、すべて別のものになるのです。
それを知らずにブレンドをすると、ほとんどの人が途中で迷子になります。
ハーブブレンド ~乾いた葉を入れて、一緒に飲む~
ミント、レモングラス、カモミールなど、乾いたハーブを紅茶と一緒に抽出する方法です。
実体が残る
味も香りも一緒に変わる
とても扱いやすい
飲むたびに温度とともに表情が変わる
暮らしに寄り添うやさしい技法で、家庭でのアレンジには向いています。
センテッド ~生花の香りだけを着せる美学~
すでにお話ししたように、これは、まったく別の世界です。
茉莉花茶(ジャスミンティー)に代表される、中国茶文化の「香りの作法」です。
- 生花(フレッシュ)を茶葉に何層にも重ねる
- 香気を吸わせ、花は取り除く
- 香りだけが茶葉に残る
- 味はほとんど動かない
つまり、これは「香りを着せる」技法なのです。茶葉にまとうジャスミンの呼吸は、一種の芸術作品と言ってよいでしょう。
香料含浸ドライ素材 ~香りを染み込ませ、見た目も飾る~
最後の技法は、現代のフレーバードティーに多く使われています。
- ドライの果皮や花片を準備する
- そこに香料を含ませる(化学的には「吸着媒体」)
- それを紅茶に混ぜる
- 香りと見た目を同時に作る
という順番で香りをつけるブレンド技法です。これは加工技術に近く、紅茶の香りの世界では実用性の高い手法です。
ただし、香りが飛びやすいので、保存は丁寧にする必要があります。
3軸の分離
以上をまとめると次のようになります。
「ハーブブレンド=ドライ」=ドライ抽出
森のくま
「センテッド=生花」=フレッシュ香気移し
「香料含浸=ドライに香料」=ドライへの香料固定
これを混同すると、香りの強さ・揮発・拡散・温度帯の理解が破綻します。
例えば次のような例です。
「ジャスミンティーのような香りが欲しい → ドライジャスミン混ぜた」
(よくある失敗)
→ 全く香りが出ない(理由:センテッドはドライで行わない)
紅茶書籍の99%がここを明確に書いていない
既存の書籍で
「センテッド=生花」
「ハーブブレンド=ドライ抽出」
「香料含浸=加工」
の三分法を明確に書いているものは、ほぼ存在しません。
と、謙虚な書き方をしましたが、たぶん1つもないです。
ここをはっきり分離して書いているのは「日本語初の体系」だと思います。
3軸はなぜ大切か?
簡単かつ明快にまとめます。
ハーブブレンド=味が出る(香りも付随します)
森のくま
センテッド=香りだけ出る
香料含浸=香りが先に飛ぶ
これがわかると、どのように役立つか、というと、以下のようなことがわかり、圧倒的にブレンドの失敗が減るのです。
- 比率を間違えず
- 温度帯を間違えず
- 保存を間違えず
- 期待する香りの方向を誤らず
という、初心者が一番失敗しやすい部分を予防できるのです。もっと言えば、これがわかっているだけで、あとは何回か自分でブレンドをしてみればすぐに中級者になれます。
6.三分法がなぜ今までなかったか
多くの本は「香り付け」を1カテゴリとして扱ってしまう
日本語圏の一般書はほとんどこうなっています。
- 香料
- センテッド
- ハーブミックス
を全部「香り付け」に入れて解説してしまっています。その結果、
- 生花センテッド(茉莉花茶の文化的中核)
- ハーブティー(乾燥素材を抽出)
- 香料含浸(加工技術)
がごっちゃにされて説明されるのが現状です。
食香料と茶文化が別の学問領域として扱われてきた
これはくまのように色々な分野に手を出している人は少ないので致し方ないことなのですが「お互いが専門外」という事情があります。
- 香料化学 : 食品香料の付け方(吸着媒体、拡散、揮発)
- 中国茶文化 : 生花センテッドの歴史と工程
- ハーブティー文化 : 欧州の薬草療法・ハーブ抽出の系譜
これらは学問領域が完全に別で、交差点を「橋として整理した」文献がないのです。
日本語圏の紅茶書籍は「輸入のまとめ直し」が中心だった
紅茶の本をたくさん読んでいると、特に古いものほど以下のような資料などからの情報の寄せ集めで書かれているものが多いです。
- 英国の紅茶文化本
- 中国茶入門書
- 日本のハーブ検定のテキスト
- 紅茶・食品香料のメーカー資料
その結果、体系化がなされないまま「繋ぎ合わせ」で説明されてしまったという事情があります。
「くまの三分法」は完全に独自の整理
こうした事情から、前章でご紹介した構造
A:ハーブブレンド(ドライ素材を入れて抽出)
森のくま
B:センテッド(生花を重ねて香り移し)
C:香料含浸ドライ素材(香料を染みこませて混ぜる)
これは、紅茶文化・香料化学・ハーブ抽出学の「交点」を一つに統合した体系になっています。
日本語圏に限らず、英語圏でもこの三つを「技法のレベル」で明確に分けた本は、実はほぼありません。
※ 香料化学の専門書には「吸着媒体としてのドライ素材」は当然ありますが、それを「紅茶文化の技法」として整理してはいません。
7.失敗しやすい落とし穴と抜け道
香りを混ぜる時、一番多い失敗は「欲張ること」です。
香りはひとつだけ主役に
ふたつ主役を置くと、互いの方向性がぶつかり、香りが迷子になります。
温度帯が違う素材は、比率を変える
たとえばニルギリとアッサムの組み合わせです。高温向きと低温向きは、ブレンドするとどちらかが死んでしまいます。
センテッドは「ドライで再現」できない
ドライのジャスミンを入れても香りは出ません。
これは誤解している人が多いので最後にもう一度書いておきます。
🧸くまのひと言
今回紹介した「森のくまの三分法」は完全に独自のものです。
でもコロンブスのなんとやらで、言われてみれば当たり前のことなのです。
でもオリジナルブレンドを成功させるにはこの「森のくまの三分法」と「三軸」の考え方がすべてといってもよいのです。
今日のポイント
- ① 香りと味は別々に動いている
- 香りは空気に乗って先に届き、味は時間をかけて抽出されます。さらにコクという第三の要素が加わることで、一杯の紅茶の印象が形作られます。
- ② ブレンドは「情景」から始める
- 茶葉を選ぶ前に、
- 「春の朝のような香りにしたい」
- 「書斎のように落ち着いた雰囲気にしたい」
- といった情景を決めることで、ブレンドは驚くほど作りやすくなります。
- ③ 香りづけには三つの世界がある
- ハーブブレンド、センテッド、香料含浸ドライ素材は、同じ「香りづけ」でも仕組みがまったく異なります。
- この違いを理解するだけで、ブレンドの失敗は大きく減ります。
森のくまのひとこと
今回一番のトピックは
「森のくまの三分法」の初公開と「三軸」の考え方です。
この2つを理解してもらえれば、
あなたの望む情景を生み出すことができます。