第59講 / 全68講
現在の部 第Ⅲ部 紅茶の味わい方
全6部構成
  • 第Ⅰ部 紅茶の全体像
  • 第Ⅱ部 紅茶の選び方
  • 第Ⅲ部 紅茶の味わい方 今ここ
  • 第Ⅳ部 紅茶の淹れ方
  • 第Ⅴ部 紅茶の道具
  • 第Ⅵ部 紅茶の文化と未来
この部の講義
  1. 第37講 紅茶テイスティングとは何か -テイスティング入門(1)
  2. 第38講 観察という視点-テイスティング入門(2)
  3. 第39講 香りを言語化する-テイスティング入門(3)
  4. 第40講 紅茶のテクスチャーを読む-テイスティング入門(4)
  5. 第41講 香りの地図を作る-テイスティング入門(5)
  6. 第42講 初心者のための紅茶テイスティング-テイスティング入門(6)
  7. 第43講 テイスティングの基本手順-テイスティング実践編(1)
  8. 第44講 香りを読む順番-テイスティング実践編(2)
  9. 第45講 テイスティング軸を作る-テイスティング実践編(3)
  10. 第46講 Tea World フレーバーホイール-テイスティング実践編(4)
  11. 第47講 比較テイスティング-テイスティング応用編(1)
  12. 第48講 季節性(旬)-テイスティング応用編(2)
  13. 第49講 茶葉を読む-テイスティング応用編(3)
  14. 第50講 保存と味-テイスティング応用編(4)
  15. 第51講 テイスティングノート-テイスティング応用編(5)
  16. 第52講 メンタルノイズ-テイスティング応用編(6)
  17. 第53講 フレーバーティーのテイスティング-テイスティング応用編(7)
  18. 第54講 道具と水-テイスティング応用編(8)
  19. 第55講 紅茶を「読む」ということ-テイスティング応用編(9)
  20. 第56講 香りの紅茶の世界 理論編(1)2つの紅茶
  21. 第57講 香りの紅茶の世界 理論編(2)香りづけの文化史
  22. 第58講 香りの紅茶の世界 理論編(3)市販品の世界
  23. 第59講 香りの紅茶の世界 理論編(4)精油の世界 今ここ
  24. 第60講 香りの紅茶の世界 理論編(5)香りの方向性
  25. 第61講 香りの紅茶の世界 理論編(6)着香という文化的行為
  26. 第62講 香りの紅茶の世界 香りの紅茶を作る(1)基本思想
  27. 第63講 香りの紅茶の世界 香りの紅茶を作る(2)フレーバードティーを作る
  28. 第64講 香りの紅茶の世界 香りの紅茶を作る(3)センテッドティー
  29. 第65講 香りの紅茶の世界 香りの紅茶を作る(4)家庭で楽しむセンテッドティー
  30. 第66講 香りの紅茶の世界 香り文化の転換点
  31. 第67講 オリジナルブレンド 世界でひとつの香りを編む
  32. 第68講 オリジナルブレンド あなたの香りを創造する
第Ⅲ部 紅茶の味わい方
第59講

香りの紅茶の世界 理論編(4)精油の世界

読了目安:8分

学習目標

  1. 医療用精油・食品用香料・アロマ用精油の違いを知り、紅茶に香りを加えるときに安全性を最優先に考える必要があることを理解する。

3行まとめ

  • 「天然の香り」だからといって、飲んでよいとは限りません。
  • 精油やアロマオイルには用途の違いがあり、紅茶に使えるものは食品として認められたものに限られます。
  • 家庭では、飲用を前提としない香料や精油を紅茶に入れないことが大切です。

この講義の問い

  • なぜ、アロマオイルや精油をそのまま紅茶に入れてはいけないのでしょうか。

香りの紅茶を作ろうとしたとき、精油やアロマオイルを思い浮かべる人もいるかもしれません。

しかし、香りを楽しむためのものと、食品として口に入れるものは別に考える必要があります。

自然由来であっても、飲用に適しているとは限りません。

香りの紅茶を楽しむためには、まず安全な線引きを知ることが大切です。

4.精油の世界

精油には「医療用」「食品用」「アロマ用」の三階層がある

フレーバードティーは、食品添加物として規格化された食品用香料(Flavour)を使って作られます。しかし「精油」といっても、実際には目的によってまったく別次元の3種類に分かれています。

紅茶に香りを付ける際、この違いを知っておくことは重要です。なぜなら、紅茶に使えるのは食品用だけであり、医療用もアロマ用も飲用としては不適切だからです。以下に、それぞれの領域を整理します。


1.医療用精油(MedicalGrade)

薬理作用を目的とした、最も厳格な精油

概要:医療用精油とは何か

  • 薬理効果を持つ重要成分が規定量を満たしていることが必須
     →「メディカルグレード」と呼ばれる品質基準をクリアする必要があります。
  • 医師の処方と薬剤師の調剤によって医療現場で使用される
     →一般販売されるアロマオイルとは全く違います。
  • 医薬品として扱われ、経皮吸収や経口摂取、坐薬などにも用いられる
     →用法・用量は薬と同様に厳格です。

この3点が特徴です。


医薬品としての位置づけ

フランスでは精油が医薬品として認められ、

  • 医師が処方し
  • 薬剤師が調剤し
  • 医療行為として使用される

という、日本で一般にイメージされる「香りによる癒し(リラクゼーション)」とは完全に異なる医療体系に属していて、極めて制度化された枠組みの中にあります。


厳格な品質基準(メディカルグレード)

メディカルグレードと呼ばれるためには、特定の薬理作用を持つ主要成分が規定量に達していることが必須です。

  • 成分比(化学組成)がロットごとに管理
  • GC/MS(成分分析)によって科学的に選別
  • 不純物の極小化

つまり、「自然に近い香り」よりも薬効の再現性が優先されます。


使用方法

医療用精油は

  • 吸入
  • 経皮吸収(塗布)
  • 経口摂取(飲む)
  • 坐薬として使用

など「薬としlist-blockて」用いられます。例えば以下のような例が挙げられます。

  • ラベンダー精油→手術後の不安・鎮痛
  • クラリーセージ→生理痛緩和(経口)

香りの強さ・揮発性・作用の速度は、食品用の香料とは「別の次元」にあります。


香りの特徴

  • 生の植物の呼吸に近い
  • 香りの立ち上がりが非常に早い
  • 揮発速度も速い
  • 繊細で複雑

成分分析だけ見れば圧倒的に「高品質」ですが、紅茶の香り付けに必要な安定性・残香性・安全性の軸とは次元が異なる世界です。


日本ではどう扱われるか

日本では、精油は雑貨扱いであり、医療目的での使用は法律により制限されます。フランス式メディカルアロマは、日本の「癒し目的のアロマテラピー」とは全く次元が違い、

  • 科学
  • 医療
  • 薬理作用

を基盤としています。


2.食品用精油(Flavour/食品香料)

飲用の安全性と「残る香り」のための設計

食品用精油は、市販のフレーバードティーや菓子・飲料で使われる食品添加物として最も厳しい安全基準を持つ香料です。

特徴

  • 食べて安全であることが最優先
  • 香りの方向性が明確で、安定している
  • 熱・光・酸素に強く加工されている
  • 香りの持続性が長い
  • 工業製品として均一な品質が出る

アールグレイの香りが「毎回同じ」なのはこのためです。紅茶の香り付けには、この食品用精油が最適化されているため、医療用精油よりも目的に合っているのです。


3.アロマ用精油(芳香用)

空間の香りを楽しむための精油

  • 香りを嗅ぐことが目的
  • 飲用は想定されていない
  • 規格は医療用より大幅に緩い
  • 品質差が激しい
  • 酸化した成分がそのまま残る場合もある

天然100%であっても、「飲める」という意味では全くありません。紅茶に使うことは絶対に避けるべきです。


4.三階層を比較すると何が見えるか?

以上で見てきたように精油には「医療用」「食品用」「アロマ用」の三つの階層があります。それぞれの目的と性質をここで整理します。


医療用精油(メディカルグレード)

項目説明
主目的薬理作用
香りの質生の植物に最も近い(非常に繊細)
香りの寿命極めて短い(すぐ飛ぶ)
飲用の可否医療体系により可能(日本では不可)
紅茶に使えるか❌(香りが繊細すぎる・濃度管理不可)

ポイント

  • 香りは美しいが、繊細すぎて紅茶には向かない。

食品用精油(Food Flavour)

項目解説
主目的食品用途の香りづけ
香りの質はっきり・安定(方向性が明確)
香りの寿命長い(揮発・酸化に強い)
飲用の可否◎(食品添加物規格を満たす)
紅茶に使えるか◎(唯一可能)

ポイント

  • 市販のフレーバードティーはすべてこれ。
  • 香りの保持力が強く、紅茶の香りづけに最も適している。

アロマ用精油(芳香用)

項目解説
主目的空間芳香・リラックス
香りの質多様・ロット差が大きい
香りの寿命中程度
飲用の可否❌不可(雑貨扱いで飲用前提なし)
紅茶に使えるか❌(飲用不可)

ポイント

  • 飲むための精油ではないので、紅茶に使うのは完全に誤り。

🌟総まとめ 紅茶に使えるのは「食品用精油だけ」

  • 医療用 → 生の香りだが繊細すぎる
  • 食品用 → 安定して紅茶に最適
  • アロマ用 → 飲用は完全にNG

この三層構造を理解すると「なぜアールグレイは均一な香りが出るのか」とか「なぜ医療用精油を紅茶に使ってはいけないのか」が一気に腑に落ちます。

  • Medical-gradeは薬効成分の純度を高めた香り
  • Food-gradeは安定性と均一性を優先した香り
  • Aroma-gradeは雑貨なので規制が緩い香り

という三階層の本質的な違いが、ここできれいに線引きされます。


5.紅茶との関係

使えるのは食品用だけ。医療用は「植物に近すぎて」使えません。紅茶に必要なのは

  • 飲用としての絶対的安全性
  • 加熱に耐える構造
  • 保存性
  • 香りが長く残ること

医療用精油は香りが繊細すぎて飛びやすく、濃度も強すぎて食品添加物規格から外れるため、紅茶には完全に不向きなのです。だからこそ市販のフレーバードティーは食品用香料のみが使われているのです。

森のくまのひとこと

くまは以前ハーブの実験農園を和歌山と茨城で運営していました。

そこではハーブティー用のドライハーブを作ったり、精油(エッセンシャルオイル)を作ったりしていました。

その頃、色々疑問だったのです。

同じハーブから同じように取り出しているのにハーブティーは飲用できて精油はなぜだめなのか?

そこで分析やそれに基づいた実験を繰り返して「精油は強力すぎる」ということを実体験として実感しました。

だから精油は紅茶に素人が使ってはいけないのです。

今日のポイント

  • 医療用・食品用・アロマ用では、目的も管理基準も異なります。
  • アロマ用精油は、香りを楽しむためのものであり、飲用前提ではありません。
  • 「天然」「100%」という表示は、飲んでよいことを意味しません。
  • 紅茶に使うなら、食品として安全性が確認された素材である必要があります。
  • 家庭では、果皮・果物・ハーブ・スパイスなど、食品として扱える素材から始めるのが安全です。